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リトルオーガ in カレイドスコピカレード  作者: 雲渚湖良清
幼児の章【三】 青い児鬼とカラクリ魔人
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冒険者の街

 西部劇のような街。

 セイル感じた印象である。


 一晩の野営の後、翌朝、日も昇り街がザワメキから日常の喧騒へと変化しはじめた頃。セイル等はロロマグリの街へと入る事を許可されて、その足で小観光をしていた。


 外壁は石組みでつくられた欧州風の印象であったが、街中の風景はアメリカは西部開拓時代を思わせる二階建ての木造の長屋作りが多い。

 セイルの記憶に無理やり当てはめれば、路地同然の道を挟んで適当に伸びるアーケイド型の商店街と言った感じであった。


 周りが草原か荒野ばかりなのに木造家屋が多いのが不思議だが、マグリの領域は各領界の中心部に数十キロ規模の森林地域があるそうで、そこから必要分を調達しているのだそうだ。

 様々な果樹が生る木々が多く、森の奥へは禁忌があって入れないが、周辺部から採取できる果実だけで街の食料事情には充分事足りるらしい。

 仮に近隣での狩猟が出来なくなっても酷く飢える事は無いそうだ。


 そういう事情から意外と多い木材資源を持つマグリは、それの売り込みと温泉砦に意気込んだのだが、若い生木が多く建材としては利用性が低い理由で、大半の材木は検閲で撥ねられ玉砕に終わっていた。

 故にチキとキキの母は現在バラック状態の商人街でそれらを現地処分中である。

 自分達の仮の住居とするには充分な物であるし、日々の煮炊きの燃料としても使える。重い思いをして運んだのだから、同じ思いで持ち帰りたくはないのが人情で、少しでも軽い金に変えようと今日も元気に奮戦中であった。


 そんな親の苦労など知った事かという感じに、野営地で満腹となったまま雑魚寝で夜を明かしたダークエルフの双子、チキとキキである。

 同様に完全な無防備で寝こけていた、監視者として冒険者達共々、早朝、双子の父も含むギルドの運営役員、つまりマスター達の一喝で跳び起き、慌てて街へと戻る事となった。

 とはいえ同じ食事を囲む事でセイル達の気質を掴めた街側としては、過剰な警戒心を解ける程度には鎮静化し、防衛戦力役の精神的な落ち付きは街の住人にもたちまち伝播する。


 こうして街が起き出す頃には、昨日のパニックなど無かったように通常運転のロロマグリとなり、セイルも無事に街の散策が出来るようになったのであった。


「なんていうか……明らかに日本人が絡んでるなあ」


 街に入ってすぐ感じた印象だった。

 門をくぐればそこは地面が剥きだしの広場で、半径約二十メートルの半円に様々な幌馬車が係留されている。その広場を壁のように囲む二階建ての長屋一階は酒場、商店、娼婦宿の三種類のみで、しかし整然と区別されるわけでなく雑然と隣り合って並んでいた。

 二階部分は全て宿泊施設のようで、それぞれ一階の店舗が管理しているようだが二階自体がベランダ状の通路で連結しており互いに行き来が出来る設計だ。ベランダには階段もあるのでそのまま外に出る事もできる。

 それ等宿泊施設は一般と連れ込み宿の区別が無いようで、セイル達を珍しいと見物する逗留者や娼婦がゾロゾロと見物する有り様だった。


 これで着ている衣装がカウボーイやカンカンドレスならそのまんま西部劇を連想するのだが、どちらかというと男は西部劇っぽくともインディアン的感じのデザインな革鎧だし、女は現代日本のキャミソール的なワンピース一枚をピチっと纏っている程度と、セイルの記憶を裏切る感じに収まっていた。

 だが共にこの世界で発生したとは言い難いデザインに違いない。


「外の風景から連想できなかった分、余計に違和感が全開だよ……」


 外壁の外にも街の施設はある。

 主に街中では収容しきれなくなった交易物資の集積と搬出を行う場所で、街中以上に多く馬車が集まっていた。

 だが置いてある馬車の大半は荷台を拵えてあるだけの物で幌がない。この様子からついセイルの見慣れた風景と混同していたのだった。

 これは、この場所で積む荷が材木の類のせいで幌が必要無いせいである。


 それはともかく、ピストルでパンパン撃ち合うのが似合う広場から北東へと伸びる路地、冒頭の場所へとやって来たセイルである。


 この辺りはロロマグリの役所区域と言っていい場所で、冒険者ギルドのある場所でもある。建物の作りは広場周りと変わらないが、一階の店舗は行商人の事務所と問屋規模で売買する商店、その護衛を専門にする冒険者が寝泊まりする冒険者ギルドに併設する宿の受付が集中している。


