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リトルオーガ in カレイドスコピカレード  作者: 雲渚湖良清
幼児の章【三】 青い児鬼とカラクリ魔人
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竜と巨人

気づけば半年過ぎでいたというw

 『虚空孕入道(こくうようにゅうどう)』と呼ばれた巨人は、基本の身体は魔族の一種族である巨人に近い。

 だが巨人種族の平均身長は6メートル程。ドラゴン形態のグウェリと同じという三倍近い全長であり、また頭部と手首から先が人に近いパーツでは無い“イソギンチャク”のような無数の触手で構成されているので、一目で巨人と判断するのはキツい様相と言えた。


 だがもし、今回セイルに同行した殻徒兵等の何人かが此処に居たならば、その巨人と実に良く似た物を見たと証言しただろう。


 それはセイルの父であるウルと対峙し、人族最強の巨大騎士『ギミロック』と対等に戦った異形の魔族と酷似した物だったのである。

 そして、その戦いの再現の如く、虚空孕入道は触手を伸び広げてグウェリへと襲いかかった。

 既にグウェリは雄叫びを上げて高温の場を作ろうとしている。その温度は一千度を軽く越え、鉄すら溶解させるものだ。触手の殆どはグウェリに触れる事無く蒸発していく有り様である。


 だが、幾本かの触手がグウェリに触れる事に成功する。そこから起きた変化は、実に劇的のものであった。


 魔力の変質。虚空孕入道が誕生した時にセイルが感じたような、自分の魔力を捩じ曲げられる現象が再び起こって、グウェリの魔力の場が変質したのである。

 通常では起こりえない高熱も、その源泉はグウェリの魔力だ。触手の触れた部分の小さな範囲は、『温度が下がって冷える』という工程を飛ばし、瞬間的に通常の温度へと変わる、有り得ない現象を顕現化した。


 そして幾ら魔法の超常が溢れる世界でも、その空間変化には通常の物理現象が伴う。

 高温度の気温差から来る爆発的な大気の変化は激し過ぎる衝撃波を生み、グウェリをその場から仰け反るらせる事となったのだった。

 このショックでグウェリは炎熱の空間を顕現しようとした魔力を手放したのだろう。周囲の気温は呆気ない程の速さで元に戻り、既に物理現象に変化した遠く離れた場所との温度差で、台風の直中のような暴風を引き起こしていた。


 正気を無くしていたものの、この反撃には驚いたのだろう。グウェリは『有り得ない』という感情を全身で表し、仰け反ったまま呆然として固まっていた。


 反対に、この状況を予測していた虚空孕入道は体勢を崩さないまま、更にグウェリへと接近する。そして再生させた触手を伸ばして全身に絡み付かせた。

 セイルにはその瞬間、グウェリからその存在を裏付ける魔力が恐ろしい勢いで減少していくのが判る。そして、減った魔力が猛烈な圧力を伴い、何故かセイルの魔力となって流れこんで来るのも解った。


「うわあ! 何だこれ!」

「済まんなっ、坊ちゃん! 他に適当な魔力の還元先がないんだ!」


 驚くセイルにヨミスケの謝罪が飛ぶ。それで、この状況がヨミスケの仕業と分かった。

 同時に余りに膨大な魔力の流動が、この行為の施行者であるヨミスケと、魔力の受け入れ役であるセイルとの部分的な意識の結合を誘発したらしい。

 漠然としたセイルの疑問に答えるように、セイルの脳裏には虚空孕入道の機能が流れ込んで来たのである。




◆  ◆  ◆




 ヨミスケが転生したのは、まだ人族の勢力は皆無であり、魔族と天翼族との戦争が続く頃である。当時は魔族が『個の力』、天翼族が『数の力』で互いを削りあう拮抗の時代であり、争いの終わりはおろか、僅かな変化も見いだせない時代でもあった。


 同じ“祝福されし者(ギフティス)”という境遇で、ハポリムとヨミスケは何か打開の術はないかと試行錯誤していた。幾つもの案を試し、失敗しの毎日である。

 その中で習慣付いたのは、夢想と妄想を得意とするオタクのハポリムがネタを出し、秀才肌のヨミスケが現実の物にしていくという役割分担である。


 虚空孕入道の原理も、その掛け合いの一つとして生まれた。


 発端は、天翼族の能力とは何か? という疑問である。

 他の生命に寄生し、操る事で思考と行動をする天翼族は、同時に寄生した者の魔力も操る。

 単に支配した者を操る事での魔力の発現ならば問題は無い。その肉体が持つ能力を利用する延長でしかないからだ。だが、天翼族は利用した魔力を使って自分達独自の魔術までを放って来る。

