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リトルオーガ in カレイドスコピカレード  作者: 雲渚湖良清
幼児の章【三】 青い児鬼とカラクリ魔人
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湯煙瀑布の向こうにて

 セイルが初めて領界の支配者となる記念の日。

 サイリュウ砦では主君の末子であるセイルを我が子以上に可愛がる家臣も多く、その誉れとなる時を今か今かと待っていた。


 ここサイリュウ砦からも彼方の領界は視認できる。些細な変化といえども領界全体の変化ならば見過ごす事はなかろうと、手の空いている者は皆、彼の地に視線を飛ばしていたのであった。


 が、そんな細心を蹴散らすように、実にド派手な事をセイルはやらかした。


 隣接するとはいえ別の領域のために伝わる揺れは微震程度ではあるが、確実に砦へと伝わった。

 それは、セイルの支配が完了した合図であるのは明白で、家臣一同、『おお!』と歓喜に湧いたのだ。だが、その揺れが一向に治まらない。

 やがて、震源地である彼の地が大きく変化する様を観ることとなった。


 ゆっくりと大地が隆起し、徐々に山の輪郭を、更にそれが連なり山脈へと成長していく。

 大地は妙に太陽光を反射するようになり、それが水によるものと分かるまではしばらくかかった。更にその水が霧を発するようになってからはもう、観る全員に驚愕しか伝えない。


 早々に異常事態と判断したウルの留守を預かる留守居が偵察隊を編成し、現地へと駆けさせるも、途中で立ち往生するはめとなった。


 派手な変化を遂げた中央領界部分は実に七メートルほど隆起し、追々して隆起し始めている周囲の領域も、中央領界の急激な上昇を追いきれずに段差を作ったままだったのだ。

 さすがに殻馬とはいえ、そこまでの段差を飛び越える事はできず、さりとて騎手のみよじ登れるものでもない。

 更に、間もなく大量の水、いや“湯”が滝のように段差を流れ落ち始め、偵察隊は完全に移動を絶たれてしまい帰還するしかなかったのであった。


 結局、中央領界はわずか十分で変化を終えたが、周囲の領域までをも合わせれば約半日、揺れは続いた。

 実は変化させたはいいが完全に移動経路の想像を忘れたセイルが、追加で“宣言”をやり直し、各領界を繋げる街道を作っていたための半日だった事は現地の者だけの秘密である。


 やり過ぎた上に結果的に半端仕事となったセイルに『これはウル様からゲンコツ貰いますね』とヒノから言われ、半ベソかきつつ修正したセイルを哀れと思う皆の総意による秘密であった。


 最終的に大地な部分は変化前より七メートル隆起した丘的な感じに落ち着き、しかし六十メートルの壁とした山脈を加えれば完全にサイリュウ砦を守れる要害としての機能を備える領域となる。

 しかも泉であり湖と化した大地は丘を下る川ともなり、整地に苦心したセイルの甲斐もあって、砦と魔族領域を分断するような流れとなった。全体的に下り勾配になる魔族領域へと流れ落ちる形でもあるので、さて、どんな水害を与える事になるのかと、後々家臣一同の思案のネタになる事となる。


 そうして大騒ぎの後、領域全体も安定して、唯一変化の無い祭壇周りの土地は、その半径三十キロの円形の平地を有効に使おうと建築技能のある者達が測量に勤しんでいた。


 セイル達はもうお役御免であるので砦に帰還しても良いのであるが、急遽現地待機という事になり、せっかくなのでと円の縁である泉近くに仮設小屋を建ててもらい“逗留中”である。


