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リトルオーガ in カレイドスコピカレード  作者: 雲渚湖良清
幼児の章【三】 青い児鬼とカラクリ魔人
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ヨチヨチ往こう

「……なーんでオレがこんな事してんだろうなぁ……」


 温泉砦を出発し、道なき平原を東へと進むディムオウグ家の侵攻軍。それぞれに礫級殻徒二十名を満載したボンネットバス型の獣働車が三台。大型トレーラーというよりは、超長距離砲を積んだ戦闘列車の車両と言ったほうがしっくりするような、騎獣機を荷として積み込んだ大型獣働車、従者トレーラーが一台。そして遠近感覚を狂わせる四メートルの鋼鉄の巨人、壁級殻徒十三体が歩み続く異形の行進である。

 その三台の獣働車、先頭を先導者役として走る一台の助手席にヨミスケの姿があった。


「いやあ、重ね重ね礼を言います。お恥ずかしい事ながら我等は魔族が蔓延る無法の地としてしか認識していませんでしたので……。わっはっはっ!」


 ヨミスケの背後、後部座席に座る初老の騎士がヨミスケの囁くような独り言を聞きつけ、何度も言った礼を改めて繰り返す。

 その騎士は『バリュート・ガトリング・ノルカ』と言い、温泉砦に部隊を率いてセイル配下に入り、実質的に運用の責任者となる大将補佐にしてウルの腹心という、言わばこの部隊で一番偉い人、である。

 青鬼人としての厳つい外見ではあるものの、年を経た者特有の穏やかさが表情に溢れており、ウルとは別の質実剛健さを醸す男であった。

 だが、そんな重要な位置の者が奇襲などを受けやすい先頭に陣取るあたり、やはり性根の根っ子は青鬼人という事らしい。


 セイルが支配者となった温泉砦は、地殻変動なみの大隆起を起こさせて以降、領域内で再整備された街道は人族支配域側のみとなった。

 前支配者であった魔族ファーランナーは、その性質上地域の整備などに関心が無かったようで、元々街道と呼べる物すら無かったのであるが、それでも自然発生的な、何人もの往来で踏み固められた獣道同然の道らしき物は存在していた。


 ではその道を作りあげた者は誰なのか?というと、既にセイルや兵士達が見慣れた存在、商人達だったりする。

 もちろん商人のみで降りかかる困難や襲い来る魔族と魔物を撃退しつつ作ったわけではない。護衛役として直接の戦闘力となる武装集団『冒険者ギルド(アドベンチャラーズ)』という存在も関わっている。


 『冒険者』を自称する者達は、構成する者が人族中心の要するに何処の王や領主にも仕えない武装集団で、実情で言えば良い意味で『傭兵』、悪い意味では『山賊』と変わり無いような連中である。元々は狩猟を生業にする者達で、人族魔族関係無しに襲撃して日々の糧を得る人族だったらしい。だがその規模が巨大化する事によって奪う殺す程度で自活する事が不可能となれば生き方を変えなければならない。結果、簡単な組織化を経て、しかし絶対的な指導力を有して個人的な権力を得た者が王として立つ事も無く、合議制で行動する暴力を商品とする傭兵集団として成り立つ事となった。


 時の流れによってやがては商人との繋がりを得、物資流通の恩恵を実感した事から戦闘面を担当する共存者となり、商売と生活の拠点となる領界を得て行動する姿へと変化していったのであった。

 そうして誕生したのが領界の支配者として生きながら支配者の能力(ちから)を持たない稀有な存在、『自由都市領域』という生活圏であった。


「そんな人族の勢力が確立していたとは、我等とんと知らん事でしたからなあ、ワハハハハ!」


 当初は立ちはだかる者全てを殲滅して往こうとしていたセイル侵攻部隊であった。

 侵攻直前、作戦行動の内容を演説のように発表したバリュートに、現地に多少の知識のあるヨミスケが“つい”「おい、ちょっと待てい!」と突っこんでしまった事から侵攻作戦の練り直しと相成り、あれよあれよと言う間にヨミスケがガイド役として雇われる形となったのであった。


「さすがに初見の事を伝え聞いたところで、常に最良な判断を下せるわけでは無いですからなあ。まあ、セイル様のヨチヨチ歩きで行軍ペースもノンビリとしたものです。索敵だけというのも退屈ですし、事前情報は多い方がいい。狭い車内にオヤジばかりなのが玉に瑕ずですが、道中色々と教えてくだされ。HAHAHAHAHA」


