第22話 宰相ドミニク
常に冷静なドミニクが動揺し興奮していた。
両手で顔を覆い、天を仰いだ。
「ああ‼神よ、感謝いたします。神は帝国を見捨てなかったのですね!」
ルクスは目の前で大喜びするドミニクを他人事のように眺めていた。
ドミニクの反応が普通なんだろうな。
その皇女がセレナでなければ僕も同じような反応をしていたかもしれない・・・。
興奮が落ち着くとドミニクが不思議そうに尋ねてきた。
「殿下は先ほどから浮かない顔をされていますが・・・?」
「セレナは僕の恋人だ。結婚の約束もしていた。」
ドミニクはぎょっとした表情でルクスを見た。
「どういうことです?」
ルクスはヴァレンティンの五百年祭でセレナと出会い恋に落ちたこと、それを父に報告したこと、父がセレナに会いに行き自分の子だと確認したことを簡単に説明した。
話を聞き終わるとドミニクは何とも言えない表情を浮かべた。
「つまり、今はセレナ様がどの選択肢を選ばれるか待っている状況ということなのですか?」
ルクスは無言で頷いた。
ドミニクは戸惑いながらも言葉を続けた。
「では、セレナ様がどちらの選択肢を選ばれても大丈夫なよう準備をして参ります。」
「セレナはきっと影の皇帝になることを選ぶよ。優しい人だから、ヴァレンティンの両親を聖教会に差し出すようなことは絶対しないと思う。」
「殿下はそれでよろしいのですか?」
愛する恋人と形だけの夫婦となり、妻は別の男性の子を産むことになる。
そして自分は名ばかりの皇帝となるのだ。
ルクスが苦笑した。
「いいわけないだろう。でも、他に方法がない。」
ドミニクは沈痛な面持ちでルクスを見た。
ルクスが幼い頃から宰相を務めており、臣下という立場ではあったがジュストと一緒に皇子達の成長を見守ってきた。
主君の子だが、自分の息子のように大切に思っていたのだ。
呪われたカルディアス皇族に生まれ、重い宿命を背負わされた皇子が少しでも幸せに過ごせるよう心を砕いてきた。
それが、ここに来てそんな状況に陥るとは・・・。
ルクスの心情を思うと、それ以上声をかけることが出来なかった。
それから程なくして、文官が宰相であるドミニクを呼びに来た。
彼は気づかわしげにルクスを見た後、部屋を出て行った。
※
一人部屋に取り残されたルクスはソファに座り、ぼうっと天井を眺めた。
セレナは今どうしているんだろう?
きっと泣いてるんだろうな・・・。
今すぐセレナのところに行って彼女を抱きしめ慰めてあげたい。
でも、そんなことをしたらますますお互い離れがたくなるだろう。
ルクスは目をつむり、ため息をついた。
そうしていると、ふと初めてセレナに会った日のヴィクトル王子との会話を思い出した。
『私もセレナ様のような可愛らしい姉が欲しかったです。』
『あんな姉でよければ幾らでも差し上げますよ。』
まさか本当になるとはなあ・・・。
「なんであんな不吉な事を言ったんだろうな。」
ルクスは泣き笑いのような表情で呟いたのだった。




