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リトルオーガ in カレイドスコピカレード  作者: 雲渚湖良清
幼児の章【三】 青い児鬼とカラクリ魔人
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セイルは願った

 セイルと虚栄のグウェリを核としたであろう、赤青(まだら)な迷彩配色の全身甲冑をまとった異形の騎士。それは一応、人の形を成していた。

 しかし明らかに人族とは言えない要素も多く含まれていた。

 まず解りやすいのは背にある一対の翼である。蝙蝠の被膜のようなデザインの翼は、ドラゴンであった時のグウェリの物とそっくりな皮翼である。空を舞うための器官ではあろうが大気をはらむという構造で無いのは明らかで、ピクリとも羽ばたく動きすら無しに、ただ赤い色の波紋の如くな魔力の波動を放つ事で、騎士の身体を空中に固定しているようであった。

 次に目立つのは成人男性以上のゴツイ体格を成すシルエットと、筋肉の作りを再現したかのような“五肢”であろう。一般的な四肢の配置に加えて背後の腰部。ワニの尾の如きなデザインの五本目の腕が伸びているのだ。先端はしっかり手首であり、左右対称(シンメトリ)な鉤爪付きの六本指が備わっていた。

 飾りでないのは確実で、指は関節を解すかのようにギッチギッチと異音つきで動かされ、手首そのものもブラブラを揺らされている。勿論、尾のような腕も波打つ蠕動的な動きをしていた。


 最後の異質さは、その巨体だ。

 宙に浮いているため解り難いが、身長は軽く四メートルを超えている。それはもう、人族に与する種族のどれにも当てはまらない要素である。むしろ、そんな巨体は魔族の方に近い要素だ。

 だがそれを認識した『理のグウェリ』には見事に当てはまる存在がある。つい先日まで、愛しい幼子と共にいた場所なのである。ぶっちゃけ、母性限定での愛の巣とでも言って憚らない場所である。


「おのれ、セイルが鋼の玩具を模したか!」


 それは『殻徒』であった。魔力で動かす鋼鉄の巨大甲冑。異世界、地球の一部で一世紀にわたり渇望される巨大ロボットの片鱗。結果的に、人族が魔族に対抗するための最強武具となった人族の切り札の一つ。

 つい先日、セイルのため、セイル専用として作られた雄牛の角を兜に頂く青い騎士を元として、ドラゴン的なアレンジデザインを配された姿が、この異形の騎士の正体であった。


(イスト)の瞳。炎熱のドラゴンである我の力すら退ける西の竜(ウェイド)の氷結の力。決して交じる事無き反する属性じゃが、セイルを介するとなれば問題は無いのう。我が直接どうこうは出来んが、セイルを守る上での剥き身の刃であれば好い。理の我、さあ我とセイルに刃向け、逆に切り捨てられるが良かろうよ!』

「うわ、グウェリ。この展開は予想外だよ!」


 魔力を素材と化したのか、竜化殻徒とでもいう存在の中は、殻徒と似てはいても違う質感であった。本来、セイルの五感とリンクする思考操縦なので呼吸を阻害しないしないなら完全密閉の空間であればいいだけのコクピットは、何故か透明なガラスの筒のような状態である。外からは見えないが中からは丸視え。いわゆる『オーラ○トラー』的な構造である。激しい挙動の慣性対処でハーネス固定されていた部分も、何の支えも無しに宙に浮くフロート機構となっている。

 どれもアニメネタでの知識はあるが、全く原理の解らない謎システムであった。


「(あ、いや、支えはあったよ)」


 この感触だけは本当の殻徒のと変わらない。今のセイルは浮きつつも背後からしっかりと抱かれている。虚栄のグウェリの両の(かいな)によって。

 存在が変質したとはいえセイルが得る感触は変わらない。後頭部に感じるクッション性は十二分に同等の物であった。


「坊っちゃんよう、男の性だろうが余裕ぶっこける状況じゃねーんでねえか?」

「あ、無事でしたかヨミスケさん」


 グウェリがセイルを抱くように、セイルの腕の中に抱かれたヨミスケ(ウサギ)も健在である。幸か不幸か、虚栄のグウェリが己の力をセイルを介して発揮するようしたために、すぐ傍に居ながらも害する意思を持つ魔力の餌食とはならなかったのである。