 進行ガイトとしてヨミスケが先頭車に乗る理由、そして総指揮官であるバリュートが乗る理由、実益としては現状の情報を最高位の者が得る事なのだが、混じる情報には未知の雑談のネタもある。そこらまで貪欲に得ようとするバリュートの趣味含んだ故の配置、だったりしたのである。

 もちろんバリュートのみがその情報を知ったところで、配下の者と共有できなければ意味が無い。だからかバリュートの隣には礫級殻徒部隊を統括する部隊長が乗車しており共に聞き耳を立てている状態だ。他に壁級殻徒部隊の部隊長や補給隊、占術隊の部隊長もいるのだが、彼等は部隊長同士で毎日交代で乗車する事となっている。

 移動中に各部隊長が断片的にでも情報を知り、後に部隊長同士で共有、更に部下へと伝えるという伝言ゲームのような危険性を持った方法をとる事にしていた。

 が、それは建前であり、要は退屈な行軍の間の雑談がしたいだけであったりする。バリュートが独占するように居座るのは特権乱用の面もあるが、伝言による情報の祖語が出る場合の修正を円滑にするためである。怪しくなったネタに最高位の者から訂正が入ればそうそう反対意見など言えないからだったりする。

 ならば情報の祖語が出ないよう全員纏めてヨミスケから高説されればいいと思うだろうが、さすがにそんな時間的余裕はない。

 既に現地の、祭壇自体の解放は行われてしまっている。解放が行われた以上支配者とする魔族は全滅という状況であろうが、他種族の魔族がまったく居ないわけではないし蛮族として生きている種族もいる。

 更に最大の問題として、その魔族領域に隣接するように話題の自由都市領域のひとつ『マグリの街』があるのだ。もし此方の事情を知らない街の住人が支配者の契約を行ってしまったら、要らない衝突の遠因になりかねない。

 ヨミスケ的な観察結果として、セイルはともかくバリュート始めの兵士連中は戦う相手が魔族だろうが人族だろうが関係無いような印象である。

 ヨミスケは街の連中に情があるわけでも無いが、それと同様の薄情さがバリュート達にもあるのであった。

 『刃向えば敵』、つまりはそういう事なのだろう。


 ただしヨミスケに情は無くとも損得はある。マグリの街は冒険者にとって過し易い環境なのである。ディムオウグ領に一番近い場所にあるし希少な素材が集中する規模の流通が確立もしている。単に小競り合い規模の武力衝突で意識的な対立が起きる程度なら問題無いのだが。


「(コイツ等、マジで根こそぎ殺し尽くす感じなんだよなあ……)」


 冒険者にはヨミスケのような異形で蛮族な立場の者もいるが、圧倒的に多いのは昔から人族に与する種族達であり、その戦闘能力も人族の範疇で収まる者たちだ。

 礫級の殻徒になら何とか対応も出来ようが、壁級や騎獣機には対抗出来るわけがない。

 象を倒す蟻は存在するが、全ての蟻が象を倒せる存在ではない。残念ながらマグリの街の蟻はセイル率いる象を倒せる存在ではない。領だ国だと言ったところで、数万程度の人口の存在、この世界の個の力に抗するには役不足なのである。


「(てー事はだ、最悪の状況でも全面対決は避けれる方向で行かねーと、なんだよなあ……)」


 マグリの街に有利となるような、ガイド内容の曲解をするのは論外である。もし穏便に現地に到着してみてヨミスケからの情報が違い過ぎていると分かれば害意が有ると判断されてもしょうがない。

 それは最終的にセイルの守護者であるグウェリへの害意となる。となったらもう破滅決定だ。

 コイツ等には正確な情報を与えなければならないのである。そう肝に決めるヨミスケであった。


 現地の状況が分からない以上、問題進行の可能性を潰すには速やかな移動こそが最善策となる。そんな状況で悠長に一から十まで現地の事を教え込む時間的余裕は無いとヨミスケも判断し、こうして移動しながらの事となったわけであるが、等の危険物である兵士達は暢気に未知なる世間話に好奇心を隠さない連中ばかりだ。

 ウサギとして小さな胃がキリキリと痛むのを感じ、「ああ、小動物も胃潰瘍になるかもしんねーのねー」と実感する事となるのであった。



 ◆  ◆  ◆



 さて、現状の冒険者達は運命共同体である商人の安全性確保の為に、定期的に発行される行商人の護衛依頼などの遂行し、安全な移動ルートを確立する事は重要事項であり、その行動の“ついで”として街道沿いの害敵駆除は必須であり、また常時発行されるクエストとしても存在する。


