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リトルオーガ in カレイドスコピカレード  作者: 雲渚湖良清
幼児の章【三】 青い児鬼とカラクリ魔人
18/40

メイ・フォレスト

 『商魂逞しい』という言葉は異世界でも共通の認識らしい。そうセイルは思わずにはいられない。


 ウルの一時帰還によって最終決定待ちであった案件が幾つか片付き、セイルの初支配者となった記念すべき領界を含む領域を『セイリュウ温泉砦』と命名する事になった。


 ずいぶんとフザケた感がないでもないが、そもそも“温泉”という言葉に含む事の無い、事実のみを記した意味の事なので、そのイントネーションに微妙さを感じるのは元凶でもあるセイル本人のみなのである。


 そして正式名称も決まり更に一週間ばかりが過ぎる。

 祭壇を隔離する砦自体の建築と主街道の整備も終わり、以降の資材調達は通常の流通網に移行し、以後のセイルの裏技も禁止となる。

 さすがに微震や土地の隆起と並行しての建築作業は無理なレベルになった為で、それを機にか中央領界外縁に造られていた建築作業員の集落は西の無印領界と接する最西端の領界の街道沿いに移設された。


 この移設時に、中央領界を含む全二十九領界の開発の主機能を持つように計画的な集落設計がされる。

 移動のしやすさや物資集積および拡散の利便性を目的とした位置のため、同時に外敵の目標にもなりやすくなる。だから最初から防御面を高める城塞都市型となる予定で、基礎的な防壁はセイルが湧かせた余剰資材を利用し既に組み終わっていた。


 壁の内側も杭や木板で道路や施設建築予定地を大まかに区切り、その中で働く者はディムオウグ領でも領家に近い者で固めている。

 この新しい領域全体の要となる拠点なのだから、その配慮は当然である。仮設の防壁には中に入る検問も作られて、資材搬入の作業員全員がチェックを受けてから入っていた。


 で、街ひとつを作ろうという資材である。

 その流入量はとんでもない数字となる。移設開始から三日ばかりは自領内の身内同然な者ばかりなのでザル同然の検問だったのだが、何処で聞きつけてきたのか他領域からの商人がどっと増え、否が応でも厳しい検問をしなくてはならなくなり、結果、検問渋滞という状態になったのである。


 渋滞といっても数時間単位で落ち着くものでは無く、数日間は確実というレベルだ。渋滞発生以降も続々と商人が集まるスピードは衰えず、気付いてみれば防壁の周りには雑多な商人街が出来てしまっていたのである。


 どうやって作ったのかなかなか頑丈そうな宿屋が何軒も街道沿いに並び、同様に酒場や娯楽施設もできている。

 自主的か誰かが管理しているのか、大規模な物資集積場が広めの土地に勝手に作られ、自警団的な存在まであった。


 明らかに商人以外の存在も増え、セイルより小さい子供も何人か、得体のしれない土産物屋を覗いてキャイキャイと騒いでいる。

 たった四~五日でこの有り様。


「商魂逞しい……」


 その熱気ある惨状を観て呟くセイルに、随行する一同、同意するしかない心情であった。



 ◆  ◆  ◆



「お昼からヒノの配置変え?」

「ほんの数日間の予定ですが……」


 時間は少々巻き戻り、早朝、新城塞都市内に造られた領主の館にて。


 館といってもたった数日で建てれるわけでなし、予定地に仮設の山荘(コテージ)風の施設が三棟ほど組み建てられたに過ぎない。

 だが、護衛とメイド、客人(?)であるドラゴン姉妹と、数人で過ごすには困らない規模で、広さ的には中央領界に建てた仮設小屋よりも立派な物である。


 セイルの支配者的裏技披露のラストで、中央領界に一ヶ所だけだった源泉の湧き出し口が他の領界に幾つも作られた。

 家臣の要望では飲料水となる“泉”の方だけだったのだが、そこはセイルの駄々も混じり、領界に影響の出ないギリギリの数が許されたのである。


 そのひとつがここ、領主の館予定地で、地面から直接湧くのではなく庭園にする予定の一角に、後の工事の邪魔にならないよう高さ二メートル程の水晶柱を出し、その中から湧くというオブジェ風な仕様になっている。