「あー~~……、極楽ごくらく~」


 年寄り臭い感想全開で気分を表すセイル。泉の湧き出し近くは元々温泉として想像したので、入浴しやすい形状の水底にしてある。

 水深は六十センチほどで大小様々な玉砂利が敷き詰められており、湧き出す湯によって泥が巻き上がるような“仕様”にはなっていない。

 加えて、源泉近くの場所に限り濁り湯となるよう決めたので、乳白色の湯だから混浴も大丈夫である。


 これはセイルの中の青涼のスケベが出たわけではなく、むしろ逆の心意が働いたからの結果だ。

 この世界の慣習として、特に男女の裸身の露出自体には羞恥が介入することは少ない、いわゆる一部の欧州風な気風のためだ。

 そういう“必然性ある機会”があれば、ヒノを始めとしたメイド隊や皇帝領域出身のコルメット、実母であるマリシアでさえも人前に裸身を晒す事に忌避感は無いのである。


 当然、それが周囲に、特に女日照りの続いた兵士達(野郎共)にとって“猛毒”なのは分かりきったことなのだが、そう悶えるのは男の都合であり、女性陣には“関係無い”。


 そういう事で、セイルの直属として配備された部隊は、ほぼ全員、この天然(?)露天風呂で疲れを癒やしていた。

 勿論そこにはヒノ始め女性陣も含まれている。


 この世界にも風呂という慣習はある。だがディムオウグ領での水源はほぼ井戸となり、どうしても必要量をその都度汲み上げるというスタイルになっていた。

 そのため沸かした湯をバスタブに溜めて冷める間に洗いきるような『湯浴み』で済ますのが常識であり、このような『露天風呂』はセイルを除く全員が未体験なのであった。


 しかしその効果は全員に好意的に受け取られたようだ。

 女性陣の魅惑の姿態に欲情する兵士も多いものの、それ以上に温泉の効果を堪能している。


 まあ、この世の終わりのような激震の直中に置かれてからの反動……、という要素も大きいのだったが。


 ともあれ、治まった大異変と同時に急行してきたサイリュウ砦の偵察隊に経緯を伝え、砦にとっての適当な防壁程度に思っていたところが、より強固な要塞の候補となったため、築城関連の専門家が急遽結集され現在に至るわけである。


 永らく慣習として思い込まれていた『宣言』の実状も報告、そして再確認され、再びセイルに必要な箇所の変更や増築をさせるべく現地での待機となっているが、セイル本人はそれが可能かどうか怪しんでいる。


 どうにも漠然と感じていたように、構造的な建築物を想像するといった事が難しくてしょうがないのだ。

 脱衣所と宿泊を兼用とした小屋が建てられるのをじっと観ていたが、途中からよく分からなくなった。外見だけは再現として作れるかもしれないが、強度やら何やらと考えるとかなり危なかしいと自覚しているセイルなのである。


 結局その予感は正しく、試しと造った祭壇周りの石造りの祠は完成と同時にガラガラと崩れた。

 これを砦規模でやられたらたまったものではないと、餅は餅屋、建築の専門家達に任せる事となったのである。


 ただ、土地の位置調整や砦に使用する“資材”の調達にはこき使われる事となる。

 なんせ幾らでも石材や木材を湧き出せるのだ。大雑把でよいと言われつつも、出来るだけ形の揃った物を湧かせ、それによって変化する領界の段差からくる地形の変化も改めて調整していく。

 中央領界からの泉から流れる温泉水が周囲の領域へとわずかな段差を滝になって流れ落ちる仕様を利用し、隣接する各領界にも溜め池を造り、複雑な地形として、より侵攻される危険度を減らすようにした。

 加えて、温泉しか湧いていないという盲点から普通の泉も造り足し、生活に必要な環境を整えていく。


 結局、領界の支配完了から一週間、セイルは家臣の要求のまま、朝から晩まで巨大な砂場を何度もいじくり直す事になったのであった。


 が、そんな未来が待っているとは思わず、今は兵士達に羨まれながら女性陣に囲まれての温泉を満喫である。


 ぶっちゃけてしまえば、同年代で女と呼ぶのは語弊のあるものの、基本開けっぴろげの全裸仕様だった女の子(ピンキィ)とひと月近く同じベッドで寝ていたので、当初のように女体に過剰に反応することも無くなったセイルである。

