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リトルオーガ in カレイドスコピカレード  作者: 雲渚湖良清
幼児の章【三】 青い児鬼とカラクリ魔人
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虚栄は望む

 見た目は華奢な、それこそナイフとフォークくらいしか手にしないような儚げな美少女が、人間の力では到底持てない巨岩を片手で投げ放つ。または自分の身長の倍はある巨大な武器で鍔迫り合いをしたりする。

 セイルの中の青涼(せいりょう)の、かつて地球の人であった頃の記憶。更に掘り下げるなら、その記憶の舞台が幕張やらビッグサイトであった頃の、オタクな記憶。

 その、三途の川どころか転生後の記憶にまで持ってきた脳内極秘フォルダの中には、可愛い少女が勇ましく活躍する映像が主に二次元で保存されている。

 それが今、二次元じみた展開ながらも三次元で視界全体に展開されるのかと、現在進行形の惨状も一時置いといて淡い期待をしてしまった一瞬であった。


 眼前に生まれた太陽の如くな光と熱の塊。

 その疑似太陽は生まれては消え、生まれては消え。そのタイミングで何度も世界を破壊するような衝撃波をまき散らしている。

 その正体の二人の少女。元は共に同じ存在、ドラゴンから分かれた、似て非なる人型をした火炎の魔力である。

 ある意味神々しいとさえ言える姿の魔力は、その非なる在り様故に、争っていた。

 ……互いに、お互いに、その華奢で細い、可憐な指で、頬を引っぱりあって……。


 歪んでも可愛いものはカワイイのだとセイルは知った。しかし残念なものはどんなに素材が良かろうが残念なのだとも、セイルは知った。

 実によく伸びる頬だが当人達には痛みの源。目尻からこぼれ落ちる端で燃え消える涙を振りまきつつ、更に「はなふぁんか! わへっ」やら『わりゃほほ、ふぁなへー!』などと言葉の攻防も織り交ぜつつ、『理のグウェリ』と『虚栄のグウェリ』は闘う。

 頬を捻じられる痛みの限界か一端離れ、再び衝撃波と太陽を生んだ激突後は駄々っ子パンチの応酬である。ポカポカポカポカと擬音が立ちそうな絵面なのに効果音は『キュババババっ』と、すぐ目の前でジェットエンジンが噴かされたような代物だった。


「(まー、実際には生のジェットの音なんか聞いた事なんか無いけどねー……)」


 セイルとヨミスケは硬直状態である。

 眼前の攻防に唖然とする面もあるが、その脱力する内容の割に周囲に怒る破壊の嵐で、下手な身動ぎも出来ない。という実情である。

 特にヨミスケ。魔術の発動に使用した木の身体は、もう役目は果たしたと、とっくに灰塵となって燃え散っている。それ故に小動物なウサギでしかない身体をセイルに抱きあげられ、そのセイルの張る結界によって生を繋いでいるのだ。

 今セイルに見捨てられたら、秒殺という言葉も生易しいレベルでの瞬殺である。


「や、もしかしたらもうそれで良いかも?」

「坊っちゃん、んな物騒に事言うなって!!」


 少なくともヨミスケという存在は、このドラゴンVSドラゴンの原因の一端である。セイル自身にはもう共闘の必要も無くなっているので、つい楽な解決をと思いそうになっても仕方の無い事なのだ。

 そして何より。


「でもヨミスケさん、僕、あんなグウェリは見たくないんだよね」


 美少女が可憐なバトルを繰り広げるならセイルにも許容できるイベントなのだが、本気でマジなキャットファイトとなると微妙なのである。

 『ギャイイイイイイン!』とチェーンソーを金属に当てたような擦過音の元はどちらかのグウェリがもう一方のグウェリの顔面を思いっきり引っ掻いた音である。一瞬無残な傷跡が顔面に四本刻まれたが、一秒に満たない間で無傷へと戻る。

 セイルにとっては親愛なる対象同士が傷つけあう情景であり、正直、直視はしたくないのが本心だった。

 ならばここでいっそ、争いの原因であるウサギの犠牲も有りなのか? などと思うセイルなのである。


「どうせヨミスケさん、本当は死なないんですよね?」

「今オレが逝ったら次は魔族全部だろうが、そしたらちーっと洒落になんねーんだぞ!」

「まあ、なんかルールのある争いっぽいですから、もしかしたらノーコンテストな判定出るかもですけどね。その『イスト』って神様(?)から」

「それもあるかもだがよ。魔族が消えたら十中八九、天翼族が出張ってくるぞ」

「え?」


 天翼族。魔族の天敵にして、過去の歴史からすれば意思ある生命全ての天敵である。

 現在は魔族と天翼族の中心に人族の領界が存在し、人族の頂点である皇王が西の領界の境で合い対している筈の敵である。


「奴等が大人しいのは人族の向こうに魔族がいるからだ。人族の貧弱な身体を得ても、それじゃ魔族に対抗できねーってのが解るから、大人しくしてんだよ!」


 ヨミスケが言うには、人族そのものが天翼族弱体の鍵なのだと言う。

 人族にも魔族同様に個体差はある。その個体差は、時に魔族に対抗、時に上回る事もある。しかし総数的に観れば人族は魔族より弱いのだ。

 そんな弱い存在を宿主とすれば、天翼族が魔族に勝る可能性は皆無となるのである。


「で、でも天翼族って本来意識とか無いんですよね? ならそんな思考をしますか?」

「そこらの草木は物考えて繁殖すんのか? 例えしたとしても、オレたちに考えてるとか伝わってるか?」

「あ……。そうですか。確かに」


 知的生命の概念は有って無いようなものだ。もしかしたら有るかもしれないと想像できる状況的な証拠があろうと、それが本当に確実な真理なのかは、おそらく永遠に解らないのである。