 セイルが此処へ来たのは、昨夜野営に闖入したチキとキキの双子に呼ばれた……というか、泣きつかれた事による。


 双子の行動は昨夜の内に父親を心底凍りつかせたのではあるが、深夜も近いのに街の有力者が乱入などすれば問題になるとの大人の判断から、翌朝まで回収は見送られた。その反動からか、日も昇りきらぬうちに烈火の怒号と共に強制帰宅させられた双子である。

 現在は自宅で折檻中であり、外出禁止を言い渡されている。


 だが結果的に無用な緊張感を取り去れた部分もあり、しかも建前上最高指揮官であるセイルと知己になれたという功績があるのだからと、弁明してほしいと双子に甘い連絡役の冒険者越しに伝言してきたのだった。


 そのセイルとしては、双子が連れ帰られた時刻はまだまだ熟睡の中だったのでまったく知らない事だった。


 昨夜は子供同士なら問題無かろうと三人一緒のテントに放り込まれ、満腹での幸福感のまま寝相の悪さも手伝ってどんなバトルロイヤルだという感じでクンズホグレタ有り様だったのだが、起きてみれば既に居なかったので自分で帰ったものと思っていたのである。


「マスケス隊長、ハンス、休養日なのに護衛させてごめんね」

「いえ坊っちゃま、観光半分ですから問題ないですよ。」

「俺は野営警備の班でしたから街が見物できてラッキーですよ」


 今日の護衛は礫級殻徒部隊長のマスケス、そしてセイルが始めて接した殻徒兵士のハンス曹長である。

 護衛とは言いつつも、セイルの防御力はドラゴン並みなので、本当に護衛の必要は無い。

 それでも護衛行動を継続しているのは兵士らへのセイルの立場を焼き付ける事の重要性だ。

 体育会系というか、暴力による上下意識がまだまだ強い世界であるので、自分が仕える者の子供であっても基本的に普通の子供に対する、言わば弱者に対する行動が表に出やすい。

 それが庇護心であれば不幸は無いのだが、嗜虐心だった場合受けた方は勿論、行使した方も最悪の結果となる。

 目の前の主人が自分より弱いから自分が取って代わる。ただの人族同士ならば問題は無いが、領主と臣下の場合は話が別なのだ。


 この世界では、支配者だけは完全に血統を絶対とする存在であり、個人の能力の上下に左右されない。どんな貧弱な者でも血統の、しかも直系であるだけで、小世界である支配領域全体を守り維持する存在であるのだ。

 少なくとも領界のシステムを知らぬ者がそんな行動を取れば、それは即、その領界の崩壊を意味する。

 この世界の生物の本能とも言える性分であるとも、自らの生きる世界を崩壊させるような事は害でしかない。

 故に兵士は徹底して領主に、その血統に傅く事を教育されるのである。


 もっとも、青鬼人は性来鬼としての暴力性はあるものの血族的な上下関係を重要視する傾向がある。既に数百年を支配者として君臨するセイルの血族には余り気にする事でも無いのである。他種族の人族兵士も増えつつあるが、青鬼人の気風にすぐ染まってしまうので問題ともいえない懸念なのであった。


 そして今回の護衛は自分達というよりも、単にロロマグリの街側への配慮と言っていい。

 見知らぬ子供が一人歩くには危険な街なのだ。特にセイルは質素な成りではあるが如何にも上品な物を身にまとい過ぎている。

 絶好のカモに見られるのである。

 襲った結果が真逆になるのは確実だが、それはやはり双方にとって不幸な事でしかない。

 子供を襲う下衆であっても、この街では中々役に立つ戦力だ。その損失は街にとっての害なのである。


 そうして『触るな危険』の目立つ三人が並び立った場所、目的地である冒険者ギルド『九時の(もり)亭』である。


 ここにも西部劇的な印象の強い小道具があった。

 成人男性の胸部を隠す程度サイズ、そして高さにある両開きのスイングドア。

 入るにも出るにも勢い良く押し開ける必要のある、ある意味意味不明のドアである。


 セイルの背丈では下の空間を普通に通れるので開ける必要がなく、そのまま素通りする。

 このタイプのドアに面識が無いのかマスケスとハンスは躊躇するものの、セイルがスタスタ入って行ってしまったのでマスケスが慌ててドアに手をかけ、負荷も少なく押せる事を確認しそのまま開けて続く、マスケスに続こうとしたハンスが反動で戻ったドアに叩かれてすっ転んだが、そこは御愛嬌である。