 正直、この状況までの流れでヨミスケの存在はすっぱりと意識から飛んでいたセイルは、内心のバツの悪さを隠して惚けるしかなかった。


『我が在り様の段取りでは、その悪魔こそが先ず焼く敵である。が、障害となる我が有る以上、その段取りを変えるのもやむ無しじゃ。商人、いやメフォス・トフィレスの真名を持つ魔族よ。お主は最後の獲物に変更じゃ、我と共に魔族の終焉を眺めるがいい』


 その言葉によって起こる殻徒の身動ぎ。まるでセイルが初めて乗った時のように、かなりギコチナイ人形じみた動きをもって、竜化殻徒は理のグウェリに対峙した。


「うわーっ、ちょっ、これ乱暴過ぎるっ!?」

「なんなんじゃーい!?」


 間接的にでも自分という存在を利用されたセイルには、虚栄のグウェリがどういう理屈でこの姿を成したかが解った。

 簡潔に言えば、グウェリ自らが存在の大半を武具化したのである。そして強引にセイルに装備させた。殻徒という形体を得たのは、セイルの無意識の領域に最強の武器という認識があったためである。グウェリの思考誘導によって危機感を刺激されたセイルがその最強を求め、浮かぶ思考の形の鋳型にグウェリ自身が同化して、実体化したわけである。

 既にセイルの力として固定されている氷結の力も、それに釣られる形で引き出された。いや、むしろそっちが実体化の主役とも言えた。その全体に網目の魔力を張り巡らせて、強引に共生する形となった故の、斑な色合いの外面なのである。


 そしてグゥエリが行動の主体を取れるのも、その実体化の仕方による。


 よく見れば全身の赤い色の部分が所々激しく瞬く。その瞬間にその箇所には小さく無い衝撃が発生し、反作用的に竜化殻徒が弾け飛ぶ。

 そんな行動が身体各所で連続して行われた結果、歪で予想不可能な軌道と取りつつ竜化殻徒が理のグウェリに突進していくのである。


「ふっ。ふふふる、超連続ロケット(フルバーニアンン)機動なんて、何処で知ったのさグウェリー!」


 上下左右に前後。ドガガガガと連続して感じる瞬間的な慣性衝撃は、例えコクピット内の空中に固定されてても減衰しきれない。あっと言う間に平衡感覚を麻痺化させられたセイルは完全に船酔い状態である。


 人型である必要すらない無茶な機動の質量突貫攻撃。内容的には戦闘開始冒頭のお子様喧嘩に似通ってはいるが、子供同士でやるのと片方がトラックに変じるのとでは内容は違う。

 竜化殻徒の全身から噴き上がる炎熱の魔力に反応して、その周囲では氷結の魔力も発されているのだ。ともすれば自壊にも取れる行動であり、被ダメージと認識してしまう氷結の武具の自衛反応なのだから、セイル自身にもどうにもならない反応である。

 そしてそれはつまり。

 突進される理のグウェリは天敵の魔力と相対するという結果になるのである。


『掠るだけでも致命の毒である。いや掠る必要すら無し。セイルの魔力はこの領界、理の我、領界(セイル)にあだなす我等、既に害なるモノじゃ』

「む、哀しいが事実。だの」


 突進を避けるしかない理のグウェリは、その視線を本体であるドラゴンへと向ける。

 昏倒状態で横倒しとなったドラゴンの身体には、自傷と再生を繰り返す魔術の拘束の他にビッシリと魔法的な霜が浮いていた。相反する魔法効果で水蒸気と化す現象となっているが、グゥェリとしての意識が途絶えている分、ドラゴンは徐々に凍って行く状況に見える。


「今更だけどね、僕の意識もそろそろ限界っぽいんですよね。ちょっとこの子供脳へのストレス半端無いし」

「おわっ、突然すぎっぞ、坊っちゃん」

「あー、なるだけヨミスケさんは結界で守る気でいますけど、意識無いままどこまで続けれるかは謎なんで、もしもの時はゴメンナサイ」

『くくく、セイルよ、どうせその悪魔は死なんのだ。そう気にする事は無いぞ。我も後回しと言いはしたが、早々に片付くのに越したことはない。ささ、安心して眠りや』

「ちょっ、オレよりよっぽど悪魔なセリフ吐くかよ、この姉ちゃんは!」


 領界の支配、氷結の武具の派生展開に大魔術の行使、そして一段落しての気の緩みからのどんでん返しな状況である。いい加減、四歳児の身体でしかないセイルには過剰な負荷が表面化していた。