 現状そのオブジェに寄り添う形で周りを掘り起こし、露天風呂にして癒されている住人一同だ。

 もちろん敷地は防衛主体で塀に囲まれているので覗かれる心配は無いし、薄い板という観てくれに対して結界魔術も完備済みなので侵入者など塀に触れもしないレベルである。


 ここまで周囲の警護が完成すれば敷地内の行動の自由度は高くなるので、セイルが一人、どこを彷徨こうと問題も無いのだが、何故か風呂に限っては女性陣の誰かが随伴することに“決まっていた”。

 セイルとしてはまだ照れくささが完全に無くなったわけではないが、同時に喜びは多分にあるので否は無い。

 性欲に直結することは本能的にまだ無いが、純粋に、自由にオッパイに戯れれるのは嬉しいのだ。


 紅葉の葉よりは多少成長して大きくなった“ちっちゃな手の平”には“溢れる肉球”。

 セイルとしてはもう自分自身で身体は洗えるのだが、それが許される事はなく、全身洗われるに任せるしかない。

 当然のようにタオルで擦られるのとは別に“プルンプルン”と質感高く衝突してくる感触を実感する事が毎日だ。

 顔面を“パチン”とはたかれて、その質量に頸椎が悲鳴をあげと時は『あー、うん、ほんと凶器だ、これ』と実感したセイルである。

 凶器である以上“それ”が自分を傷つけないよう、しっかりとガードする意味で“揉み掴む”のも必要な行為なのである。


 ひと通り洗われ終わったら一緒に湯船に浸かって暖まる。

 プカリと湯に浮く柔らかい凶器を枕に、湯船に浸かり腰掛けるヒノの膝に抱きかかえられ、そんな女性を背もたれ付きの椅子にする形で湯に浸かりながらの会話であった。


 ヒノからの配置変えの話はセイルにとっては寝耳に水で、昨日の昼に様子を見にきた父、ウルからも何も聞いてない。

 短期間の配置変更程度とはいえ、領主の息子の世話係りである。交代要員の下手な人選などできないのだから、余裕をもって話しがくるのが常套なのだが、今日、目覚めて直ぐの朝風呂でとは随分急な事である。


「実は下知ではなく、上申でして、“致し方ない”と許されました」

「?」


 ヒノが意味の分かるように言ってないのでしょうがないが、なんとなく“言いたくない”という雰囲気はセイルも分かった。

 しかし一応聞いておかないと、とも思うので素直に“分かんない”との意志表示である。

 それはヒノも分かるのだろう。『はあ……』とひとつ溜息をつき、重い口をひらいた。


「昨日、御館様の視察に随行して、ミィノを始めメイド隊十名が私の補佐要員として着任する予定だったのですが、急遽別任務に人手が足りないとの事で駆りだされたのです。しかしその任務がかなりの重労働で、昨夜ミィノに泣きつかれまして、……私もサポートとして入る事になりました」


 別任務とは当然、滞っている“検問”作業である。

 調べても調べても終わらない状況。結果的にこのまま放置状態となる期間が長引くと、日持ちのしない商品を扱う商人は損を出す事になり、その不満をぶつけてくる事となる。

 言いがかりに近い状況ではあるが、それを無碍に扱うと後々面倒な事になるので、可能な限り対応するしかないものなのである。


 で、ようやく冒頭の言葉に繋がる。

 『商魂逞しい』。好奇心が湧いてヒノにくっついて見学にやって来たセイル。その護衛として随行する一団。その眼前に広がる、混沌な印象がありつつもしっかりと秩序ある集団となっている“街”の様相を現した感想である。