 その成果の形ある姿が『街道』であるのだが、ならば街道は安全なのかと言えば、実はそうでもない。

 武力による整備を必要とする事で本能的な命の危機を感じ取る魔物の類は避けられるようになっても、反面多少の知恵を有する対象には力尽くででも安全を維持しなければならない物がある場所なのだと教える事となる。

 つまりは近隣の敵対勢力、多くは野良の魔族による襲撃ほ受けるようになるのであった。


 “ヒュン”と先頭車の上から影が射す。

 徐行程度のスピードで進む車を猛スピードで追い越し、前方遥か先に着弾した物は持ち手の付いた直径一メートル近い鉄球であり、その表面からは禍々しい棘が放射状に何本も伸びているという、いわゆるモーニングスターと称される鈍器であった。

 人間には保持する事が不可能な巨大鈍器は、当然それに見合う存在である壁級殻徒(ウォーラー)が使用する物であり、進行方向を塞ぐ形で投擲した殻徒の搭乗者により報告がなされる。


『ノルカ大将代理、前方に敵性らしき集団が見えたんで潰しました!』


 現在位置はなだらかな草原地帯ではあるが完全なる平坦というわけではない。

 それどころか平面的な地面は無いと言っていい。絶えず昇るか下るかの繰り返しが続く道は、伏せるだけで襲撃者の姿を隠す事が可能であり、地面と接するように進む車内からは確認し辛いものなのである。


 そうなると後方からとはいえ、四メートル上から見下ろせる壁級殻徒の方が索敵能力は高いわけで、同時に投擲による攻撃手段がある分も加えて強力な自衛存在でもあるのだった。


 報告の間も進行は止まらず、先頭車にも徐々に全体が見えてくる巨大鈍器の周りには何体もの魔族が押し潰されて死んでいる。

 さすがに一投で殲滅というわけでは無く、集団の大半は散り散りに逃げて行く様子が見えるが、再度集結して襲ってくる気配も無いので放っておく事になった。


「身体の模様に見覚えねえけど、種族的にゃあ目的地の支配種族だった野良魔族、『蛇頭族(カプトゥバ・イパー)』だなあ……。亜種か眷族か、同族の支配種族が全滅したんで次は自分達とでも思って他領域に逃げてきたんかね?」


 モーニングスターの直撃ではなく、鈍器衝突の衝撃で麻痺しただけの個体の始末と、襲撃者の正体を知る為にのしばしの停車。ヨミスケの推察にバリュートは安堵した。


 進軍初日の為に未だ見敵必滅な気分が抜けない兵士が大半だ。街道に鈍器による大穴があいてから、ヨミスケの「おいおい、一応人族の商人が使ってる道なんだぜ」とボヤく言葉が聞こえて「しまったぁ」と思っていたのだ。

 様は結果オーライである。


『ヨミスケさーん、まさか一般人じゃないですよねー?』


 最後尾からのセイルの質問である。

 地球世界の、それも危機意識の鈍感な日本の感性を残しているセイルにしてみれば、人族の使う街道を移動する以上、遭遇する有力な対象は敵では無い存在となる。

 唐突に前触れもなく前方の部隊長機が武器を投げるのを見て唖然とし、それが原因で転びかけ、今ようやっと体勢を直しての質問だったのである。


「おー、正体は分かんねーけど、一応野良の連中だわ。まあ、不幸中の幸いだな」

「こーらっ、ベルケンス!。先ずは報告だ。何の為にワシが先頭にいると思ってんだ!!」

「おおお、スンマセン大将代理、つい」


 壁級殻徒部隊の隊長であるベルケンスは投げた武器の回収に一機前方に移動し、ついでにクレーターと化した道を簡単に埋めて踏み固める。

 一緒に埋められる事となった野良魔族の手足が地面から飛び出しているのは御愛嬌であった。


 セイルの機体と違い、操縦系のほぼ全てが思考だけで駆動する本来の仕様である壁級殻徒は、いわゆる巨大ロボットに定番の外景を映し出すモニターが存在しない。

 搭乗者にとっては乗るというより巨大な身体を得るに近い感覚で動かす事となる為に、視覚や聴覚などの五感も含めて殻徒とリンクする事となるからだ。

 故に視覚そのものも拡張される仕様となった搭乗者には、数キロ先の情景すらも裸眼で見るのと同じ感覚で得られるのであった。


 因みに、セイルが動きにモタついている原因は、自前の身体の感覚と殻徒としての感覚が重複して感じられる混乱から来ている。五十センチも無い自分の足と二メートル近い殻徒の足、普通に歩こうとして本能的に動かす感覚のズレはそう容易に整合しない。