「んーここまで来ると……、もう疑いよう無いや……」


 店内には見事にアメリカ南部の雰囲気が作られていた。

 カントリーデザインというか、カウンターバーにスツールタイプのイスがあるものの、円形のテーブル席は立ち飲みオンリー仕様になっていた。

 一応酒は飲めるので酒場兼用なのだろうが、カウンターと併設する形で冒険者への依頼斡旋の受付がある。どうやら依頼を待つ人が軽く飲食できる程度の使い方のようだとセイルは判断した。


 それら実用の施設に混ざるように、明らかに意味の無いデコレーションが飾られている。

 馬車の車輪、何かの動物の頭蓋骨、何故か壁に飾られた農耕道具などなど。

 これはもう、西部の風景の印象ではなく、“西部劇”の印象である。


 その余りにあざといデザインから、どうやらこの領域の成り立ちにはギフティスが、それも西部劇ブーム全盛の時代の人間が関わっているんだなと思うセイルであった。


「えーと、マスター……か、バーテンさん、かな?。ここのギルドマスターの娘の、チキとキキに呼ばれてきたんだけど……。あ、僕の名前はセイル。外にいるディムオウグ領、鉄鬼兵団の大将です」


 まだ昼には速いせいか店内にはインディアンスタイルに蝶ネクタイという不思議な格好の人族がカウンター内でグラスを磨いているだけだった。

 酒場の印象からマスターと呼んだものの、その人物はバリュートから聞いていたギルドマスターとは似ても似つかないので、取りあえず他のっぽい呼び方に直して聞いてみた。


 セイル達を胡散臭げに見ていた推定バーテンだが、その出自を聞いた途端「しょ、少々お待ちください」と慌て始めて店の裏に行ってしまった。


 暫くして今度はバリュートに聞いた通りの、眼の下の隈を作りやや(やつ)れたダークエルフの男性が現れた。

 チキ とキキの父親、ジェロである。

 バーテン同様の格好なのだが、おそらくは寝ていたのだろう。余程急いだか着る物は少ないのに見事に着崩れていた。


 因みに、この街の男性と子供は基本的にインディアンスタイルである。

 構成は革製のチョッキを素肌の上半身に着、下半身は帯状にした長布を六尺褌(ろくしゃくフンドシ)状にしている。そして太股丈のハイソックス的に革の筒袴を穿いている。

 この基本形態に股間の前を隠す前垂れをしたりチョッキに飾り付けをしたりするのがオシャレらしい。

 加えて褌の柄もその範疇なのか、ジェロの穿いているのは紺地の搾り柄であるしバーテンは白字に黒のチェック模様だ。ここへと来るまでに見た人達も同じ柄に見える物は穿いてなかったので、かなり重要な部分なのかもしれないと思うセイルである。


 そういえば双子のチキは薄緑の地に青のストライプ、キキは桃色の地に赤のドット模様だった。

 黒い肌に明るい褌は異様に映えて、昨夜の雑魚寝もあってここ暫く感じ無かった幼児の身体に感謝するセイルである。

 仮にむっつりスケベと言われようとも、この年で女の子に欲情するのは絶対に避けたい。

 精神的に欲情しないのは無理でも、それをまだまだ身体で表現したくはないセイルであった。


 『せめて十歳までは我慢』。セイルが自分に課している事である。

 課したキッカケは全身で抱きついてきたピンキィであり、青涼時代を通して最もあらゆる箇所を接し合った異性からの感触による自戒だった。


 子供同士なので問題の起きようは無かった。慣れもした。だがそれで異性を女として感じ無かったかと言えば、それはまた別だ。

 むしろ触れ合いを拒んで泣かれた分、より一層感じてしまった自覚がある。

 だがそれは四歳の子供が抱いて叶うものでもなし、不可能故に暴走しかねないという自制がキツくはたらいたのである。


 以降、精神面でのガス抜き半分でグウェリやメイド隊といった大人には遠慮無く接する事としたセイルであるが、柔いお肉の感触も慣れたせいかそっち方面の解消にはなくなりつつある現在である。


