第30話 半年間の蜜月
パーティーが終わり、ドレスを脱いで身ぎれいにした後、セレナは皇帝の寝室へと案内された。
部屋に入ると、既に支度を終えたルクスがベッドに腰かけていた。
二人はお互い複雑な表情を浮かべ無言で見つめ合った。
しばらくそうしていたが、やがてセレナがポツリと呟いた。
「隣に座ってもいい?」
「もちろんだ。」
ルクスは笑顔で答えた。
ルクスの隣に座り、すぐ横に座る彼を見つめると自然と涙が流れ落ちた。
「セレナ・・・」
ルクスは思わずといった様にセレナを引き寄せ抱きしめた。
ルクスの胸に顔をうずめ、セレナが呟いた。
「私、やっぱりあなたが好きなの・・・。」
その言葉を聞き、セレナを抱きしめる腕に力が入った。
「セレナ、僕もだ・・・。」
二人は無言で抱き合っていたが、しばらくしてセレナがルクスから身体を離した。
「お願いがあるの。」
ルクスはセレナを見つめ、先を促した。
「一年、いえ半年でいいの。跡継ぎのことを考えずに、今までのようにあなたと恋人みたいに過ごしたいの。」
ルクスは愛おしそうな表情を浮かべセレナの頬を撫でた。
「ああ、セレナのしたいようにしよう。」
「・・・跡継ぎのことはいいの?」
おずおずとセレナが尋ねた。
カルディアス皇族の切羽詰まった状況を考えると悠長にしている余地はないはずだ。
ルクスはフッと笑った。
「カルディアスの女帝という地位はセレナが思っている以上に偉大な存在なんだよ。一人でガリア大陸を守り、その運命を握っている。今、この皇城で働いている者にはすべての者に命を懸けた誓約をさせている。皆が君を守るし、君を支える。安心して自分の好きなように過ごしたらいい。」
セレナはぎょっとしてルクスを見た。
「命を懸けた誓約?」
「君が真の皇帝であることを誰かに話そうとしたり、君を害そうとしたりすると、その時点で呼吸が止まり命が終わるという誓約だ。」
その内容にセレナは青ざめた。
彼女を慰めるようにルクスがもう一度セレナを抱きしめた。
「長らく待ち望まれた女帝である君がいなくなればガリア大陸も終わる。君はこの大陸で最も尊い人なんだよ。」
ルクスの腕の中でセレナは彼の胸に顔を押し付けた。
「・・・でも、好きな人の子供を産むことも自由に出来ないのよ。」
この大陸の人間はみな聖教会に所属しているが、聖教会は兄弟姉妹での交わりを禁忌としている。
女神ガリアの怒りに触れるとされ極刑に処されるのだ。
「君が産んだ子は僕の子だ。父親が誰であれ、その子を愛する自信がある。それが可能であることは君も良く知っているだろう?」
父レックスのことを言っているのだろう。
「そうね。」
その日、二人は並んで同じベッドで休んだ。
常に不安は付きまとうものの、大好きな人が横にいることに幸せも感じセレナは目を閉じたのだった。