 故に、同じ湯に浸かり、“何時ものように”抱かれる分には背や後頭部に当たるオッパイの感触にも慣れてしまっていた。


 とはいえ湯の浮力による何時も以上の弾力の強化。生で、なお抑える衣類が無いため、その双丘の谷間に“にゅるん”と埋まりそうになるのは新たな発見と新たな刺激である。


「(あにゃ~、乳枕、マジフクヨカぁぁぁ……)」


 女性陣も何故か代わるがわるとセイルを抱き寄せるので、抱かれ慣れたドラゴン姉妹の他、ヒノやコルメットの微妙な弾力差を体感として記憶してしまうセイル。

 実は身体が軽くてプカリと浮いてしまい、わずかながらもある流れに乗って徐々に“沖へと”移動するのを交代で守られているのだが、そこら辺にはさっぱり気づかない裏の内実である。


 こうして一週間、昼はこき使われ、夜は“癒やされ”、砦も基礎が出来上がってなかなかの威容を見せ始めた頃。

 遠征から帰還したウルがサイリュウ砦に着いたとたん顎を落としかけたのは当然といえば当然の事なのであった。



 ◆  ◆  ◆



 ウルとは別に、突然顕現した湯気に煙る『自然の要害風砦』に呆気にとられる人影があった。

 頭からすっぽりと灰色のフード付きの外套(マント)を被り、表情や容姿は分からないが、その全身でウルと同様の反応をしている明らかな姿勢である。

 その外見、そして微妙に違和感を感じさせる身体の動きは、宵闇に紛れてウルの倒した巨人の骸にうずくまり、何やらしていた怪しい人影、その人だ。


 あの後、占領した祭壇に陣地を築き、主力を残してウルは負傷者と共に一時サイリュウ砦へと帰還する事にしたのである。

 練兵の不備を実感し、後続として配備される予定の新兵を臣下と共に再確認するためで、場合によっては進軍行程の変更も視野にいれての事であった。


 この謎の人影は、そのウルの帰還部隊につかず離れず、単身気配を消して随行してきたのだ。

ウルとはだいぶ位置が違うが、『セイルの温泉砦』を発見したのはほぼ同時刻。そして思わず固まってしまったのも、ほぼ同時であった。


「ふぁ……、ファーランナーの領域が無くなってやがる……!」


 フードの奥から野太い男性の声音か漏れる。が、同時に小動物の“チュチチチチュ”といった感じの鳴き声も漏れた。


 外套から覗いた空を掻く震えた腕が晒され、その腕が生身の物では無く、木を素材に、大雑把な造形で作られた義手であることが露わとなる。

 その異様な風景に目眩でも起こしたのか、ふらつき、倒れないように大地を踏みしめ直した両脚も、厚い革のブーツこそ人族が普通に履く物だが、その脚自体は腕同様、木を素材とした義足である。

 震える全身に合わせて“カタタカタカタ”と硬い部分がぶつかりあう音。同時に木材同士が擦れて“キュッキュッ”と鳴る音も混じる。


 どうやら身体の所々が人工物で出来たらしいこの男(?)、遠くにそびえる出来たてホヤホヤの秘境温泉の以前の姿を知っているらしく、ただ狼狽えて周辺部を見回しているのかと思えば、そのフードの前には五センチ前後の小なさ魔法陣が何枚も重なるように展開し、間隔を伸ばしたり縮めたりと、まるで“望遠レンズ”の調整をするように動いている。


 実際、それは『遠見の魔術』であり、男が観ていた場所は前支配者であった魔族、およびその眷族の集落があったはずの辺りだった。

 しかしどの集落も既に生者の姿は無い。それどころか、ただ灌木が生える程度のだだっ広い草原地帯であった領域が、完全に丘陵と化している。その隆起に巻き込まれた集落は原型を留めていないし、あちこちに出来ている湖にも飲み込まれていた。