 そこには寄生した対象の魔力を天翼族用に変質させる工程があるわけであり、その工程を阻害出来れば天翼族の弱体化が可能なのでは? という案だったのだ。


 そしてヨミスケの研究は実を結び、この世界の生命の全ては、魔力を根幹に存在する概念を手に入れた。

 だが、天翼族への対抗となるような、画期的な可能性には結ぶまでに至らなかったのである。

 魔力を変質させる事には成功した。それによって、相手から魔力を奪う。またはその逆を行うのを可能には、した。

 だが致命的な欠陥を解消する事は出来なかったのだ。


 それは、能力を行使するには相手となる対象に接触するのが必須条件だったからだ。


 だがしかし、天翼族へ触れるというのは、絶対してはならない禁忌である。

 天翼族は他者に触れる事で寄生をするのだ。例え、既に何者かに寄生済みな個体でも、触れる事で“乗り換えられる”事も有るのは確認されていた。


 戦闘の役にたたない弱い者を生け贄役にして実験するも、天翼族にとっても弱い者に寄生するメリットは無いのだろ、近寄る前に射殺され、実験を確かめる事は出来なかった。

 かと言って、天翼族が寄生したがる強者を使うのは論外だ。失敗すれば魔族は戦力を減らす。成功しても、弱体化した魔族諸共、倒すしかないのだ。


 結局、虚空孕入道の原理は天翼族には使えない駄作として、千年の眠りにつく事になった。


 そして、最初に実戦に使われたのはドラゴンの絶対の魔力を何とかする為である。


 既に天翼族との戦争は、魔族の総数の減少によって沈静化しつつある時代だ。奇しくも、魔族が減った事で天翼族も寄生対象を減らす事となり、大規模に領界を奪い合う事が不可能となったのである。


 そして、そこに至るまでに魔族は一つの結論を出していた。天翼族に対抗、若しくは殲滅するには、圧倒的な破壊で消滅させるしかない。というものだ。

 天翼族とは強くなるも弱くなるも、相手次第の存在なのだ。下手に相手をする事自体が、悪手なのである。

 ならば初手で消滅させる。好敵手のように扱う必要は無い。蟻を踏みにじるように、欠片も反撃させない力を最初から使うしかない。

 そういう、結論であった。


 そして、その力を得る対象として選んだのが、当時、代替わりをしようとしていたドラゴンである。

 死しても魔力の塊であるドラゴンの身体。それを余さず利用し、天翼族を圧倒する力を入手しようと、魔力を一時的に無効化させれる技を日の目に当てたというわけだ。


 そうして入手したドラゴンの武装も、結果は次代のドラゴン、グウェリによって一掃されてしまったが。


 だが、この一件のお陰で、現在グウェリを押し留めている虚空孕入道が生まれたとも言える。


 最初のドラゴン戦では、ハポリム自身は既に魔王の座を降りて消えていた。そしてヨミスケは、魔族と人間の精神の融合により、本来の魔族には無い時間への“憂い”に苛まれていた。

 要は疲れていたのだ。人間の精神では、単純に何千年も魔族繁栄に邁進する気力を維持する事は出来ない。

 新しい発想の源泉であったハポリムが消えたのも、ヨミスケのとっては鬱の元だ。

 だが当時のヨミスケは、弱体化した魔族の再生を押し付けられる形で担当する役割であり、容易に『辞めた』と言えれる環境でもない。

 しかし精神的な限界を感じていたのも確かであり、この、魔族の戦力強化を最後に出奔する準備をしていたのだ。


 策は思惑どおりに進み、ヨミスケは自らグウェリに殺されたように見せかけ、蘇生先を細工する事で魔族を辞めた。

 その後は人間時代に途中放棄した知識の求道に明け暮れ、色々な魔術と技術を掛け合わせ、単なる魔術であった物を擬似生命にまで昇華させる手段まで得たのである。


 ドラゴンと互角に渡り合える虚空孕入道は、当時ハポリムが妄想したように、立派に天翼族へ対抗できる兵器として完成していたのだ。


 その虚空孕入道の機能とは、見てのとおり触れた相手の魔力を変質させ、移動させれるものである。

 全ての生命は魔力に依存する形で生きている。そしてその依存度は、存在の強さに比例して大きくなると言える。虚空孕入道に内包された魔術は、その魔力を根刮ぎ奪える結果に繋がるのである。

