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リトルオーガ in カレイドスコピカレード  作者: 雲渚湖良清
幼児の章【三】 青い児鬼とカラクリ魔人
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自由の街…の入り口

 セイル侵攻部隊一行は自由都市領域マグリの街へと到着した。

 が、この街は正確には『ロロマグリの街』という名称である。

 中央領界であるマグリの支配域、その最外縁にあたる領界を正八角形の頂点の位置に円周状に囲むよう配置された都市のひとつであり、ロロマグリは西の位置にあたる街になる。


 ロロマグリはセイルはおろか領主であるウルですら知らなかった事であるが、ディムオウグ領との交易によって発展した歴史を持つ。

 要はディムオウグ領に現れる得体の知れない行商人の大半は、ここ出身の者なのだと言えば、「ああ、そんな風体の輩がいたかもしれない」とウルや直接の関係者も納得しただろう。


 一応は城塞を築いているのだが、その発展のせいだろうか、城壁外を使いやすい土地に沿って様々な施設ず歪に広がっていて、僅か七千人前後の人口に過ぎない小都市にも関わらず、やたら雑然とした街並みの様相となっていた。


「バリュートとメイ・フォレスト、案外時間が経かるもんじゃの」

「んー、この街ってろくに哨戒してた風にも見えないしね。外縁部でも一応支配領域だし、簡単だけど侵入防止の防壁もある。だからちょっとした魔物の襲撃ならともかく、僕達みたいな大人数の侵攻は寝耳に水って感じだったんじゃないかな」

「メイ・フォレストの言い方じゃと冒険者というのは常時戦闘という印象なのだがの」

「僕もそんな感じだったんで結構不思議に思ってる」


 昼前にロロマグリを発見してから街の入り口までの移動に一時間余り。

 セイルの完熟も済んだ事で進行スピードは格段に上がり、せめて残りの行程で適当な魔族の襲撃でもあって暴れられないかなー、というセイルの期待も虚しく、あっさりと街の入り口まで到着した一行。


 だが到着して一安心とはいかず、門番の衛兵役でいる冒険者が精いっぱい威厳ある態度をとる後ろで、同様の冒険者らしき一団や商人の集団、更に街に住む一般人の区別なくパニックで大騒ぎしている様に遭遇する事となったのである。


 その余りの狼狽える様にセイル達の方が唖然とした一幕であった。


 だがロロマグリの住人にとっては、それもしょうがない内情があったのである。


 この街は、元々ディムオウグ領へと人族の主領域では得られにくい希少物資の行商で発展した。その為定期便に近い形での商人の移動があったのだが、その流れで自然に知ったのが『セイル温泉砦』の誕生である。


 行商の中継点としていたサイリュウ砦で可能な限りの情報を得、一部はロロマグリへととんぼ返りし、急遽金になりそうな資材や物資を手に押しかける事となったのだが、なんのツテもコネも存在しない完全な新規開拓。

 どの商人も目の色を変えて自分が最初の有力商人になろうと、ロロマグリを空にするがごとくの大移動が起きたのであった。


 当然、護衛役として実力のある冒険者は真っ先にツバがつけられ、さっさと街を後にする。次のランクの冒険者も同様にと、ものの数日もしない内にロロマグリの街は武装と流通、両方の主力が欠けた状態となったのである。


 さらには行商に出た者達が一向に帰ってこないうえに、その理由すら分からないという状況が続き、ようやっと数人が帰って来始めたと思ったら隣接する魔族領域で巨大な光の柱が立つは、時間を置かず完全武装の軍勢が現れるはで、これで混乱をするなという方が無理という事態だったのだ。


 この状況で唯一の救いといえば、温泉砦での検閲で弾かれ、ロロマグリに帰還していた商人が少人数ながら居た事だろう。

 彼等がディムオウグの殻徒を見知っていたからこそ、セイル達は未知の軍勢扱いを受けず、問答無用の攻撃を受けて最悪の状況となる事は無かったのだから。


 そうして当初の大混乱も落ち着き始めた夕刻頃、現在バリュートとヨミスケが数人の礫級殻徒を護衛として街の責任者の元へと行っている。

 こちら側の現状説明と、となりの魔族領域の状況確認の為なのだが、街側の混乱を鎮めるという余禄もつく事となり、その対応に手間がかかる状態で未だに帰ってくる様子がないのである。