「たぶん大丈夫―だと思うんですよねー。ほら特に意識してないけど、ドラゴンの方のグウェリとか隔離しようとしてるしー。うん、僕、人命は全世界に勝って尊いって思うイイヒトな類だしー。グウェリ同士の喧嘩だってホントは嫌なんだけど、もう最後まで行かなきゃギリしょうがないかなーっても思うしー。うん、今日の敵は明日の友なんだよー」


 船酔い効果が致命傷だったか、セイルの意識は急速に低下していた。

 もうすでに夢うつつ。セイル本人すら何を口走っているかも自覚していない。


『案ずるなセイル、我同士、相容れずに争い、滅ぼし合うがどちらが滅んでも我の滅びでは無い。主が目覚めた時には、再び、変わらぬ我がそばにおるよ』

「うん、ならいいやー。あー、じゃ、おやすみぃ。……あーう、もう、“本当の僕”なら……もう少し、ちゃんとやれたかもなのになあ……」

「坊っちゃん? セイル!? ああ、限界かよう」


 とうとう、セイルの意識は眠りに入った。幼児の熟睡である。例え文字どおり、天地が引っくり返ろうとも目覚めない事が確実であった。


『……さて、悪魔よ。セイルの加護無くなれば、覚悟は良いな?』

「ちくしょう……、しかたねえな」


 今この時も、竜化殻徒は理のグウェリに対して攻撃を続けている。触れれない、炎熱の魔法も防がれる状況に、理のグウェリの分が悪いは確実である。

 ただぶつかれれば良い。そう認識した虚栄のグウェリに、意識の焦点をヨミスケへと向けない理由は無い。

 眠りに入ったセイルがもしヨミスケの加護を解く事となれば、それはグウェリの中の虚栄の本質が見逃せない部分なのだ。即、その瞬間にコクピット内は太陽の中と同等となろう。


 だからこそ、見逃した。


 目の前の悪魔。相対する自分。それ以外の全てを意識の外に置いていた。

 だからこそ、魔力で成した鋼鉄の甲冑を貫き、首の皮一枚を裂いて通った巨大な剣身を、虚栄のグウェリは見逃したのである。


『なんっ……じゃ?』




   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆




 ふっとした、虚脱感とも解放感とも取れる感覚。

 意図せずに起きる、肉体の緊張を一瞬で手放した時の失神の感覚である。

 それはセイルが眠りに入った時でもあった。


(あー、限界来たかー!)


 突然の寝落ち。それは身体が若返った事を自覚してからは毎日のようにある感覚だ。特に精神の成人性をもってからは、半分は自覚出来ていても無視しがちの意識が勝ってしまっている。

 なんせ日々限界が変化するのである。いちいち子供の体力を計算しての行動など取れないのが本心であり、ならば、せめてぶっ倒れても問題が無い状況を作ろうという投げやりな気分で落ち着いていたのである。

 そして氷結の武具を得てからのセイルの意識は、かなり緩い自制となっていたのが実態であった。

 日常生活では全く問題無かったのも悪かった。そのツケが、結果的に今日の状況である。


(今にして思えば、ヨミスケさんからポーションとか買っとけば良かったんだよね)


 領主代行として温泉砦のバラック街に売られ始めた良質の薬の情報は知っている。売主がヨミスケであるのも、ほぼ推測の内だった。今日まで結構目まぐるしい展開だったが、その方面の予防線を考えなかったのは完全にセイルの失策である。


(まあその薬にユン○ルとかリ○Dの効果があるかは分かんないんだけど)


 子供の身体にとって、過剰なカフェイン摂取は毒である。

 それはさておき、寝落ちの状況には慣れているセイルだが、こうして夢の状況での思考をするのは初体験である。

 いわゆる白昼夢。前世では何度となくした記憶もあるが、それこそその状況に特化した有り様がほとんどで、共通する感覚すら持てない。

 正直、何故意識を保ち続けているのかもが謎であり、不安でしかなかった。


(今の僕は身体が無い。心だけの存在?)


 そこに不安を感じた途端、なぜか身体が出来た。

 視界に映るようになった自分の掌は、何故か懐かしくもあり違和感がありもする。


(願望が形になる? なら現実とか観れるのかな?)