「つか、あの湖、何で霧なんて出してんだあ?」


 さすがに望遠の映像だけでは湖全てが温泉であり、たちあがる霧が実は“湯気”であるなど推測のしようも無い。

 むしろこの時点で正解を言い当てたら、それこそ正気を疑われるだろう。


 であるからして、男は事の詳細を得るべく行動する事にした。

 本来の依頼とは関係無い、個人的興味を優先するために。


「“あのバカ”の依頼にゃ、そう簡単に結果なんて出せんからなあ。ちょっと寄り道も好いよな」


 誰に言い訳するでもなくの独り言をひとつ吐き、ウルに付いてサイリュウ砦へと潜入するつもりだった男は進路を変更する。

 霧に煙り謎めいた様相をさらす場所へと。



 ◆  ◆  ◆



 『温泉砦』(仮名)。

 ウルが顎を外していた頃、砦の外観は半分程は建て終わっていた。サイリュウ砦に配備してあった壁級殻徒(ウォーラー)が三体ばかり土木用に駆り出され、積み木を組み立てるようにさっさと建ててしまったからだ。

 まずは土台兼用の基礎である平屋建てが強固に組まれ、二階、三階と追加するように木材やら石材が運び上げられている。

 本来は平地に建てる事を念頭にした様式なため、監視塔兼用の二~三階は必要なさげなのだが、半径三十キロの平地となると、この場所には砦どころか城を建て、街を造ってもいい規模である。

 それを見越した見栄を含む階層式なのだと身も蓋もない事をセイルは言われ、そして言われるままに資材を“湧かせていた”。

 それによって微震と共に各領界が微妙にせり上がるのだが、こう毎日変化を目の当たりにすると大体感じも分かってくる。

 中央領界ばかりで資材を湧かせずに、サイリュウ砦へと続く街道沿いの別領界でも湧かせることで領界同士の断絶を引き起こさない程度の傾斜を維持しつつ、それらの資材を街道整備に使用する事で早くも“都市”といった雰囲気を醸し始めていた。


 魔族領域に近い東側はワザと陥没させた場所を溜め池や湖とした地域にし、地上を移動する者にはかなり厳しい状態となっているが、その整備が意図通りに反映するのは領域内である半径約三百キロ圏内でしかない。

 管理しない無印の領域で流れた温泉がどう変化するかを放置すれば、最悪自分たちの領域へマイナスの効果として帰ってくるかもしれない。

 それを無責任かつ人族にとっては気分的に有意義な方法で解決する事になった。


「“ここ”から……、“あっち”の方へ、“全力”でお願~い」

「心得た」


 最南東の領界の端、ここから先は無秩序に湯が流れるままで、無印の領界では土質が違うせいだろか、よく土中に吸われて底無し沼のようにぬかるむ地となっている。


 その二つの領界の境目に“そびえ立つ”強大な存在である“ドラゴン”が二体。本来の姿となったグウェリとマリーンである。


 氷結の武具が展開した完全装備のセイルは、ドラゴン姉妹の発する高熱で燃えるように乾燥していく周囲の影響も受けず、グウェリの頭部にちょこんと腰掛けたまま、遥か南東、赤く偏光した空の下、緩やかに、だが奈落へと下る坂の様相を見せる魔族領域の方へと小さな指で指し示した。


 全高三十メートル強の体躯である火炎のドラゴン。

 尾の先まで計算に入れれば人族最大の戦力である騎獣機(ギミロック)の倍以上となる巨体。


 そんな二体が大きく息を吸い、無造作にセイルの指し示しす方向へと、人の可聴域を超える超高音域で“吠えた”。

 『眼前の大地が“消えた”』というのが適切な表現だろうか。 本来ドラゴンは『火を吐く(ブレス)』という能力はもっていない。しかし音速の砲弾によって作られた気圧差のトンネルには一瞬で鉄をも溶かす熱量が充満し、直後にそれは崩壊。五千キロ以上伸びた極炎の導火線は同時に爆弾と化し、複数の領界を一直線に貫く『排水路』を刻む事となった。


