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リトルオーガ in カレイドスコピカレード  作者: 雲渚湖良清
幼児の章【三】 青い児鬼とカラクリ魔人
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サンマグリ、そしてアンマグリへ

「ま、オレも何でも知ってるってわけじゃねーんでなあ」


 ヨミスケはガイド役として先頭を走る獣働車から解放され、現在は騎獣機(ギミロック)を乗せて走る従者トレーラーに乗っている。

 この従者トレーラーは乗せる物が物だけに、かなり巨大な車両となっていて、尚且つ重量に負けない馬力と走破性を必要とする為に獣働車ですらない。

 機構的には壁級殻徒(ウォーラー)同様に魔蜃炉(ましんろ)で動く車両型の殻徒といっていい代物である。

 もっともそのような仕様となったのはプロトタイプ殻馬(からば)への魔蜃炉使用から来た仕様で、それ以前は獣働車に使用している魔物エンジン十二基を使用した超力技の産物なのであった。


 見掛けは十八輪トレーラーのようで有りながら、まるで長方形になったロケット発射台のガントリーのようなサイズである。

 それでいて最大スピードは騎獣機を乗せて尚三十キロを出せるという異常な馬力を有している。

 そしてその馬力を有効活用し、内装には移動基地といっていい施設を有していたりもするのだった。

 施設といってもその大半は輜重物資の収納であるが、補給部隊の詰め所的な物や怪我人の治療をする救護室なども設置してある。

 そして部隊指揮をとる指令所ともいう場所もあり、今ヨミスケはそこを間借りしているのであった。


「ですがまあ、我等の未支配地域全般に関してはメイ・フォレスト殿の方が知っているのですから、今日も色々と御教授願いますぞ。わっはっはっはっ」


 本来の乗務位置へと戻ったバリュートから、先日同様冒険者の知識披露を乞われるヨミスケであった。


 相変わらず熱苦しい環境には違い無かったりする。むしろ指令所だけあって聞き耳を立てる連中は更に多い。

 「今度はどんなネタがいーんじゃろか」と記憶の引き出しを検索しつつ、「じゃあ南方の方でも……」と、この部隊の行程には特に関係無い内容を開示する。


「(つかもう、なんの当り障りも無いネタがねーよ!)」


 自分のスネが傷だらけな事を改めて痛感するヨミスケなのである。



 ◆  ◆ ◆



 遥か遠くから眺めれば赤光に染まる魔族領域。

 しかしその領域内に入ってみれば、見た目の色合いは人族の領域と変化は無い。

 所々に独特の植生はあるものの、人族の領域とそう変化は無い景観が広がっている。


 その中にあって、魔族中央領界は魔王城だけは異様の一言に尽きるだろう。

 底の見えない奈落の空掘りから生える石造りの建造物であり、城塞という形ながらも上層が三つ叉に分かれた巨大な一本の塔とも言える様相は、遥か地の底から突き上げられた三叉の槍先に見えなくもない。


 それは正に悪魔の持つ武器の象徴であり、その槍は巨大な悪魔が支え持つのだと錯覚しそうな雰囲気がある。

 そしてその魔の城の中心、祭壇の間にて。


『やーエイちゃんや。そろそろドラゴンの件、片がつきそうな雰囲気なんよ』

「ふぇ、ほんふぁ?」


 毎朝の定時連絡の一幕である。

 最近は魔王として領界と領域の調整をすると、一定時間を祭壇に籠る理由にと周知してあるので、ある程度の生活環境を祭壇内に設置していた。


 六畳間に満たない小部屋内にはそう大きな家具は置けない。なので小柄なエイムがギリギリ横になれるサイズのロングソファが一脚。そのソファと合うデザインのローテーブル。

 まともな家具はそれだけだ。


 いや、執事(ニグラス)に命じて用意させた家具はこれだけだ。

 室内には他に背に背負うだけで身体が隠れて見えなくなる、大きな籐の編み籠が幾つも置いてある。それこそ祭壇の間を埋め尽くす程に。

 エイムが魔王の力の限りを尽くして極秘裏に運びこんだ“ブツ”である。


 籠の中身は様々な種類こそあれ一言で言い表せる。それは『菓子』であった。

 しかもただの菓子ではない。

 魔王領域の最外域(はずれ)も外れ。人族ながら魔族以上に最低の性根をそなえた者共が集まってできた外道の街、『ニツナリ』にしか流通していない『駄菓子』である。

 甘い、酸っぱい、イガラッポイ。極端な味満載のチープ菓子の代表の数々である。


 実はエイムの、何人(ナンビト)にも言えぬ密かな好物の品なのであった。


 モキュモキュと赤紫に染まった砂糖でコーティングされた麩菓子を咀嚼しつつ、ソファにダラシナーク横たわったエイムは、口に物を入れながらハポリムとの情報交換をしていた。