 足だけを動かすならば問題はないのだが、これが移動となると全身の感覚が連動する事と成る為にズレとして感じる事が膨大になるのだ。視点の移動、脚を繰り出す過程での上半身の連動性、着地する際の反動の打ち消し。

 練習用の礫級殻徒では限定的な動きしかしない別人の行動パターンへの変換が為されていたので操作の苦労は少なかったのだが、今回、元々の行軍予定ではそこら辺の甘い仕様が廃された本格的な訓練を兼ねるつもりであったので、こうも動かすに厳しい機体となったのである。


 言わばセイルは、改めてハイハイから立ち上がり、アンヨは上手という状況を繰り返す事となっていたのであった。


「ううう、納得はしてるんだけど、コレ、キツーイ……」


 特に時間制限の無い完熟訓練の予定が、急遽時間制限有りのスパルタ強行軍となった悲劇。しかし、ならば訓練はまたにして殻徒は置いてくるという選択はセイルには無い。

 例え個人の願望より優先する公務が山ほどあろうと、セイル自身に成人としての分別があろうと、始めての巨大ロボット操縦という機会を逃せる程達観しているわけでもないし幼児の感性を捨てれてはいない。

 寧ろ特定の我儘はし放題という環境には完全に溺れている。


 そして人間、望む苦労は快感と感じれる動物でもあるのであり、弱音を吐いているセイルではあるが、その顔はヘラヘラと危険な笑みを浮かべていたりするのである。


「いいなー、ベルケンス隊長、あんな武器軽く振ったりして……、僕も剣とか振りたいなー」

「セイルよ、今は歩くのを覚えるのに集中しや。我もさすがに転がり飽きてきた」


 胴体部を丸ごと操縦席として使うので空間の余裕はある。馬体に取りける鞍のような座席は様々な姿勢を取る殻徒内での搭乗者にとって負担の少ない形から採用されている。

 逆に、激しい行動でも広い内装の中で身体が跳ねないようにと、ショックを和らげる意味での固定具の拘束もあるのだが、これも搭乗者専用の調整をされているので安全性は高い。

 ただ、その汎用性が高い設定は成人が乗る前提なので、幼児であるセイルの場合その汎用性も追いつかず、実はかなり強引な方法で固定される事になっていた。


 具体的に例を上げて言えば、膨らみっぱなしのエアバックに前後左右から包まれている感じだろうか。幸い鞍の位置も嵩上げしているので固定ハーネスやエアバックに顔面が埋もれる羽目にはなっていないが、もしそこら辺の注意がされていなかったら、たび重なる転倒でズレた拍子に窒息する事となっていたろう。


 さらにセイルが巨大ロボにイメージするような、モニター表示式のコクピットだった場合完全に視界が狭まったであろう事請け合いである。

 更に加えて。


「グウェリ……、正直に言うと首が痛い。あと後頭部が熱い。のぼせるー」

「男は我慢強い程価値が上がるのだそうだぞ。なので耐えれ、や」


 ダンゲル親方始め整備兵の細心の調整を無碍にするがごとく、タンデム仕様の突貫整備された鞍、セイルの背後にはグウェリの姿があった。

 まるでグウェリが背凭れになったように、セイルを背後から拘束、もとい支えている形だ。ただ何時もの抱き人形モードと違い、座高の違いからその位置は微妙に変化しており、その巨大なる双丘の間にセイルの頭部が完全に挟まる様相となっていた。


 ぶっちゃけ現在のセイルは顔を左右に向ける事さえ不可能である。

 操縦的な視界を遮る事こそ無いが、この不自然な体勢も未だセイルの操縦感覚を乱している原因のひとつだったりする。


『坊っちゃんー、早いとこ慣れないと何時までも最後尾で出番無しだぞー。て事で、一班の二、三番は隊列中央三時、俺と四番は同九時の位置で街道の両側を哨戒モードで進行する。今後は大将代理の判断待ちでの行動となるから各自気を抜いてんなよ。二班三班は引き続き坊っちゃんのガードだ。つうか、前に転ぶのだけは阻止だぞ。従者トレーラーにぶつかったら確実に壊れる』