 特にドラゴンなど、生命活動自体を魔力で行う者には、天敵と言えるだろう。


 ただ、この魔術を仕込む擬似生命の生成には幾つかの難点も存在する。

 先ず、ヨミスケの意思に連動して動く操作系魔術。魔力変換の魔術。身体維持の魔術。と、複数の魔術を並列して内包しなければならない。

 それぞれの魔術は結合出来ないので、吸収する魔力の活用が出来ない。等だ。

 そして最大の難点は、吸収元と同容量の魔力の移動先を設けなければならない。という物だ。


 どうにも、電気と同様に、余りに大量の魔力は貯め込んで維持する事が不可能なのである。これはヨミスケの作成した魔術の仕様であって、魔力そのものに、そんな性質が有るとは限らない。

 この仕様の原因は、大きな理由としてはヨミスケがネタとして使ったハポリムの知識が関係する。先程“電気”と称したように、ハポリムは魔力を電気の変電機やバッテリーで利用するような空想に落とし込んでいたのである。

 その概念で作られた魔術なので、扱う方法も似てしまったのである。


 「(ああ、あの巨人は、雷を地中へ流す避雷針の“アース”のような存在なんだ……)」


 虚空孕入道に関係する過去や記憶を得たセイルは、使われた魔術の概念も受け取っていた。そして今、ドラゴンの生命としての魔力は、その魔力に見合う対象として領界の魔力に変換されて移動している。

 そしてその魔力は、現状で言うならば領界の支配者として管理出来るセイルの魔力だ。


「(……にしても、いくら領界でもドラゴンの魔力を受け止めきれる感じはしないよっ……う!)」


 セイルの感覚では、出血もしていないのに身体の中に緊急輸血を受けている用なものだ。血圧が急激に上がるように、内包する魔力の圧で脳がガンガンと頭痛に攻められている症状である。

 これは兎に角、何かに魔力を消費して圧を下げないと、セイルの意識が飛んでしまうという危機感が膨らむ。そしてセイルは、セイルにとっては有益となる事へと魔力の無駄使いを承知で大放出したのである。


 その結果。


「「「うわああああああああああああああああああああ!!!」」」


 領界の間際で男達の野太い大唱和が奏でられる。

 別に楽しかったり気分高揚していての発憤が理由では無い。

 いや、高揚はしていないが、“興奮”はしいていると訂正しよう。

 何故ならば、彼等は今、地上100メートル程の高さを猛スピードで滑空している最中なのだから。


 最初はセイルが作り上げた氷のドームに包まれ、巨大なカーリングストーンの如く地上を滑っていただけだった。だが領界の地面は大概が未整地の原野だ。山あり谷ありとまでは言わないが、平地は皆無に近いとは言える。

 なので、滑るには無理が有って当然だった。


 ところが、分厚い氷がギシギシと軋む音と共に変形し、やや細長い形に変わった途端、それまでのスピードを圧倒する速度へと上がっていたのだ。


 氷の中の者には把握出来ないことだが、この時、殻徒兵やギミロックを内包するドームは巨大な円柱形に近い形へと変わっていた。

 更に、地面にはその形状に合わせた“ガイドウェー”が形成されている。今やドームは、その上を滑り……、いや、その上を“浮き上がり”ながら、サイズを無視するかのように急加速を始めたのである。


 その動きは、正にリニアモーターカーの如く。である。


 セイル自身、リニアモーターカーの正確な構造や原理、機動システムなど知りはしない。極一般人の範疇で、磁性の反発と吸引を利用し、空中に浮いて高速で走る。その程度である。

 が、その単なる空想を魔力で強引に顕現化するのが領界の理でもある。

 軋む氷の圧力からは膨大な発電が行われ、それはドームとガイドウェーに同極の電磁性を与えた。ドームの変形は直ぐに終了し、反対に先へ先へと伸び作られるガイドウェーの変形は終わらない。

 故に、ドームを浮かす反発磁性とは別の吸引磁性が前方に発生し、ドームは摩擦少なく前へと移動する加速の手段を得た。

 その速度はおおよそ400キロメートル。本来のリニアモーターには及ばない速度ではあるが、この世界の人族が初体験する速度を生み出したのである。


 だが、氷の変化はまだ終わらない。


 領界、そして領域を貫いて一直線に伸びるガイドウェーは、その終端で斜め上への上がるスロープになっていた。

 今や完全な、先端を紡錘形にした円柱という、まるで超特急の先頭車両のようになったドームが再び変形する。

 ドームの両サイドが薄く刃のように伸びる。電磁力で浮き上がり、振動も無く安定した移動をしていたドームに、風の流れによる揺れが生まれて内部にまで響くビリビリとする振動を伝えた。