「まあ、街の混乱が治まらないのはグウェリのせいでもある気がするけど」

「いやいや、坊っちゃんも負けてねーと思いますよ」


 ロロマグリの街へと入る事は早々に諦めて、近場の開けた場所に野営しているセイル一向。

 しかしそろそろグウェリの趣向品的な食糧も在庫が厳しい状況となっていて、「やもうえんじゃろ」と近隣へと狩りに出たグウェリだった。


 当然、ドラゴンの姿へと変じて。


 ダメ押しのような事態に街の住人がどうなったかは、さもありなん。である。

 子供であるのでバリュート達に同行しなかったセイルも、遊び倒したい殻徒(リトル・ブルー)を持て余している状況であり、竜化したグウェリに掴まり食材狩りで一遊びしていた。

 その成果は野営場所の隅に転がる象サイズの名も知らぬ野生動物の山である。

 どれもセイルの武装の試し斬りと、一刀両断にされていた。

 ドラゴンと共に鋼鉄の巨人が剣を振りまくって暴れる様子は、何の情報も無く見せられる側にしてみれば、暴力の恐怖以外の何物でもなかったのであった。


「始めてまともに剣振ったけど、案外上手くいくもんだね」


 幼児の身体なのでまだまだ剣術の稽古などはしていない。

 だからか青涼として高校時代の授業で選択していた剣道の動きを思い出しつつのセイルだった。

 だが、はっきり言えば剣道とは相手に“当てる”ための技能であって“斬る”為の技能ではない。

 だが、しょせん授業程度だったからこそ型が身体に染みつかず、逆に棒で相手を殴る間合いを覚えるに留まったのが幸いだった。

 後は力任せに振り抜くのを止めない無謀が合わさって、結果的に首や胴を両断する勢いが得られたのだから。


 だが当然そんな無茶な使い方をすれば剣が無事な筈はない。

 『不壊』の魔術効果があるのは殻徒本体のみなのだから、武器は普通に劣化するのである。翌日、整備で発覚した剣芯の異常な歪みに親方から怒られるセイルなのである。


 とはいえ野趣溢れる食材を前に興味のあるのは全員が隠せるものでも無く、補給部隊が総出で解体と調理を進め、少なくとも数日分の食料確保で夜通しの宴会となっていた。

 明日の行動はロロマグリの出方次第だが、特に問題なければ休養となる事は通達済みである。

 というわけで、哨戒にあたる兵を除き、どこか暢気な状況のセイル等なのであった。



 ◆  ◆  ◆



「なんかさ、アイツ等宴会始めてない?」

「スゲーなあ、あれポタミエーレだよー。しかも四本牙」

「確かに凄いけど。そこより注意するとこあんだからヨダレ垂らして見ない!」


 ロロマグリを囲む外壁の上から、セイル達の方を監視する二人組がいる。

 監視自体は他に何人もが適当に散った配置でしているのだが、この二人はぴったりとくっつくように外壁に伏せ、まるで他の監視者にバレないようにという感じに、更に上から黒い布を被って夜の空気に体温を奪われないようにしていた。


