第25話 ソレス
魔術による誓約を交わすと、それを破ると破った者に大きな代償が課せられる。
身体が常に痛むようになったり、起き上がれないほどの倦怠感に襲われたり・・・。
最も厳しいものでは、命を懸ける誓約もある。
誓約するのに本人の魔力も使用され負担となるものなので、滅多な事では行われない。
「そんな重大な内容なのか?」
ソレスが不安そうに尋ねた。
ヴィクトルは頷いた。
「お前が誓約は出来ないというなら、この話はなかったことにする。今、決めてくれ。」
ソレスは少し逡巡した後、もう一度尋ねた。
「何に関する話か聞いてもいいか?」
「姉さんに関する話だ。」
「セレナ様?」
ソレスは愛しい姫の名前を聞き、真剣な表情を浮かべヴィクトルを見た。
「わかった。誓約しよう。」
ソレスの了承を得て、二人は誓約を交わした。
誓約が終わると、ヴィクトルは少し気まずそうな表情を浮かべ話し始めた。
「姉さんの結婚が決まったんだ。」
その言葉にソレスの表情が一気に強張った。
「えっ?」
自分が知らないということは、相手はソレス以外の誰かだ。
「・・・相手は?」
暗い表情でソレスは尋ねた。
「カルディアス帝国のルクス皇太子だ。」
「カルディアスの皇太子?なんでまた、そんな方と?」
カルディアスの皇太子とは、このガリア大陸で最高権力者となることが約束されている人物だ。
「五百年祭でヴァレンティンに来られていたルクス様と出会ったんだ。二人共魔術が好きで、それがきっかけで交流するようになって恋に落ちた。」
「そんな・・・」
愛しいセレナ姫といつか夫婦になる。
それはソレスの長年の夢であり、叶えられるはずの夢だった。
「カルディアスの皇太子なんて勝てる訳がない・・・」
茫然と呟いたソレスは、ふと言葉を止めた。
「この話のどこに誓約がいるんだ?」
自国の王女が大国の皇太子と結婚する。
ソレス以外の者にとってはめでたい要素しかないはずだ。
ヴィクトルは暗い表情で母の過去や、帝国皇族の宿命や予言について真実を伝えた。
ソレスは目を見開いてヴィクトルを見た。
「それではセレナ様がカルディアスの皇帝になられ、マイラ様達を守るため血の繋がった弟君と偽装結婚されるということなのか?そんな・・・」
ヴィクトルが頷くのを見てソレスは茫然とした。
「いきなりそんな話をされて、昨日はひどく泣いてたけど。今朝、姉さんが自分で決めたんだ。俺たちは出来る限り姉さんを支えてあげることしか出来ない。」
「セレナ様・・・お可哀想に・・・。」
か弱い女性の身で、大陸の存亡を懸けた皇帝という重責をその身に背負わされ、実の弟と結婚することになるなんて・・・。
この話は確かに他に漏らしてはいけない誓約が必要な内容だ。
しかし。
「ヴィクトル。どうして、この話を俺に?」
表向きヴァレンティンの王女としてカルディアスに嫁ぐのなら、身内だけ知っていればいい話だ。
セレナが皇太子と恋に落ちたと言えば、ソレスは諦めるしかないわけで、わざわざ真実を伝える必要はないはずだ。
「カルディアス皇族の血脈を絶やさないため、姉さんはルクス皇子以外の男性との間に跡継ぎを設けなければならないそうだ。」
ソレスから表情が抜け落ちた。
やっとヴィクトルの意図が理解できたのだ。