 ◆  ◆  ◆



 検問作業は防壁から商人達が自主的に作った商品集積場に移行していた。

 ここでディムオウグ家の関係者が商人と商品の出所をチェックし、許可の出た者を防壁の内側へと移動させる。

 商談は内側に入って以降、各商人の采配次第となる。


 これは、この集積場に来た他領域の商人が全て一見いちげん、元々依頼を受けて商品を運んできたのでは無く、見込み販売の売り込みで来たからである。

 新しい街が作られるのだから、資材となる商品は幾らでも必要だろうという特需に当て込んだ飛び込み販売だ。


 確かに建材関連は無限に必要と思われる程だろう。実際、セイルが湧かせた建材も、砦や街道整備に必要な程度といったアバウトな量であって、そもそも『街を造る』という発想での行動ではなかった。

 防壁用に余剰が出たのは単なる偶然であったのが実情である。


 現状、確かにこの手の商品は幾ら有っても困らないのではある。なのだが、その出所が問題なのだ。石材、木材、それらが“何でもいい”とは限らない。中には建材として使用不可能という物もあるのである。

 それらは街の中に入れても無駄というか、ヘタをすれば事故の元となるから入れるわけにいかない。入れてしまえば口八丁手八丁で売り捌かれる可能性もあるからだ。

 それで将来的な欠陥建築を建てられたら困りものだ。


 加えて、商人に偽装した“間者”の流入防止もあった。

 街の地理を事前に把握される事はもちろん、まだ形になる前に色々“工作”されては困る。テロに活用できる魔術なども存在するのだ。それらをこの混乱時期に施設されたら、それこそ堪ったものではない。

 このような技を駆使するのは人族であり“味方”の陣営ではあるのだが、どうも味方の足を引っ張る事に執着する愚かな事に熱を上げる者は案外多い。


 特に、派手な戦闘で功績を上げ続けるディムオウグ家にチョッカイをかける馬鹿は後を絶たないのであった。


 更に日持ちし難い食料、日曜雑貨類など、必要ではあるが選別の難しい品々もある。

 なにをトチ狂ったのか、金品系装飾品まで売りにきている者までいた。


 そんな大量の物資の間をミィノ達は駆け摺り回っていたのである。半端本気で泣きながら。

 母マリシアに付き従うメイド隊は、元々マリシアの生家出身でディムオウグ領よりはヴィーツィック家に近い地方の出身であり、中央である皇帝領にも近い。

 流通物資の幅の多い地域出身という事で必然的にその見識も高いため、この惨状を効率的に解消できるだろうと丸投げされたのだが、さすがに限界量を越えていた。

 メイド一人に補佐役の兵士三人が付き、検品実務は男手に任せての行動ではあるが中々疲労困憊の様子である。


 ヒノも仲間に習い、セイルの護衛から二人の兵士を借りうけて現場責任者へと挨拶に行く。そして見学に来たものの、セイルは完全に邪魔者だ。下手に手を出すのも躊躇われ、残った兵士一人を連れて、この雑多な街の散策をしようという事になった。


 護衛付きとはいえ幼子一人には危険な場所と感じるが、そのセイルが見ようによっては一番危険な存在だ。問題、それが大事になっても被害を被るのは自分達が関与しない商人達である。むしろ『何かあって少し減ってくれた方が助かる』と身も蓋もない事を治安監視の家臣にぼやかれつつ、散策の許可は下りたのである。


「やー、かなり荒んでるよね」


 護衛の兵士、名をカインという中年気味の人族は苦笑いで同意を返した。


「ウル様は近年も何度か領界を得てますが、そこが新しい生活拠点になる事はありませんでしたからな。このような状況は皆初めての事ですから仕方無いでしょう」

「そうなの?」

「砦としての拠点にはしますし、その警護の者を商売相手にする者も出来ます。が、そんな商人は片手の数で足りますからな」

「んー、そっかあ」


 人族の勢力外に新たな街が生まれる。実に百数年ぶりの事である。

 これから数年後、実質的な最前線が更に東に伸びた事から、この領域は要害としての機能を必要としなくなるが、代わりに保養地としての需要を高める事なり、一代観光地とも化すのであった。