『そんでな、魔族の、いんやあ野良共の事、どないなってんやろなと思うてんけど……、……なあエイちゃん、ちょっとお兄ちゃん悲しくなってきてんねん』


 食べ物の御残しはしない。エイムの美点のひとつである。

 しかし、駄菓子とは妙に食べカスが散りやすい物でもあるので、細かいゴミが室内に出るのはしょうがない事だった。

 だが籠の中身が二つ余り空になる分となると、その散りカスもしょうがないでは済まない量となるものである。


 映像越しとはいえ、魔族領域全ての中心が見事な『汚部屋』と化しつつあるのは、いかな先代とはいえ魔王であった者には残念な光景でしかなかったのである。

 加えてその残念成分の中心が自分の妹となると、ちょっと耐えきれない物があるハポリムである。


 まあ、ハポリム自身の映像をボカして伝えているので、ならば当然エイムの姿もボケて伝わっているのだろうと思われていれば、そこもしょうがないと言えばしょうがないのだろうが。


 恐らくは自分の前でだけなのだろうが、汚嬢様と化していくエイムに密かに涙するハポリムなのだった。


『なんやこう、エイちゃん。ワイには駄菓子ポリポリとハシタのう感じで食ろうとる音が聞こえんねん。まさかエイちゃん、寝ころんで食べてぇの、ゴミ散らしてーのな感じちゃうよな?』


 そして、『まるっと全ての痴態を観ているよ』とも言えず、少々濁した注意で姿勢を正させる、兄の優しさ全開なハポリムだった。


「そっそそそそそんな事あらへんよ。ここ祭壇やんっ、こんな神聖なとこでそないこつ出来るわけ無いやんっっ」


 慌てて椅子の上に起きあがり、露骨にしらを切るエイムである。

 あまりに慌てて握っていた麩菓子は粉々に潰され、床を派手に汚している。

 その汚れを反射的にソファの下へと掃き隠す様に、ひっそりと涙するハポリムだった。


『まあええわ。で、どない?』

「う、うん。野良はな、まだちょっと直接どうこう出来るようになって無いねん。なんか人族の方からオンセンっちゅう水攻めがあってなあ、これが巷の魔族を全員逆上(のぼ)せ上らせて面倒な反乱モドキが頻発してんよー」


 何度かエイム自身が討伐紛いの鎮静化を行っているが、魔王の畏怖の増長自体は出来ているものの完全な鎮圧化は出来ていない。

 今まで数百年から数千年もの間、弱者と虐げられていた最下層の魔族が力を得たのである。逆上せるのも当然と言えば当然の状況だったのである。


『ほう“温泉”かあ。なるほど、魔族にそない効能があるとはねえ……。こっちじゃ“ええ湯やぁ”な感想しか聞こえてへんから気いつかんかったなあ』

「“こっち”?、なぁお兄ちゃん、もしかして人族の方に居るん?」


 これまで明確に居所をボカしていたハポリムだが、その言い方は確実に居場所を、少なくともどの勢力下に隠れているかを臭わす発言である。


『さあ、どうなんかなー。内緒や。まだ、もうちょいはなー』

「もうちょいとて、うちらでも二千年は“ちょいと”で済まんよ」


 問いを濁す以上、強く言おうが聞いてくれないのは、兄の気性を知るエイムにとって分かりきった事である。

 だから少し拗ねた程度で終わらせた。


『うん、ま、その温泉な。そんなもんをパっとこさえる変わった奴が生まれたんよ。やってお兄ちゃんの楽しみがようやっと再開できそうでな。だからちょちょっと弄って、どうなるか知りたいんよなあ。でえ、それ次第やから、もうちょい、ワイは隠れるんよ』

「もうちょい、……なんやね」

『そや』


 手元の籠から適当に菓子を一つまみ。手の平サイズのこげ茶色の円盤に細かい半透明の結晶、ザラメを塗してある焼き菓子、『ざらめ煎餅』をパキンと良い音ひとつさせて噛み割る。


「うにゅ、わふぁった」


 これまた派手に食べカスが散る様を観つつ、『おおきに』と返すハポリムなのである。



 ◆  ◆  ◆



 さて、セイル達の行程は順調以外のなにものでも無かった。

 一応は人族の領域内という事で魔物とのエンカウント率も激減したし、行程の足手纏いだったセイルも普通に歩行できるようになった。

 さすが子供の適応力と言うべきか、一度体得したらその熟練のスピードは異常に速い。

 今は石畳みで整備された街同士を結ぶ街道を、僅かにもヘコませずに歩いていた。

 更には新たなガイドの為に先頭車と並び、ガイドの片割れをセイル専用殻徒(リトル・ブルー)の巨大な手の平に乗せて移動していた。


「セイルたんっ、これスゴイねー。この鉄の巨人、セイルたんの僕なのよねー」

『うーん、ちょっと違うんだよね』


 セイルが運ぶガイドとは、ロロマグリのギルドマスターの一人、ジェロの娘のキキである。チキも同様にガイドとして同行しているが、現在は先頭車で運転役の兵士へと道の諸注意をしている。