「(なんかこう、大人相手の場合欲情よりも安心感の方が強いのかなあ。保護者に抱きつくな感じで。……まさか僕、ロリ属性なのかなあ……?)」


 チキとキキに接した事で久しぶりの精神的欲情に支配されて混乱しているセイルである。

 それは自分の肉体年齢と近い対象を本能的にパートナー候補と認識しているにすぎないのたが、こういう方面では無知に近いセイル故の悩みである。


 場違いな内心を続けつつも、一応並列的な思考にも慣れてきたセイルはジェロとの話も続けていた。


「昨夜はうちの娘達が迷惑をかけて申し訳ない」

「いえ彼女達のおかげでそう時間も経けずにこうして会えたのですから、実は此方としては助かってます」

「そう言ってもらえると助かります」


 子供に対して結構礼節のある態度で接してきたジュロである。

 大将という肩書を重要視しているのか、それとも……。


「僕の事は大将代理から聞いてますか?」

「ええ、領主様のご三男である事と、そして……少々特殊な方とも」

「なら助かります。後、僕等が来た説明も既にされてます……ね?」

「はい、先日の異変。光の柱が隣の領域で起きた理由が分かったのは当ギルドの方でも助かりました」


 昨夜の内に情報の擦り合わせが済んだ事は良かった。

 これで明日に侵攻を再開するのも問題無い事になるのだから。


「しかし……、こちらも早期の原因究明は必要だったのです。ですから三組の調査パーティは派遣済みでして……」


 さすがにまったくの問題無しとは行かなかったようである。


「派遣の日時は分かりますよね」

「はい、異変の当日に二組。これはどちらも翌日の昼に中途帰還しました。どうも魔族領域から凶暴化した魔族が大量に徘徊していて、出遭い頭の戦闘になっての戦力不足から一時撤退になりました。そして次の日は治療に使い、翌々日、周辺の地理に詳しいパーティを追加して再出発しました」

「と……なると、僕等が出発して今日で五日目だから、三日前か。マスターさん、調査に行ってる人達の動きって分かります?」


 冒険者にとっての三日という期間がどの程度の結果を出すのかが分からない。

 だからの質問であるが、ジェロにしてもケースバイケースな事なのでハッキリした事は言えない。


「では彼らは……、いえ冒険者はなんの問題も無く移動できたとして、一日にどれだけ進めますか?」


 ここロロマグリの街が領界域の外縁としても接する魔族領域の中心領界までは最低でも四つの領界を介して進む事となる。

 単純に四百キロの距離の移動となる為に、冒険者の移動ペースが分かれば少しは予想が立てられるかもしれないとの質問である。


 だが、事情はもう少し複雑になる。


「マグリと接する魔族領域は北東部で噛みあうように隣接しています。ですから此処ロロマグリは異変から一番離れている街と言っていいのです」


 中央領界マグリ。ここには祭壇はあるものの街や砦といった施設は無い。領界全体が地面さえ露出しない原生林で覆われており侵入不可能といっていい場所なのである。

 代わりに最外縁部に街が八か所存在し、それぞれが半分独立都市として機能している。

 直接魔族領域と接しているのは、北部の『アンマグリ』、北東部の『ルアマグリ』、そして東部の『カカマグリ』という街であった。


「この三つの街の内直接移動が可能なのはアンマグリのみなのです」


 北東部と東部は直接隣接する影響か、領界同士の隆起と沈下が極端で断崖絶壁と化しているのだと教えられる。落差百五十メートルの断崖はそう気安く移動できる物では無く、行き来はほぼ無いと言って良かった。


 未支配領界を挟んで接するアンマグリは最短距離で六百キロ余り、街道周りでなら一千キロ近くともなる。

 これが最短距離となり、ロロマグリからとなるとさらに距離が伸びる事となるのだった。


「この街から出た冒険者は未支配領界を真っ直ぐ北上し、東西を走る街道から東に移動するルートで魔族と遭遇したそうです」


 各街から調査の冒険者は出ているようで、移動ルートが被らないようにした為だと言われる。最短距離を移動したのはおそらくアンマグリの冒険者パーティであり、ロロマグリと北西部の『サンマグリ』は周囲警戒を兼ねてのルート取りとなったのである。