「でもさーチキ、四本牙だよー。スッゴイ美味いって聞いたよ」

「聞いただけでしょキキ。アタシ等二本牙だって食べた事ないんだから、どんな味かすら知らないのよ」

「んー、ウサギよりは美味しいと思うよ」

「大概はウサギより美味しいだろうね。だって高いもの」

「だよねー」

「うん。……てっ、じゃなくて、アタシ達の仕事は美味しそうなのにヨダレ垂らすんじゃなくて、あの兵隊達の監視なの!、見張りなのっ!!」


 黒布を跳ねあげて怒る少女。

 夜に身を晒しても黒布に負けないほどの暗い肌、細い身体に細い四肢。そして特徴ある長い耳。

 髪すら黒に近い蒼に染まった姿は、いわゆるダークエルフと呼ばれる種族である。


 一般的なエルフ同様、少数の部落でのみ生活する種族で、特定の領界を支配して生きようとはせず、誰かの支配領域の片隅にひっそりと生きる事を選択した者達だ。

 だがエルフが主に森林地域を選んだのに対し、ダークエルフは草原地域をを選んだ事で、環境状の変化に伴いその生き方に変化を強要された種族だった。


 数千年単位での魔族と敵対する者達の争い。

 その舞台は大人数の行動がし易い草原が主体であって、当然ダークエルフ等は生活圏を荒らされる事となったのである。


 支配者の交替による環境変化。死肉を漁る魔物の跳梁から始まる存在の固定化。たび重なる環境の激変に、部族単体で生きる事の限界を知ったダークエルフ達は当時台頭し始めた人族と共闘し、生活圏の確保維持をするようになったのだ。


 そうした過程での最大の変化は、人族との混血化をしきったという事だろう。

 既に純血のダークエルフは存在しないと言ってよく、エルフとしての長命性も失われている。やや人族よりは長生きするものの、それでもせいぜい百年程度だ。


「あーう。チキったらさー、そんな大声あげたら監視なんないよー」

「あううっ、もう、キキが変な事ばかり言うからじゃないのっ」


 チキとキキ。ダークエルフの二人の少女は共に幼さを残す今年十一歳になる双子の姉妹だ。

 父は冒険者ギルドの役員として、母がロロマグリの商人の纏め役としてと、街の中心的位置で働く重鎮である。

 だが最近の一連の騒ぎでの一環で父は数日昼夜を問わず走り回り、今はバリュートとの会談中、母は商人等の責任者として長く温泉砦で行商中と、二人の面倒を見る余裕がない状況が続いており、放置されるのを寂しがる本心はあるものの、子供は子供なりの貢献心を燃やしたあげく、こうして自主的に監視をしている……、つもりなのだった。


 野営の方からは大量の肉を焼く香りが漂ってくる。


 セイル達が狩ったポタミエーレという野生動物は、十数頭のハーレム的な群れを組み土中の動物性の餌を求めて領域内を巡回する。

 その外見は河馬と猪が合わさった印象で全身をイガのような硬い短毛で覆われている。大きさはアフリカ象を上回るといった感じだ。

 ハーレムのボスとなる牡と筆頭の牝は一際巨大な個体に成長し、下顎から伸び生える牙が四本になる事から『四本牙』と呼称される。

 他の牝らは二本しか牙を伸ばさず、筆頭の牝が交代する事で始めて次に強い牝の牙が伸び始めるようになっている。


 ポタミエーレの主食は土中にいる巨大な甲虫、『ガラベス』だ。

 外見はフンコロガシと似たようなものだが、サイズが異常で成虫化すれば五十センチ近くにもなる。

 これでも魔物の一種で地中の魔力を吸収して成長するようだが、この地に住む人族でその生態を調べた者もいないので真実の生態は知られていない。


 ガラベスが生息する辺りは魔力が減少するせいか植物が枯れていくので、それを目安にポタミエーレは掘り返して食べる。そうすると土は開墾されたように柔らかくなり、魔力も戻って植物も生えるようになる。