 因みに、その中心となるこの城塞都市はセイルの独断によって『クサツ』と命名される。

 隣接する他領界に作られた衛生都市も『アタミ』やら『ハコネ』やら、温泉にかこつけた命名がされるが、そのネタを突っこめる者がいないので少々残念がるセイルなのであった。


 さて、その温泉街の片鱗を早くも出し始めているのか、主街道から勝手に作られた横道には、商売をしに来た商人達を相手にするような露店が並び、得体の知れない品々が陳列されている。『オンセン名物』と名打たれているが、食べ物はともかく商人の護衛を対象にしているのか、武器や防具にまで“オンセン”と付くのは如何と思うセイルである。


(これってアレ?、温泉街で木刀売ってるのとかと同じ理屈なのかなあ?)


 バイト先の慰安旅行に混ぜてもらい、箱根の土産屋で見た光景を思い出すセイルである。

 なぜかつい欲しくなるのが不思議であったとも思いだす。


 手持ちのお金は無かったが、予めカインがこうなる事を予想していたヒノより予算を預かっていて、手頃な焼き串などを買って食べ歩きとする。

 やはり太古から日本人ギフティスの影響を受けているせいだろうか、『けん玉』などのオモチャが普通に売られていたりして、妙な懐かしさを感じたりもする。


 そうして三十分ほど散策した時、セイルはグウェリを発見した。

 なぜグウェリと分かったかは謎だ。双子と思えるような金髪の美少女へと変じるドラゴン姉妹のグウェリとマリーンは、外見上見分けがつかない。

 が、実はグウェリの方がほんの少しオッパイの密度が高い。その弾力を体感しているセイルだからこそ分かる違いだ。

 セイル本人にして自覚の無い見分けの理由は、ここらが鍵なのかもしれないが、その確証を得る手段は存在しないのである。


「お、セイルではないか」


 グウェリも気付き、挨拶代わりの握った拳の指の隙間に余す事無く挿した幾本もの串菓子が男二人に指しだされる。

 どうやら今日もマイペースに食事中らしいグウェリであった。


「美味いぞ、くやれ」

「ありがとー」

「頂きます」


 団子状のカステラを四個串に刺した菓子で、ザラメが振りかかっていて中々甘い。

 セイルには丁度いい味だったが、カインには少々甘過ぎる。そんな菓子だ。

 ぶっちゃけ駄菓子屋定番の代物である。グウェリはそれを左手に可能な限り保持し、次々と串のみにしていた。右手は何故か空のままである。


 理由はすぐ分かった。見る間に全て食べつくした串を捨て、今度はリンゴに良く似た果実を丸ごと一個串に刺し、外側を砂糖と蜂蜜で練り上げた水飴でコーティングした菓子、つまり『リンゴ飴』の屋台から片手で握れるだけ買い、その代金を右手で支払っていたのだ。腰には巨大な巾着がしっかりと結わい付けられ、万が一にもスリ盗られないよう特殊な結び方までされている。


「グウェリ、お金持ってたんだ」


 セイルの素朴な疑問。基本、魔族を狙って食料にしていたグウェリは人族の金を持っていない。人の食事がしたければセイルのところへ来訪するのである。なので特に必要としなかったのであった。