『了解!』

『うわぁーん』


 壁級殻徒三部隊の内、部隊長指揮の第一部隊四名が隊列中央となる従者トレーラーの左右に並走する形で展開する。

 同時に礫級殻徒を乗せている先頭の獣働車からも二人が降り、重さを感じさせない跳躍で同車の屋根に飛び乗った。二人とも携帯できる小型の弩で即時応戦の構えで待機する。


 実の処。壁級殻徒はその性質上移動する防壁として進軍するのが普通だ。

 人族が弓を持つように、魔族だって人に近い身体の種族ならば同様の武器を持つからだ。

 碌に索敵しつつの行動が不可能な場合、本来ならば壁級殻徒が全騎でガードしつつの不意の遠隔攻撃を防ぎつつの進行となるのである。


 だが今回、急ぎはするがセイルの進行に合わせるという矛盾つきの行程となった。

 更に二足歩行をするという条件から出た不都合の妥協点から、防壁である存在が最後尾という形となっていた。


『坊っちゃん~、せめて地面をヘコませないで歩けるようになったら前に出る許可はやるぞー』

『ううう、がんばるー』


 つまり、現状セイルの歩いた後は到底街道とは呼べない不整地と化すのである。

 巨大な歩幅の千鳥足で付けられた足跡は、さすが不整地仕様の獣働車でも踏破は難しい。

 結果、一番後ろを歩き、そのガード役として同サイズの殻徒が守りつつの行進なのである。


 この巨体でも、殻徒の特性上扱い慣れれば足を置いた地面に僅かなヘコみも作りはしない。隊列の中央へと軽く走る四機は空気の対流で大量の砂埃を撒きあげるものの、地面からは小石一つ跳ね飛ばさない繊細さで移動している。


「むううー、負けなーい」

「むぐ、精進ひゃの」


 コクピットの広い空き空間を最大限に利用したように、所狭しと詰め込まれた様々な食糧の数々。当然グウェリの物である。

 セイルと共に身体を動かし辛くはあるものの、手に触れる物を取ればいいだけなのでグウェリは苦も無く食事中だ。


 たまにセイルの口にも駄菓子を運びつつ半日が過ぎ、野営後の日も昇りきる前から進行は再開。その日も三度程部族名不明な野良魔族の襲撃があり、苦も無く撃退される。

 セイルの操作は段々と慣れて行き、まだ足跡は消せないものの歩行自体の苦労は無くなった。

 二度目の野営も終え進行三日目。今度は昼の小休止を狙ったように人族の山賊らしき襲撃があったものの、むしろ車内に詰め込まれて鬱屈していた礫級殻徒達の格好の餌食となってしまった。

 セイル自身は精神的な疲れから昼寝をしていたので知らないまま終わった一幕である。


 そして四日目。

 毎日コクピットを隙間ない状態にするグウェリ厳選の食糧もとうとう在庫が突きかけようとなった昼前頃、何かがストンとセイルの中でピッタリと収まる感覚が起こり、殻徒を動かす違和感が消えうせた。

 自分の身体と殻徒の躯体、両方の境目が無くなり、腕はおろか指先までもが殻徒とリンクした事を実感したセイルだった。


「これっ!、うん分かった!。なんだこんな事だったんだー」


 体感するの言葉どおり、その感触は言葉に出来ないのではあるが確かに分かる。

 鋼鉄の足の裏が地面に接する感触すら分かり、“そっと”置く事で体重をかけないようにする事もできる。

 足をどけて地面を見下ろせば、そこに巨体の重量を受け止めた印は刻印されていない。

 それはもう、少なくとも殻徒として歩く事にかけてはセイルが完全に体得した形なき証拠であった。


「やったっ、やったー!。できたー」

『おお?』


 突然歩くのを止めて軽やかに動きだしたセイルを確認した周囲の兵士らは、感嘆の声が上がり始める。

 それはやがて導火線のように隊列の先頭へと伸びて行き、『おおおおっ!!』という歓声へと変化していく……ように見えた。


『地平線に街を発見!、推定“マグリの街”を発見!!』


 歓声の後に続く報告。

 そう、それはセイルの成長を喜ぶ声ではなく、本来の目的、その場所へと到達した事への声であったのだった。


『あー……、坊っちゃん、どんまい』


 そばに立つ兵士の慰めも虚しく、大地に優しく“orz”のポーズを取るセイルの姿があったとかなかったとか……。

 後々この経緯を知るという者が酒場で語る話しのひとつとなったのである。



〈~続く~〉




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