 やがてその振動は、ドームを上下に揺らすものへと変化する。徐々に揺れの幅ほ大きくなり、スロープを駆け上がりきった時点で、“ふっ”と、揺れが終わった。


 この時点で、ドームはリニアモーター車両の姿を捨てていた。

 先端は鋭い刃の先の如く、後端は両サイドが先細りで横に長く。まるで折られた“剣の先”である。

 そしてそれは、“デルタ翼”と呼ばれる翼の形態でもあった。


 微妙に変形する翼には徐々に揚力を生む力が蓄えられ、ガイドウェーから飛び出す寸前に巨大な物体を宙に浮かすだけのものとなる。

 速度と慣性も付加された飛ぶための力が解放されて、氷のドームであった物は、暫くは高く、高度100メートルを舞う避難船として完成したのであった。


「よっし! これでもう安全!」


 セイルがここまで異様な避難手段を使ったのには理由がある。

 勿論、グウェリから奪った使い余す魔力の無駄使いを含める上でだが、それでも、今後の状況を考えての仲間の安全性を優先した結果である。


 滞空中のドームは、このままでも滑空自体でこの領域から離脱出来るようにした。例え、グウェリの勢いが復活してもだ。寧ろ、また爆発的な炎熱の空間が現出するば、その勢いを受けてより遠くへと飛べる“凧”としても機能するデルタ翼仕様である。

 そして、最も魔力を注いで強化したのが、ドーム内の環境だ。

 氷の密度を高めた結果、やたらクリアーな透明度となって周囲の状況の目まぐるしい変化を中の人のリアルに伝え、精神に負荷をかける事になった。

 だが強度に関しては申し分無さ過ぎとなった。例えグウェリが殴って来ても、充分、耐えれるように出来た確信付きである。

 更に、これはもうセイル自身にも原理は解らない『人工重力』付きである。ドーム内の床に決めた場所は、ドーム自体がどう回転しようが“下”なのだ。

 これで中の機材が揺れに身じろぐ事はあっても、ミキサーに放り込まれたような事は起きない。感じる慣性も最小限に留まっていた。


 ただ、人族の多くは視覚や耳石で平行感覚を捉える。人族と混血化した青鬼人も同じ特徴を備えている。

 流れる線のような風景。ぐらんぐらんと揺れる波の上に居るような風景。更に雲の直中に突っ込んでは突き抜けるの繰り返しという風景は、ほぼ全員の体調感覚を破壊。まともに立つ事も出来ない状況に追い込んでいた。

 唯一元気なのは、やたら環境には順応性の高いダークエルフの双子のみである。


 着陸後暫くは戦力皆無になる事が確実だが、ドームの堅牢さで確実に護られる。人工重力は、墜落のショックを無効化する為の手段でもある。

 だから、もう心配は要らない。


 漸く、セイルの懸念の一つが、ここに解消したのであった。


「さてと坊ちゃん。オレの記憶から虚空孕入道の欠点、解ってんだろう?」


 セイルのタイミングを見ていたか、ヨミスケの確認が聞こえて来る。


「ええ、顕現化の時間制限、ですね」

「そうだ。魔力の変換自体にゃあ制限が無い反面、その魔力を虚空孕入道自体にゃあ使えねーんだ。なんせ元々、対・天翼族仕様だからな」


 魔力の関連性が有れば、そこから天翼族に虚空孕入道を利用されかれない。だから、使用する機能と身体の維持を、それぞれ独立した魔術のダブルスタンダード構造なのである。


「後、大体5分も保てばいい感じですか」

「だから坊ちゃんに入道の権能を譲る。入道に仕込んだ“もう一つの魔術”を、坊ちゃんの魔力で強化してくれねーか?」

「……それしか、方法が無いんですよね?」


 虚空孕入道の基本構造は変えられないが、それでも対・ドラゴン用に追加できた魔術もある。しかし新たに作った魔術では無い。過去に作った魔術の流用だ。

 如何にヨミスケが何千年の研鑽を経ようとも、そう都合の好い魔術が想像できるわけでは無い。

 だが……。


「まあ、アフターサービスだ。これから別の解決方法を考えてやるよ。それまでの繋ぎだ。元々殺せる相手でもねーんだから気楽に行け、気楽に!」

「……はい!」


 触手に組み付かれてもがくグウェリに、やるせない表情を向けたセイルは決断する。


 今は、兎に角今は、災害と化したグウェリを止めるしか無いと覚悟したのである。



〈~続く~〉





さて次はまた半年後かな? (待て


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