「マリーンに学んでな。人族は対価をもって食を得ると。ならばその道理は守らねばな」

「へー……」


 マリーンは基本的に人の姿のまま諸国美味い物食道楽を満喫中である。

 その過程で、何時の間にかその手の知識を得たらしい。

 ただ……。


「でもさ、そのお金はどうやって手に入れたの?、なんか仕事したとか?」


 どうにも、この姉妹が人的な行動をするのに違和感があるからの質問たった。そして答えはグウェリが“現物”を取り出す事で“よく分かった”。

 『深紅に輝く大ぶりのウロコ』、セイルも良く知るドラゴンのウロコである。


「価値ある物を売って価値ある物を買う。人族の慣習によるところの等価交換じゃの」

「いやそれっ、だめぇぇぇ!!」


 反射的にセイルが叫ぶのは当然だとカインは納得した。



 ◆  ◆  ◆



 まだ日も昇らぬ時刻、朝霧ならぬ湯気立ちこめる“クサツの街”に、キイキイ軋む木の関節を鳴らしつつ、男は到着した。

 遠方より確認してから一日強、四百キロを徒歩のみで走破したはいいが、着いたら着いたでまた呆れる事になる。

 まさか、もうこんなに人の坩堝となっているとは思わなかったのである。


 ざっと街全体を流してみて、おおよその状況を確認し、実のところ“ここ”はまだクサツなる街の中ですらないとも分かり、しかも街に入るには厳しい事も認識する。


 『まあ、趣味の“お仕事”だしな』と納得して気長に動くとし、情報収集がてら露天商を始める事にした。


 売り物は道中に狩った獲物を加工した魔術薬である。

 塗り込んだと同時に切り傷を塞ぐ軟膏など、一般人にはあって困らない物なので良く売れる。

 伝書鳩の機能を持つ『折り紙式神』も有るだけ売れた。“捕らぬ狸の皮算用”で来た商人も少なくないようで、予定しない長逗留を身内に伝える術は欲しかったようだ。


 そうして手持ちの資金が増えた昼前、目の前に独りの金髪が美しい少女の観てくれをした“何か”がやってきた。


「おぬし、魔術を扱う“異形”よな」


 質問ではなく、確認、もしくは断定。なるべく目立たないよう普通の人族の幻影を被っての行動だったが、そんな小細工をあっさり見破られていたようだ。


「お客さんも“中々のようじゃないの”」


 得体の知れない少女にカマかけ半分突っかける。

 特にこの領域に害を成すつもりは無いが、疑われたら色々ボロが出る自分でも怪しい素性持ちだ。

 ここまで正体を探らせないほど“人に化ける奴”相手に通用するかは分からないが、トンズラする用意をしつつ一応は相手をした。


「“分かる”なら話しが早いの。おぬし、『コレ』の価値が分かるか?」


 そう言って少女が取り出したのは一枚の歪な円盤。大ぶりの貝のような形で、深紅に輝く宝石のような透明感ある物。こんなほったて小屋の集まりな街など全て塵に変えるような魔力を内包した超レア素材、『ドラゴンのウロコ』だ。