 今度は明確に意識した願いだ。しかし思ってから躊躇う。夢ならば自身の事は自由になっても当然だろうが、現実の風景など、仮に観れても空想か妄想で映す代物だ。観てもしょうがない嘘の世界なのだから。

 しかし、叶った風景には妄想的な破綻は無かった。


(俯瞰……、はるか上空から観てるのかな? てかあれ、この感覚は知ってる)


 それはセイルが初めて領界を支配した時。箱庭にリアルなジオラマを作るイメージを得るため、ドラゴンの手を借りて遥か上空より眼下の大地を見下ろした感覚である。


(あの時のデジャヴ? いや、見える地形にダブるとこなんか無いし)


 妄想ならば、観る景色のどこかが現実に観た部分で補完される。

 眼下の大地に温泉砦と重なる部分は何一つ無い。むしろ、グウェリの作ったクレーターで傷つく様相がよりリアルであった。


(じゃ、これは夢じゃない? もしかして意識が領界に同化してるとか?)


 眼下の世界の一点に注目出来た。なにか小さい物同士が飛びかいながら争っている。確認するまでもない。一人は少女の姿のグウェリ、もう一人は、セイルを取り込んで殻徒の姿を得たグウェリである。


 それを自覚できた時、セイルの意識は領界の本能ともいえる部分をも自覚した。

 セイルの支配下となった事で人間的な生存本能を転写されたのか、領界はグウェリに傷つけられた環境の修繕にバニックとなっている状態であった。

 大地の再生に伴いその元凶であるドラゴン体のグウェリの隔離。とりあえずセイルの属性から対処して氷漬けにする方針である。しかしやはり相反する属性のせいで、工程は遅々として進まない。その原因の一つは、今も争う二体のグウェリだ。いまだに発散される炎熱の魔力で、周辺の空間が制御不可能なのである。

 しかし状況の変化は見て取れた。


(僕が寝たせいだね)


 竜化殻徒の反応が良くなっている。セイルの意識があるうちは、グウェリ同士を争わせたくないという意思が負荷となっていたのである。その負荷が消え動きに改善の要素が乗っている事で人形じみた物が人間的な動きになってきている。

 加えて。


(どうやら領界部分での僕はグウェリを敵って認識したみたいだ)


 領界を形作る魔力が、破壊の元凶であるグウェリが存在するのを害する属性へと変化していっている。例え領界からの干渉とはいえ、ドラゴンには無駄な抵抗の範疇だ。だが分身である二体には充分な脅威となっていた。

 そして現状でのそれは、一方的に理のグウェリへの不利となっている。

 この状況では早々、理のグウェリの消耗負けに繋がるのが確実だった。

 幼児の身体を手放す前にセイルは聞いた。『どちらが滅んでも……』と。確かに今争っているのはグウェリの分身でしかない。本体の解放が叶えば元通りというのは本当だろう。しかし同時にセイルは知っている。その可能性は限りなくゼロだとも、

 セイル自身が施した魔術なのだ。借り物とはいえ、威力と効果は把握している。


(グウェリという存在のほとんどは封印された。今意思を持ち、会えるのはその一部である彼女等だけだ)


 なんとかしたい。意識のみのセイルの本心であり、無力となった故の渇望である。


((──じゃあ、何とかすればいいじゃない──))


(へ?)


((──君は支配者。そして祝福されし者(ギフティス)で、この世界に縛れない人(ギブティス)なんだから──))


(でも僕、今は身体が、……無いし)


((──じゃあ何故、君は物を観れるの? 何故君は、あの子達の事を感じれるの? 今の君、本当に身体が無いの?──))


(それは僕がこの領界の支配者資格を持ってるだけで……、この領界を……あ!)


 唐突に聞こえた謎の声。自分の意識に被さるように響いた、どこか懐かしい声。

 それに導かれて得た事を、セイルは自然と成していた。

 そして、セイルは。

 自らの意識を乗せた身体を創造し、氷結の武具に纏って竜化殻徒に剣を刺した。


『これ……は?』


 魔力で構成されたが、鋼鉄の甲冑として形を持って存在する殻徒の身体。それを易々と貫いて二人のグウェリの間にセイルは浮かび立つ。

 ただ剣を振るったわけではない。グウェリを止める意味で出来る手段として、先程同様に魔力を変質させれる効果を乗せた効果つきの攻撃である。効果の内容は、虚栄としての在り様の変質。兎に角怒りの発露さえ止めれればいいので、どんな変質を遂げるかはセイルにも判らない一撃だった。