 安全度は段違いだが、その分マグリ関係者の往来も多く、渋滞のおこりそうな位置を予め指示しているのだった。


「(実に分かりやすいけど、チキはしっかり者のお姉ちゃん系で、キキは天真爛漫の妹系だね)」


 双子としての役割分担的な性格分けをしているのは、この世界でも普通にあるんだなあと思うセイルである。それでもやっぱり本質は同じなのか、ある程度の時間が経つとセイルが運ぶ双子は入れ替わる事になる。

 この高さからの景色を楽しもうとする好奇心は、双子ならではの共通のものなのだ。

 その時だけはチキも「おおおーう♪」と真面目ぶった性格は鳴りを潜め、ニヤニヤと笑いが静まらない様子であった。

 逆にキキは狭い車内で退屈しているのかというと、しっかりガイドの仕事はしているのである。

 芯はしっかりと、ギルドの責任者の子という自覚はあるのであった。


 ほぼ街同士を直線で結ぶ街道は、おおよそ三百キロの行程となり、半日も経たずにサンマグリへと到着する事となる。ここで双子のガイドは終了し、ロロマグリへと戻る馬車に便乗して帰る予定だ。

 セイル達は改めてこの街の代表ギルドへ渡りをつけて、新たなガイドと共に最北のアンマグリへと移動する予定なのだった。


 が、その予定は実現不可能だという事を知る。

 ロロマグリ近辺で魔族の騒ぎがあったように、サンマグリも同様の事件はあったらしい。


 しかもより大規模に。


 地理的にも僅かながら魔族領域に近かったせいか、街の外壁近くまで魔族の襲撃があったらしく、撃退自体は済んでいるのだが残る冒険者は大なり小なり怪我を負っていた。

 施術士や治癒を行える者すらも負傷していて、早急な回復が望めない状況となっており、とてもガイドを出せる余裕が無かったのである。


「んー、それでも調査のパーティは出発してたんだぁ……」


 だがギルドの責任者曰く、これだけの規模の襲撃が安全に回避できたかは怪しいという見方であった。むしろ、少人数での遭遇で壊滅している可能性を否定できないという事だった。

 もしそうならセイル達にとってはトラブルの種が減る事となる。

 しかし、同時に冒険者達の死亡故にという事なので、そう素直に喜べない事態でもある。


 最終的に、この街の状況ではちゃんとした補給もままならないし、たった半日の行程である。この場に野営という案もあるが、それも街への負担となるのでこのまま即出発という事になった。

 しょうがない状況という事でチキとキキには引き続きガイドを頼む事になる。

 まだ十一歳ではあるが、領域内の移動は両親に付いて何度か経験があるから大丈夫という返事による。こういう環境では人としての知己に勝る信用は無い。幼い頃から関係者に顔を知らせている双子という存在は、この社会では異質であるセイル達を一番安全に進めさせられる強力な通行手形なのである。


 双子のガイド継続の件をロロマグリへの伝言として頼み、セイル達はアンマグリへの進行を開始した。サンマグリからの調査隊の安否確認もしようと、そのルートをなぞる形で一端未支配領域へと北上、その後東へと進んでマグリの領域へと再侵入、アンマグリ入りする予定とした。


 冒険者達は徒歩なので、やはりどう進んでも二十キロが良い処であり、車のスピードなら即追い付ける距離だろうという予想からだ。

 ここでも双子達は活躍した。ダークエルフの特性で草原に残る僅かな足跡を魔族の襲撃で荒らされた地面から見つけ出し、冒険者達の大まかなルートを確定させたのだから。

 そして、それが正しい事は程なく分かった。


 サンマグリの領界を越えてから北に十キロ足らず、一際荒らされた地面には、乾いているものの大量の血が流れた後があった。

 何体か魔族の死骸も転がっており、冒険者達が使っていたと思われる武器も幾つか、転がっていた。

 冒険者達の死体は見つからなかったが、仮に死んでおらず、何処かに避難しているのかもとは思っても、さすがに未知の場所を延々と捜索するわけにもいかない。


 結局その場から東にルート変更し、マグリの領域へと再び移動、街道にぶつかってからは道なりに北東へと進み、深夜近くにアンマグリへと到着する事が出来た。


 取りあえず、どれ程の被害を受けたか外からは分からないが、歩哨や門番が普通にいる事はそう大事にならなかった証拠だろうと普通に野営する事とする。


 双子を連れてヨミスケとバリュートが門番に詳細を伝え、朝になってからの訪問を伝えてそのまま戻ってくる。

 さすがに宴会とは行かないが、夜通しローテーションを組んで見張りは立つ。

 静かではあれ、どこか賑わしい野営には交代でとる食事の香りが満ち、多少は在庫として持ってきたポタミエーレが再び振舞われる。


 その強烈な美臭がアンマグリを少しどよめかせる事となったが、そんな些細な流れをもって、自由の領域にての二日目を終えるセイルなのであった。




〈~続く~〉




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