 言わば天然の開墾地となるので、マグリの人族はそれを利用しての農作をしていた。ただ育てる物は収穫の速そうな葉物の品種ばかりである。

 新たなガラベスが育てばとたんに荒れ地と化すので、そう長く計画的な農地としては使えないのである。


 今回セイルが暴れた事で、その生活サイクルがズレる場所が発生する事となるが、広大な天然農耕地のほんの一画である。特にロロマグリにとって困る状況では無かった。


 むしろそれよりも──。


「あー、なんかスッゴク美味しい臭いになってる……。もう今まででも嗅いだ事のないレベルにー……」

「ううー、なんかズルい。アタシ達だって食べた事ないのに、あんなにタクサン……」


 動物ながらも魔物を狩るポタミエーレはこの辺りの最強に属する生物である。

 祭事などで街の精鋭が総出で狩る事もあるが、それでも狩るのは二本牙一頭が精々で、その年の成人をする者への祝いの品で終わる。

 まだ子供のチキとキキは未だその味を知らず、成人済みの他の監視者らは過去の美味を思い出して双子同様唾を呑み込んでいた。


「ねーチキ、アイツ等の場所明る過ぎるし煙りも出てきたよねー」

「……そうね」

「こっからじゃ良く見えなくなってきたよねー」

「……そーね」

「じゃさ、近くじゃないと監視できないよねー」

「…………そー……ね」


 数分後。


「あー坊っちゃん、なんか現地の住人っぽいのが交じって来てるんだけどな」

「うん知ってる。まあいいんじゃない。子供だし」


 兵士達の隙間に埋まるように、ちゃっかりと居座りポタミエーレの肉に齧り付くチキとキキの姿が野営地にあった。

 同様に野営地まで入ってくる事は無かったが、其処此処の影に隠れるように幾人かの人影も確認できる。

 どの影からも雰囲気から若いが冒険者とは思える。そしてその若さのせいだろうか、数人はダークエルフの子供同様食事に興味が移っているし、他の者は子供達の方への注意のほうが強い感じだった。


「他の見張りも、なんかこっちへの警戒とかいう感じじゃないよね。僕の勘だけど、あの子供達の護衛とかいうふうに見える」

「さすが坊っちゃん、似た者同士はよく分かりますね」

「グウェリ、ベルケンス隊長ってばさっきグウェリの分のお肉ちょろまかしてたよ」

「スンマセン坊っちゃんっ、言い過ぎましたぁっ」


 どうにもこう、緊張感のない責任者一同である。


「ベルケンスの阿呆は放っといて、坊っちゃま、対応はどうします?」


 礫級殻徒部隊の部隊長であるマスケスがボソリと聞いてくる。

 彼は野営地の総責任者として動いている。セイル自身が気づいた異変に追加するような情報をあわせ、現状この陣地の周囲に十数人の監視が居る事を報告していた。


「大将代理とガイド殿は街の責任者と問題無く会食しています。こちらの状況は説明済みでして、向こうでも特に問題は起きていないと報告は受けてますから……」

「こっちでも騒ぐのは不味いよね」


 殻徒の利点として、着用者の五感を強化する機能は通信的な効果にまで及んでいる。

 電波を飛ばしての通信というわけではないが、人族全般の可聴域を越えた超音波域での会話が可能となるのである。

 この機能によって護衛として随行している者から野営地の者へと、その行動は逐一報告はされているのであった。


「僕の認知度は……、たぶん知られてないよね。じゃ、ちょっとあの子達から情報引き出してみるから、マスケス隊長は警戒継続で」

「了解しました」

「ベルケンス隊長は僕の警護を影からよろしくー」

「了解です」

「我が一緒なら問題なかろうに」

「さすがにグウェリも一緒だと警戒されるからね」


 黙っていればただの美少女だが、片手に自分の背丈より巨大な骨付きモモ肉を軽々と持っていれば誰も普通の人族とは思わない。

 既にグウェリは此処に居る全ての者から『マトモじゃない』と認知されていた。


「僕用の果実ジュースってある?、ならそれのピッチャーごと頂戴」


 補給兵から葡萄と似た果実のジュースを貰い、チキとキキの元へと行ったセイルは「こんばんは、お姉ちゃん達何処の子」と無邪気な幼児を装って近づき、ただでさえ美味に蕩ける姉妹を物と態度で簡単に警戒心を解いていく。

 そうして分かった事として、この双子の姉妹が街においては重要な立場の者の縁者だという事だった。

 くわえてセイルが狩った獲物の重要性もよく分かり、その結果。

 監視者全員、あっさり捕縛後即解放として、宴会の一員に混ぜる事となった。


 その経過はバリュートの元へと間髪いれず報告され、会食の一員として参加していた双子の父が「あの馬鹿娘等が!」と場所を忘れて吠える事となるのであった。



〈~続く~〉





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