第18話 会談後
「空間移動術か・・・。」
魔法陣も使わず無詠唱で消えたジュストを見て、レックスが驚いたように呟いた。
「ジュストは天才的な魔術師だったから。」
「マイラ・・・」
マイラの言葉にレックスが複雑な表情を浮かべた。
「誤解しないで。今は彼のことを何とも思ってないわ。久しぶりに会って懐かしさは感じてもそれだけよ。」
レックスはマイラを無言で抱きしめた。
夫の腕に抱かれながら、マイラがセレナに声をかけた。
「セレナ。今のあなたにこれを言うのは酷かもしれないけど、恋心は忘れられるわ。私もジュストと出会った時はこの人しかいないという燃えるような恋に落ちて、引き裂かれた時には死にたいとさえ思ったの。でも、レックスがお腹の子供ごと私を愛してくれると言ってくれて、今はレックス以外の人を愛することなんて考えられないもの。」
セレナは手を握りしめ、その話を黙って聞いていたが、母の言葉には賛同できなかった。
お母さまは別れてからずっとジュスト陛下とは顔を合わせることも無く離れて生活していたのでしょう?
ルクスの妻として彼の側にいながら、他の男性との間に子を設けなければいけないセレナとはわけが違う。
そしてセレナの恋を一番身近に見守ってきたヴィクトルには姉の心情が手に取るように分かった。
「姉さん。一度休んだ方がいい。部屋へ送るよ。」
ヴィクトルはセレナの肩を抱き、声をかけた。
ヴァレンティン王族を守り、大陸を救うには姉が選べる選択肢は一つしかない。
ただ、これほど傷ついたセレナに今追い打ちをかける必要はないだろう。
母がまた余計なことを言う前にヴィクトルはセレナを部屋から連れ出そうと思ったのだ。
弟の優しさを感じ、セレナは感情が溢れ出すのを止められなくなった。
「うわーん。」
子供のように大声で泣き出したセレナをヴィクトルが困ったように抱きしめた。
そんな娘に何と声をかけてよいのか分からず、マイラとレックスも立ち尽くすしか出来なかった。
それからしばらく後。
急に襲い掛かった大きな心労と泣き疲れたこともあってか、セレナはヴィクトルの腕の中で眠りに落ちた。
ヴィクトルはそんな姉を抱き上げ、複雑な表情を浮かべながら両親に告げた。
「姉さんを部屋へ連れて行くよ。姉さんとルクス皇子は本気で愛し合っていたんだ。でも、姉さんもきっと自分がどうすべきかなんてことは分かってる。母上も余計なことは言わない方がいいと思う。」
息子の言葉にマイラは俯いた。
「ええ、そうね。ごめんなさい。不用意なことを言ってしまったわ。私もあまりに急なことで気が動転していたみたい。」
母も大きな衝撃を受けたのは確かだろう。
ヴィクトルはそれ以上何も言わずに、眠る姉を抱え部屋を出たのだった。




