1ヶ月過ごしてみて
こちらの世界に来てから1ヶ月。
「コータローさん、そろそろ晩御飯ができますよ」
僕はあのままアリスの家でお世話になったままだ。元々どこへ行こうか決まってなかったわけだし、正直ここから出ていくのが名残惜しくてアリスにお願いして住まわせてもらってるわけだ。勿論何もしないことは無いよ?
先ずは当然の事だけど薬草類の栽培。種をまいて聖域を発動させ、翌日に収穫する。そしてまた種をまいて聖域を発動させ翌日に収穫とその繰り返しである。
普通なら植えてから成長させるのに数日かかるところをたった1日で、しかも良質な物を収穫できる。この薬草で作ったHPポーションや毒消しポーションは1個当たりの価格が以前の物よりもほんの少し高く売れている。個数が増えている上に売りに行く頻度も増えているものだから、アリス曰く僕の分の生活費が増えたことを鑑みても生活が裕福になってきているそうだ。
因みにポーションを売りに行くのは主にこの近くのベントという街の冒険者ギルドだ。そこで纏めて買い取ってもらい、さらに冒険者達に売られていくらしい。ここでの交渉も最近は僕が担当している。どうやらこの世界では獣人を始めとした亜人種は忌み嫌われているらしく、獣人だとバレたら多分今後ポーションの買い取りはして貰えなくなるだろうとの事だ。だから態々バレるリスクを背負ってアリスが行くよりは、新顔とはいえ僕が出向く方が安全だろうと話し合った結果だ。最初はアリスの見様見真似だったけど、そこのギルドマスターが良い人で割とすんなりと慣れることが出来た。
そして僕が冒険者ギルドに出向いてる間にアリスが種や食材を買っておき、それぞれが終わったら合流して2人で家に戻る。それが最近の街での僕らのルーチンワークだ。
「分かったよ。直ぐに片付けるから」
そうそう、それとポーションの作成も手伝い始めたんだ。最初はアリスに教わりながらだったけど今では僕だけでも作れるようになってきた。今みたいにアリスに料理を作ってもらっている間にも僕がポーションを量産できれば僕たちの暮らしが良くなっていくわけだからね。おかげでいつの間にか僕にも≪調合≫のスキルが手に入っていたんだ。
「今日はお肉が安かったので、香草と一緒に焼いてみました」
ここから出ていきたくない理由の一つ、それがこのアリスの手料理だ。どうやら彼女の料理の腕はスープだけでなく肉料理や魚料理でも遺憾無く発揮されるようで、僕の胃袋は完全に彼女に掴まれてしまった様だ。
「うん、今日の料理も美味しいよ」
出されたハンバーグを一口食べたらほら、すぐに顔がにやけちゃうんだ。彼女の手料理を食べると笑顔が我慢できなくなる。全くもう、最高だね。
「ありがとうございます」
嬉しいからか照れた表情で彼女の耳がぴょこぴょこ動く。本当にに可愛らしいなこの娘は。
この1ヵ月で1番変わったのは僕たちの関係性かもしれない。夕飯の後に2人でのんびりと会話をするんだけどそれが効果的だったのか、お互いに心理的な壁がほとんど感じられなくなっていたからね。
その中で彼女の過去の話も聞かせてもらえたんだ。この時一緒に教えられた事だけど、人間に獣人が虐げられているこの世界では酷い話だとただ楽しむ為だけに獣人狩りをする輩もいるらしく、彼女の両親はそんな心無い人間に殺された可能性が高いそうだ。ただ当時アリス本人は生まれて間もなく物心ついておらず、運よく殺されずに生き残っていた所をこれまた人間に拾われ育てられてきたらしい。
「私にとって親と言えば≪おばあちゃん≫ですから」
物心つく前だったので両親の顔すら覚えていないアリスにとってはそのおばあちゃんとやらが唯一の家族だったそうで、彼女はアリスを自分の家に招き入れしっかりと育て上げたのだ。
アリスはおばあちゃんから色々教わったそうで文字や簡単な算数、この世界の常識、一般的な礼儀作法。当時自分だけで作っていたポーションの作成も手伝わせ、中でも家事は徹底的に仕込まれたそうだ。
『家事が人より飛びぬけて出来れば、それだけでお前の人生の役に立つ筈さ』
とはおばあちゃん談だそうで。まだ見ぬアリスのおばあちゃん、あなたの思惑通り(?)アリスさんには胃袋を掴まれ放してもらえそうにありませんよ。
けれどもそのおばあちゃんは3年程前に大きな仕事があるといって出て行ったきり帰って来ていないらしい。大勢の人間がいるから獣人であるアリスを連れて行くわけにはいかないし、かといって帰ってこれるかもわからない。そう言った彼女にはこうなる時が来ることがわかっていて、それまでにアリスが一人で生きていけるようにいろいろと教えていたのかもしれない。
今いるこの家はそのおばあちゃんの物で、フード付きのローブは別れる時におばあちゃんがくれたものだともアリスは教えてくれた。まるでおばあちゃんとの思い出を思い出して懐かしむように。
さてそんな話をされてしまったんだ。僕だけ語らないのはアンフェアだろう。というか僕だけ秘密を保持して語らないのは何というか、その、心苦しいものがある。
というわけで僕も異世界から飛ばされてきた事を彼女に伝えることにしたんだ。最初は彼女も信じられなかったみたいだけどいろいろと話していく内に信じてもらえたみたいで、一番の理由はこの世界の人間の常識というか、考え方が全然違うらしい。
ケモ耳を見て可愛いといったら異世界人認定か。全く、この世界の人間は何も分かっちゃいないな。
それから僕らはこれまでいろいろな話をした。彼女とおばあちゃんの思い出、僕の世界の話。その日街で見かけた物や薬草などの栽培の事。生活に関わる事からくだらない事まで出関係なく話題が尽きることは無い。1ヶ月しかたっていないはずなのにまるでずっと一緒にいた兄妹の様な不思議な感覚(どうやら彼女は数え年14歳らしい)。そんな感覚をいつ覚えたのかはっきりとした日時は覚えてないけど、その辺りから僕は≪アリスさん≫ではなく≪アリス≫と呼ぶように変わっていったのである。