「主は……誰じゃ?」


 そして背後からは理のグウェリの困惑の声。


「何言ってんのグウェリ。僕に決まってんだろ……あれ?」


 出る声は幼児のものでは無かった。剣を握る自分の手、その甲は瑞々しい幼さを持つ形では無かった。


「その姿、氷結の武具であるな」

『その……魔力の色……、確かにセイルじゃの……しかし』

「ギフティスであるも確か。もしや主、ウェイドウの使いか?」

「だからグウェリ、僕はセイルだって……、あ、や、え、まさか?」


 振り抜いた大剣バージョンな氷結の剣。その鏡のような剣身に自分の姿を写してみて、セイルは驚愕する。


「うわっ、僕、いや俺、前の姿になってるとか!?」


 セイルは成長していた。いやもしかすると成長という言葉は違うかもしれない。何故ならその姿は青い鬼人では無いからだ。普通の人間、日本人、そして『鬼豆青涼(きず・せいりょう)』と名のっていた、前世の己の姿だったのだから。

 初めて自ら闘う意思を持ったセイルである。そのために適した姿を、少なくとも子供の姿よりは動ける身体を望んだのは確かだ。

 暴力を振るうのに大人の姿は必須だろう。だからセイルは何となく自分が成長した姿を創造したつもりであった。だから一瞬、その状況を無視もしたのだが、気付いてみれば肌の色は青く無い。体格にしても今まで見て来た大人達には遠く及ばない貧弱さである。しかし自分にはこれ以上無いほどに、しっくりと来る姿ではある。


「確かに慣れた身体っちゃあ身体だけどさあ、何しての俺!」


 争いを止めれたものの、セイルの内心は大混乱である。しかも意識の冷静な部分では、初対面な姿を警戒する二人のグウェリの心情が見てとれる。

 虚栄のグウェリから発散される怒りの感触は減ってはいたが、このままでは、単に自分が相手役に交代しただけで戦闘そのものは続くようにも思えた。

 せっかく得たチャンスのはずが一転、また別の意味で窮地という状況である。

 だが突然、この状況は終わった。いや、終わらせられた。


「なんじゃ!?」

『おおっ、この畏怖はっ……!?』


 天からの圧力としか言えないモノである。

 少なくとも、この場に居る意思ある存在の全てを畏怖させ、物理的に大地へと叩きつける強大な圧力をもった何か。

 強制的に、全員の意識に雪崩れ込んで掻き回す歓喜の意思。そう解釈するしかないモノであった。


『((──ああ! 青涼くんだぁっ!!──))』


 歓喜の意味を示す内容はそれだけ。何度も何度も、脳裏で繰り返される歓喜の意思。

 先程、ほんの少し対話を為した存在だと気づけたのはセイルのみである。しかし再びその意識を刈り取るような精神的圧力に、その存在の正体をと問うほどの気力すら消し飛ばされそうな状態であった。


 何時の間にか殻徒を成した魔力は霧散し、セイル、二体のグウェリ、そして青涼の身体となったセイルが大地に、大の字になって転がっている。

 一応、ヨミスケは存命していた。気絶後もセイルが結界を維持できていた結果である。


 焦り、争う意思を尽く磨り潰された全員は、ただ青い空を呆けて見上げる。

 やがてその視界に一つの影が現れる。逆光でただ黒く見えるそれは十字架のようなシルエットで、やがてそれは、波打ちしなって降りて来る。


「あー、なんか多分、本当に終わった感じかなあ……」


 その影の正体はセイルには見慣れた物だ。もっと近づけば影は赤い色合いなのだと解るだろう。長い首と尻尾、皮膜の翼と見分けられるだろう。

 そうドラゴンである。ただしグウェリではない。もう一体の、セイルが本当に初めて出会った炎熱のドラゴン、マリーンである。


 マリーンを呼ぼうと手を伸ばすセイル。その手はもう、懐かしい青涼の物ではなかった。何時意識が元の身体に戻ったかの自覚も無かったセイルである。


「うん、終わったー。ホントに終わったー! だからもう寝る、今度こそお休みーっ!」


 この場の誰にも理解不能な顛末である。

 しかし、セイルが再び気を失うその瞬間まで、この世界の一角は喜びのみを許された空間と化していたのであった。



〈青い児鬼とカラクリ魔人、~終わり~〉



さて、長々の続けてしまった三話目も終了。そしてセイルの幼児時代も終了です。

まだ伏線は色々置いたままですが、それは今後、何年何十年後まで引っ張る感じなのでアシカラズ。


次は『思春期の章』な感じの予定ですが、ちょっと無節操に展開した他のシリーズ物も片付けないと、な感じです。

なので開始は未定ということで。


もう幾つかは展開止めて削除もいいかなと思うのですが、まあ現状は放置な流れで……。


それと、幼児編でエピローグ的なものは幾つか予定しています。ちょいと投げ槍な感じですからw


ということで、ではでわ。



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