 絶句した。とてもこんな場所で拝む物ではない。

 その反応に満足したのか、『こいつを買わんか』と少女は言った。

 それは是非もない。が、しかし、問題がある。

 手持ちの資金じゃ、到底買えるものでは無いのだ。


「出所はともかく、喉から手がでるほど欲しい……、が無理だ。買えねえ」

「ほう、何故じゃ?」

「あんたに払える金が足りねえんだ。オレは今朝ここに着いたばかりでな。今は活動資金を集めてる最中なんだよ」


 得体の知れない者同士、そこは正直に言うしかない。下手な騙し合いなどしたら、それこそ洒落にならない事になる。

 だが、それが少女には気に入ったらしい。


「ほう、しかし並んでる売り物とやら、どれも子供が喜びそうな遊具よな。それでは今夜の宿代にもなりそうにないがの」

「大半の代物はもう売れちまったんだよ。ぶっちゃけちまえば、あんたのブツを買うにゃもう一日ありゃあ金が揃う。そんくらいは朝からの半日で儲けれたのさ」


 謙遜ではなく男は言う。この雑多な街で売り買いされる物を素材に、男が持つ魔術薬やアイテムは幾らでも作れる。

 それらは街の連中が欲しがる物ばかりだ。むしろ狙って作るのだから、今日以上の売り上げは予想できる。


「うむうむ、なら良いわ。おぬし、『テンプラ屋の親父』の云うとおりの“成り”のようだの」

「はあ?」

「実はのう……」


 主街道に早々に飯屋を開き、荒稼ぎをしている店がある。

 しかし暴利をするでなく、あくまで需要に応える結果の事である。

 それがたった数日で近所から『テンプラ屋の親父』と渾名された男だ。

 揚げ物料理が絶品で、商人は当然兵士達にも人気が出始めていたのだが、昨晩店を閉め、揚げ油の交換時にうっかりとまだ熱い油で大火傷を負ったのである。


 深夜であり店員はとっくに帰らせて独りきり、ちゃんとした施術士は防壁の向こう側。見回りの兵士達は先程店の前を移動するのを見たばかりで当てにできない。

 こちら側にいるかも知れない流れの施術士も、この身体では探せない。自由に動くには無理があるほどの範囲で火傷を負ってしまったのだ。


 そうして数時間苦しんだ末に表れたのが、今朝未明に街に到着したこの男である。

 ちょうど呻き声を聞きつけたのか、鍵などかかっていない店内に入るなり親父の具合に気づき、魔術薬で快癒させたのである。


 親父にしてみれば命の恩人。こんな治安など無いような場所だ。どれだけ治療費をふっかけられてもしょうがないと納得ずくで店をだしていたのだから、破産覚悟で『幾ら払えばいい?』と聞けば、一々素材の値段を上げ連ねた挙げ句、タダ同然の請求で済んだ。

 で、死にかけた者を瞬時に治すような薬がどれだけの価値を持つものか説教したうえで、せめて朝飯を奢らせろと用意している間に姿を消されたのである。


 だが、すぐに居場所は分かった。

 もの凄く効く薬を売っている露天商がいるという話しは、店が開店する早々に客同士の世間話にのって聞こえてきたのだ。

 だからというわけでは無いが、親父もその手の商品を求める客に暗に進めていたのである。


「ああ、何人かオレを探して買いにきた奴らがいたが、あれは今朝のオッサンの伝手だったのか」

「我もその口での。本当はこのウロコで飯を食おうとしたのじゃ。そしたら怒られた。『こんな代物で何万食食うつもりだ!』とな。でおぬしを進められた。『多分ウロコの価値が分かり見合う金を払うだろう』、とな」

「たったあんだけの流れで随分買われたねえ。つかよ、あのオッサン、そのウロコの価値が分かるって何者だよ」

「さての、どうも先祖がドラゴンとの因縁あるようには言ってっおったの。で、どうじゃ、このウロコを買うか?」

「買いてえな。だが金が足んなきゃしょうがねえ。またの機会を逃さねえように、今後はもうちょっと手持ちを増やす事にするよ」

「その手持ち、明日に揃うなら今でも良かろ。有るだけの金を寄越しゃ。残りは明日でよいよ」

「おいおい、随分豪気だなそりゃ。トンズラするかも知れねえんだぞ」

「その時はその時。我がウロコの在り方を探せないとは思わんじゃろ?」

「おおお……、なんかスゲエ説得力だな、おい。なら問題ねえか、明日の同じ時間に残金は払うから、有り難く貰うぜ」

「うむ。む、随分とデカい巾着じゃのう」

「……だからよ、幾らすると思ってやがんだ?、あ、姉ちゃんよ、一応名乗っておくぜ。オレは『メイ・フォレスト』魔術師で錬金術師で傭兵で、“商人”だ」

「む、そうか。名乗りは必要なのじゃな。我は“グウェリ”じゃ」



〈~続く~〉



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