第32話 新しい家族
不安を抱きながらカルディアスに嫁いできたが、城で働く人たちは皆セレナに優しかった。
そして、初夜の日にルクスと交わした約束が知れ渡っているのか他の男性を勧められることもなく穏やかな日々が過ぎていった。
そうして一か月が経った。
毎朝の食事はジュストを含め、ルクスとその下の弟達三人というカルディアス皇族全員で取ることになっていた。
十九歳のルクスの下に、十七歳のフェリクス、九歳のノクス、八歳のマリヌスというメンバーだ。
ルクスとフェリクスは先の正妃イレーネ様の子で、下の二人はイレーネの死後に嫁いできた正妃の子だった。
一気に四人も弟が増えて、私には弟が五人もいるのよね・・・。
セレナは感慨深そうに増えた弟たちの顔を眺めながらスープを口に入れた。
ルクスのすぐ下の弟であるフェリクスは年の割には落ち着いた賢い皇子だ。
ただ、身体が弱く寝込むことが多いらしく線の細い華奢な印象がする青年だった。
ノクスとマリヌスは一歳差ということもあり、身体の大きさがさほど変わらない。
容姿も似ていて、いつも一緒に行動しているので双子のように見える。
ちょっと落ち着きがないが、元気いっぱいの子供達だった。
ジュストはセレナに負い目があるのか、朝食時もセレナとの会話はなく、食事以外は顔を合わせることもほとんど無かった。
ところが、その日珍しく食事の最中にジュストから話しかけられた。
「セレナ。カルディアスにもだいぶん慣れたと思うから、そろそろ皇帝としての職務を君に少しずつ教えていきたいと思っているのだが、どうだろうか?」
皇帝としての職務・・・
ルクスから知識として少しずつ教わっていたので、おおよそのことは理解している。
皇帝の最も大切な仕事は、東西横に広がる広大な国土に六か所設置されている精霊女王の石像に女王から引き継いだ皇帝の魔力を流し込み結界を作ることだ。
それにより北からの魔獣の襲来を防ぐのだ。
だいたい二か月ごとに各地の石像を回り、一年で六か所の石像に魔力を注いでいると聞いた。
定期的に魔力を補充しなければ結界が緩み、そこから大陸に魔獣が侵入してくるのだ。
結婚直後はバタバタするのを見越して、セレナが嫁ぐ直前にジュストが当面に必要な皇帝の仕事を片付けていてくれたのだろうと思っている。
おそらく他にもセレナの知らないところで助けてもらっているのだろう。
しかし、セレナはまだジュストを父と呼ぶことに抵抗があった。
初対面の日の印象が最悪だったことが一番の原因かもしれないが、彼を父と呼ぶことはレックスへの裏切りのように感じられるのだ。
職務の引継ぎをするということは、複雑な思いを抱く実の父と接触する時間が長くなるということを意味する。
「はい、大丈夫です。」
心の中のモヤモヤした思いを笑顔で隠し、セレナは返事をした。
ジュストはホッとしたような表情を浮かべた。
「ルクス。お前も一緒に来てくれ。石像への魔力の補充はセレナしか出来ないが、領主への対応などセレナのサポートをしてもらいたい。」
「わかりました。」
「今日はオストマルクに行く予定だ。第五セクターにある移動魔法陣を使う。食事が終わったら十時に第五セクターに集まってもらえるか?」
ジュストの言葉にセレナとルクスは同時に頷いた。