 異種生命同士の邂逅には、決して超えれない理解の壁があるのだ。


「もの考えてようが考えて無かろうが、条件さえ揃えば奴等は動く。魔族という障害が無ければ、人族へ攻めるのを躊躇する理由も無くなるんだよ。奴等がそれを感知するのだけは確実だ、オレが保証してやる」


 そこまで言われて、その可能性を考えたセイルは否定しきれないのだと悟る。

 天翼族の情報をそう多くは知らないが、少なくともヨミスケの記憶の中の情報を裏付ける戦いの情景は浮かんで来る。


 視界の端では地形を変える規模で子供同士のマジ喧嘩が続いているが、その争いの結果によっては、その後の人族の存亡すらかかっている事実に戦慄するセイルであった。


 一方、その騒動の中心となった二人のグウェリも、その心中にはかなり切羽詰まった焦りがあった。


「分かち、争い、自覚出来たが、これはあまり時間が無さそうではあるな」

『然り、我もだ。我ドラゴンの欠片なるも、欠片故にドラゴンに遠く及ばぬ矮小さじゃ』


 無限の魔力の塊であった存在の自覚で動いたものの、二人のグウェリを構成する魔力は、本来のドラゴンと比べればゼロに等しい状態であった。一撃一撃の応酬で相克し合い減る魔力量は、このままのペースで続ければ半日と保てずに消費されつくすのを、実際に減る自分の存在から認識したのである。

 互いの髪を引っぱり合って空中を転がる、ある意味暴力的に愛らしい争いをしつつも情報を共有するのは、やはり元は同じ存在であるための性なのかもしれない。


「が、この千日手は我には好機じゃの」

『認める。我の願望はこの争いに非ず。故に成せぬままの消滅は不本意じゃ』

「なればどうする? 我、虚栄の我に折れる謂われは持たぬぞ」

『もとより承知。奇しくも放つ魔力の限界も同等。ならばこの千日手、その盤上から返させてもらおう!』


 一瞬の身の返しから虚栄のグウェリが態勢を変える。それまでの子供子供した動きを捨て、明らかな体術を臭わせる動きである。しかし理のグウェリにもまたその動きは存在し、反射的にだが充分対応可能な反応を取った。

 その結果、互いに両腕を頭上へ振りあげて、手の平と指すら絡めて握り合い、正面から相対するがぶりよっつの体勢にと固まった。

 また時間と魔力を消費するだけの相克状態。そう理のグウェリが判断する前に、新たな変化が追加された。


“ゴキリ、バキャン!”


 およそ人体が発する音では無い破壊音が鳴った。

 手を組み合った体勢から一瞬、虚栄のグゥェリは自らの腕を人体では不可能な方向へと、捻る。魔力が変化した姿とはいえ人の身体を模した以上構造は同じなのだろう。骨が砕け、筋肉が断裂する異音を立てると同時に、最後は結晶が割れるような破砕音を伴って千切れ飛んだ。

 そして、その動きに連動させられ、理のグウェリの腕もまた、無残な破壊の傷を負わされたのである。


「むっ、これは!?」


 破壊の程度は、若干ではあるが理のグウェリが軽微であった。骨が折れたものの腕そのものは無事。対して虚栄のグウェリは両腕自体の魔力構成が解けて全損状態である。

 共に致命的な問題では無い。ほんの数秒もあれば再構成可能な損害である。だからこそ、この状況が虚栄のグウェリの望むものなのかが、理のグゥェリには判断出来なかった。

 が、その判断は直ぐついた。


「そういう事か!」


 ほんの一瞬の停滞。時間の隙間のような一瞬。

 理のグウェリの隙をついた虚栄のグウェリは、その一瞬で力のバランスを崩す手段を手に入れたのである。


「うわわわわわっ!?」

『セイルよ、何時かの約定、今果たそう。我が力の全ては青き児鬼の玩具と成そう。して人族の悲願、魔族の殲滅、今、果たそうぞ!』


 目視の利く位置などグウェリにすれば一歩の幅も無い。理のグウェリの躊躇は虚栄のグウェリがセイルを抱く隙を与え、その宣言を許した。

 地上から遥かな上空に浮かぶセイルとグウェリは、宣言の終了と共に赤く燃えたぎる太陽と化し、その星が消えた跡には赤と青の入り交じる鎧を纏う、異形の騎士がそびえ立っていたのであった。




〈~続く~〉




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