 更に三回ほどそれは繰り返され、完成したのは幅百メートル、深さ八十メートルほどのもの。

 セイル自身は見る事ができない遠方ではあるが、魔族領域との境目となる“領域線”すら貫いて、見事、奈落への排水溝になったとドラゴン姉妹の確約を得た。


 今はまだドラゴンの熱気で蒸発することでせき止められた温泉水だが、じきに激しい水量でもって流れる大河と化すだろう。これだけの規模なら多少の領界の上下も関係ない。

 事実上、魔族侵攻はここでせき止められる事となったのである。


 再びドラゴンが人と変じた為に気候は急速に回復、遠く避難していたヒノ達がやってきて、同時に流れ始めた排水路の様子を確認する流れになる。

 で、ふとヒノが気づいた事を言った。


「セイル様、“お湯”と“温泉”とは違う存在なのでしょうか?」

「え?、……まあ、違うといえば違うのかな。成分的に……」


 なんとなく、質問と答えにかみ合わない部分があると、二人して分かりはするのだが、そのすれ違った部分が分からない。

 しばらく思案したヒノがようやく符合する言葉を紡いだ。


「温泉とは、お湯のように“冷める事は無いのでしょうか?”」

「っ?!、あっ……!!」


 排水量を増し、泥混じりの大河と化しつつある流れからは、いまだにそれなりの温度を感じさせる湯気が漂っている。

 流れにさらわれないように手を浸けて感じてみれば、大体四十度未満な感触がセイルに伝わってくる。

 源泉である泉では、『確かご近所にあった昭和の香り懐かしい銭湯の定番温度』を思い出させる事から四十二度前後と思い出し、延々三百キロを流れてきたにも関わらず、ほとんど温度の下がっていない事実を確認してしまうセイル。

 それはつまり……。


「(こっ……、こんな罠があったとはあああ!)」


 温泉にして温泉に非ず。実は謎の液体を湧かしてしまった事を自覚したセイルなのであった。

 が、しかし。


「(でも一週間入り続けてなんの異常も無いしっ、怪我の治りも早いって喜ばれたしっ!)」


 切り傷、打ち身、体調不良。とかく身体の悪いところを改善すると早くも評判となっている効能である。


「(どうせ、最終的には魔族の方に“ポイ”しちゃうものだしっ)」


 川底は爆熱の影響かガラス質と化していて、もう泥も流れきってしまったか、川の縁はキラキラと陽光を反射し始めている綺麗な景観となりつつあった。


 結果、セイルは白をきることにした。


「うん、温泉だからね。お湯よりはるかに冷めにくいんダヨ。まあ、魔族のとこに行く頃には何とか冷めてるんじゃないカナー……」

「そうですか。いっそ、熱水のまま魔族に降りかかれば、それはそれで気分が好いのですけれど、そう上手くはいかないようですね」

「ダ……、ダヨネー……」


 あからさまな挙動不審に全員にバレているとは露とも思わず、騙しきったと安堵するセイルである。

 まあ、魔族にどんな迷惑がかかろうと、それを気に病むものはここにいない。

 セイルのポカはまたひとつ、ここに居る者の胸に仕舞われる事となるのであった。



 ◆  ◆  ◆



 第六代目魔王、エイム・ソロモニエ・薄明ノ娘ナル次姫のここ最近の朝一番の日課は、断崖絶壁として遥か上空まで続く人族との領域線の観測である。

 最大限まで強化した望遠の魔術を使っても、その絶壁に動きは見えない。

 しかし魔王という、魔族の領域全てに責任を持たされた存在故か、わずかに段差を縮めている領域線を毎朝確認せずにはいられないのであった。


 そして“その日”。


 最初は何か光の加減からくる幻と思えた。しかしキラキラと光る点はやがて連なり、線となって、徐々に太さを増していく。

 白く輝く歪な線。それが“滝”だと、しかも領界を幾つも飲み込みそうな程の“大瀑布”だと気づきはしたが、エイムの脳裏には同じ文脈が繰り返し繰り返し、流れるだけだ。


「(何ね?、あれって何なんね?……、何ねよ、ねえ何なん?……)」


 知らずうちに膝はガクガクと震えまくり、その異常な様子に執事やメイドが『魔王さま?!、メェー!』と慌てふためくが、正直エイム自身、それを取り繕う余裕が無い。


 周囲を『メェーメェー』とうざい合唱に囲まれて、エイムは脳裏でひとつ大きく叫ぶ。


「(うわあああーーーん!、兄ちゃんのアホーーー!)」


 ……と。



〈~続く~〉



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