第23話 セレナの決断
ジュストと初めて会った翌日の朝。
セレナが目を覚ますと、そこは見慣れた自分の部屋のベッドの上だった。
ヴィクトルが運んでくれたのかしら?
泣きながら眠ってしまったからか瞼が重い。
セレナは身体を起こすと鏡を見た。
「やっぱり腫れてる・・・。」
両手で瞼を押さえると、思わずまた涙が溢れてきた。
声も出さず静かに泣いていると、しばらくして部屋の扉がノックされる音が聞こえた。
「はい・・・」
小さな声で返事をすると聞きなれた母の声がした。
「セレナ。私よ。」
「お母さま・・・」
「入っても大丈夫?」
「うん。」
セレナの返事を聞いてマイラが入って来た。
後ろにはレックスもいた。
昨日の返事を聞きにきたのだろうと思った。
まだ、何も決めてないのに・・・。
セレナはそう思い俯いた。
瞼が腫れ、今も泣いていたであろう娘を見てマイラもレックスも痛まし気な表情を浮かべた。
「セレナ。昨日レックスと話し合ったの。全ての事実を明らかにして、あなたが皇帝になりなさい。そして、セレナの気持ちが落ち着いてから好きな人を夫に決めればいいわ。」
セレナは驚いて顔を上げ、母を見た。
「えっ?」
それをすると父と母が聖教会に裁かれることになる。
場合によっては国王の地位を追われる可能性だってある。
「昨日あなたに言ったこと、無神経だとヴィクトルに怒られたの。ごめんなさい。私も気が動転してたのね。もとはと言えば、私とレックスが事実を歪めたからこんなことになったんだから、あなたがその尻拭いをする必要はないのよ。」
「お母さま・・・」
「レックスが教会の裁判にかけられたらヴィクトルが予定より早く王位を継ぐことになるかもしれないけど、覚悟は出来ているってヴィクトルも言ってくれたわ。」
枯れるのではないかという程流した涙がさらに溢れ出した。
ああ、私はこんなにも家族みんなに愛されて大事にされているのね。
レックスに至っては一滴の血の繋がりもないのに。
セレナは両親と弟の深い愛情を感じ、心が決まった。
「お母さま、お父さま。ありがとう。私、決めたわ。ルクスと結婚する。」
目には涙が浮かんでいるし瞼も腫れているが、すっきりした表情でセレナは両親にそう告げた。
「セレナ。私たちに遠慮する必要はないわ。あなたが一番自分にとって心地好く生きていけることだけ考えればいいのよ。」
「私には皆の前で皇帝として堂々と振舞うなんて出来ないわ。そんな教育も受けてないもの。だから表向きの仕事はルクスにやってもらった方がいいと思うの。」
「セレナ・・・」
娘の言葉は心からのものなのか、自分たちに気を使っているのか。
マイラは戸惑った表情でセレナを見つめた。
「私は嫌だと思う人と結婚なんかしないわ。大好きなルクスが傍にいてくれたら、私も頑張れると思うの。」
きっぱりとした口調でそう言った娘を見てレックスが頷いた。
「わかった。お前の意思を尊重しよう。でも、途中でつらいと思うことがあればいつでも私たちを頼りなさい。我々は家族なのだから。」
「お父さま・・・」
セレナは父に駆け寄り抱きついた。
レックスはそんな娘を愛おしそうに抱きしめ頭をなでた。
「マイラは私のことをただの幼馴染と思っていたが、私はマイラをずっと愛していた。急な妊娠に戸惑っていたマイラを見て、これは彼女を自分のものにするチャンスだと思ったんだ。セレナのお陰で私は愛しい女性と一緒になれた。お前が私とマイラを結び付けてくれたんだ。私はお前をずっと自分の娘だと思っていたし、娘としてお前を愛している。」
今なら、父の言葉を素直に信じることが出来た。
セレナは父の腕の中で無言で頷いたのだった。