「現地で遭遇、じゃなくて、んーと八百キロくらい離れた処での遭遇かな。しかも異変当日かー。ちょっと変だね」


 移動スピードは分からずともその距離を徒歩に近いスピードで移動出来ない事は想像するに容易い。ならば魔族は異変を前もって知っていた事となる。


「(領界支配の解放をしたって言うけど、皆殺しとかでなくて魔族にとって穏便な方法だったのかな?)」


 ヨミスケの依頼者、実はその存在にセイルは既に推測できるだけのヒントを得ている。ただそんな存在が、こんな手間をかける意味が分からず確証を得られていないだけだ。


「再出発した三組はその辺も調査しながらの移動なので、予想でしかないが多分北の隣の領界を移動しているくらいだと思います」


 結局、早い移動なら各街を繋ぐマグリ領域内の街道を利用したほうがいいと言われる。

 サンマグリ、アンマグリと移動し、その後領外への街道の利用で北上から東進するか、アンマグリから直接東の未整地を踏破するか、移動自体への障害は少ないらしいので現地で判断しても遅くないだろうと忠告されるに留まった。


 先行する冒険者質の移動能力は未知数なので保留するしかないと判断する。


 そうして行動の方針が決まれば、後は補給の類の話である。

 細かいリストはバリュートとヨミスケが昨日の時点で話していたので今日の午後には揃う算段である。本来は用意してきた商人規格の共通金貨で払う予定だったが、昨夜の事でちょっと相談する事ができたのである。


「えーと、ポタミエーレ、だっけ。昨日大量に仕留めたんだけど、うちでは消費しきれなくなったんですよね。それで物々交換が出来ないかって話が出まして……」

「是非うちで引き取らせてください。全部まるっと、お客様に損させる事なく受け入れられます!」


 それまで疲れた印象だったジェロであったが、その疲れを吹き飛ばすような、ある意味“憑かれた”形相で合の手を打ってくる。

 どうやら昨夜双子から聞いた情報は正確だったらしいと、安堵するセイルである。


 双子を含めて一部の冒険者が思う存分ポタミエーレを食いまくったのは街の住人には周知の事である。

 それらの連中が羨望と妬みの的となっているのも周知の事実である。


 この心情的な問題の解決もジェロの頭を悩ます理由のひとつであった。


 そしてこの肉はセイル達にとっても、少々問題となっていた。

 あまりに大量の肉は、兵士の全員を含めても百名に満たないセイル達には消費しきれない量だったのである。

 グウェリが居るジャンという質問も愚問だ。消費自体は可能だが、十頭以上の象サイズの肉を運ぶ手段がそもそも無い。

 これでも昨夜の内にグウェリが二頭、兵士全員で一頭を完食してはいるのだが、それでも大量に余っているのである。


 保存が可能になるような加工は時間が経かるので使えないし、結局は運べないのだから意味も無い。どうにもこうにも、もうこのまま捨てるしかないかと諦め半分だったのである。


「完全冷凍にはしたんで暫くは痛まないのだけど、助かりましたー」


 勿体ない精神はあるので保存は氷結の武具の使用で完璧だ。凍結だけでなく氷塊に閉じ込めてあるので、野営の隅はマンモスの氷漬けヨロシク氷の小山で異様に涼しい状態である。


 これで用事の大部分は片がついた。

 一安心して帰りついでに街の小物でも見ようかなと思うセイルだったが、そこでそもそも此処へ来た理由を思い出す。

 ジェロが過労死気味ながらも実に好意的だったので忘れてたが、此処へ来たのは双子の弁護の為である。「余り娘さん達を怒らないでくださいね」と形ばかりの弁護をしたが、こればかりは親の心情優先だろうからとも思うので強くは言えないセイル。


 その時だ。

 ジェロが出てきた奥の扉が再び開き、中腰の……、桃色の褌なのでキキと判別した双子の片われが現れる。


「ううう、セイルたん、遅かった……ヨ」


 黒めの肌でもなんとなく分かる。充血し腫れあがった尻は屈んで背中越しに見えるだけでもよく分かる。


「(あー、妙に透明感が増して赤くなってるなー……)」


 せめてもと、氷漬けのまま切り分けて持参したポエミターレの肉塊十キロをお見舞い品がわりに「お大事に」として言えなかったセイルなのであった。



〈~続く~〉





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