一万平方キロの砂場
この世界の『名』。一辺を百キロで区切る四角い升目、『領界』が連なり『領域』となる大地全体を表す言葉を、その大地に生きる者達が呼んだ事は無い。
それ以前に、世界の名すら知らないと言った方がいいだろう。
もちろん過去には、覇者を謳う者によって世界が名付けられた事もある。その権勢が起こり、廃れ、滅びるまでは。
何度もそれらは繰り返されて、そして今は“無い”。精々が自分の領域を世界全てに錯覚し、『○○王国』などと称するのが関の山だ。
セイルが新たな支配者となるため、後三日間、居続けなければならないこの領界も、祭壇を囲むバリケードが破壊されるまでは掲げられていた看板というか、立て札というか、理解できないが文字らしいものが大きく書いてあった。
それがこの領域の名前だったのかもしれないが、今は知る術は無い。が、しかし───
「『カレイドスコ……ピカレード』?」
「少々発音は怪しいが、まあ、そう呼んでおるよ」
セイルは祭壇そばのまだ未完成の砦にて、そのまま護衛役として、また宴の主賓として残ったドラゴン姉妹に昔話をきいていた。
「我が瞳を通してこの大地を観る“イスト”、遥か西にある領域線を観る“ウェイドゥ”、北の領域線では“ノイズィ”、南は“サンジェラ”。それらの監視者はこの大地を世界としてそう呼ぶ。『万華の園』という意味らしいが、イストの一部である我にはその詳細は理解の外じゃ。マリーンは何ぞ新しい知恵はあるかの?」
「それに関しては何も無いのう。まあ、我ら『火炎のドラゴン』はこの辺りでは新参者じゃて、“瞳”としては最古参である南のドラゴン共なら多少は意味も伝わっておろうかの?」
「南は長閑過ぎるからのう。余りの観ようの無さに千年と経たずボケると聞くぞ」
どうにもこう、世界の監視者というよりも、ご近所のご年配の話しのように聞こえてしまう内容である。が、セイルの中の青涼の記憶、その雑学の中から妙に符合する言葉が浮かんではいたので、その南のドラゴンの出番は要らなさそうではあった。
「“万華の園”の“バンカ”が“万の華”っていうなら、僕、思い当たるかもね。『カレイドスコープ』または『カレイドスコピカル』、共に『万華鏡』を指す言葉だよ」
「ほう、ギフティスの故郷にある言葉か……」
「似ているって感じるだけどけどね」
そう言いつつもセイルの中では万華鏡をこの世界に当てはめて、漠然とした共通項を想像し、浮かべていた。
『万華鏡って、合わせ鏡を貼った筒の中で、様々な形の細かい部品、小物やゴミ、宝石とか、全部が混ざって、無限に広がって、一つの模様に見えるって感じだよね。色んな技術、文化、人種がごちゃ混ぜにされた“この世界”を言い得てるよなあ』。
そう、思わず口にすれば、『なるほどの』とドラゴン姉妹は返すも、それが太古か異世界の者に多く触れた故の意味を含んでの事なのか、それとも真実の一端なり知りつつも秘す理由あり故の黙秘からなのか、もしくはまるで理解の外の事なのか、どこまで分かっての返事なのかは、セイル始め周りの人族全員が分からなかった。
そろそろ姉妹で牛一頭を平らげる。
グウェリもマリーンも、見た目は十四~五歳の少女なのだ。
普通に昔話をしつつ、小さな口でモグモグと食べている。
がっついている姿ではないのだが、何故かみるみる肉が消えていく。その様子の方が気になって、ドラゴン姉妹の感慨に気をまわせないのであった。
ずっと姉妹の間で“抱き人形”扱いのセイルは気づけないが、姉妹の背後、即席の竃を拵えた調理場でドラゴンと兵士達の食事を用意している炊き出し要員は完全に“全力戦闘中”である。
食べ頃に熟成済みの肉、兵士達の駐留分はものの数十分で無くなり、手の空いた兵士のサポート付きで牛の解体をしつつ、新鮮過ぎて味の薄い肉を調理師達が見事に仕上げていく。
血や内臓は環境上食べずに処分するしかないはずなのだが、寄生虫や病気に無縁な姉妹の腹に臓物類は綺麗に収まり、血はその臭気を罠に野生動物を捕らえている逞しい兵士もいた。近場の肉食性動物の駆除にもなって一石二鳥である。
血を煮詰めてゼリー状にした料理、または、それを腸詰めにしたソーセージとかいう物も“有ったよなあ”と青涼の雑学が浮かぶが、ディムオウグ領ではそういう文化は無いようであった。
そんな現地調達を加えつつも、やはり食糧の在庫の危険を感じているのか、隊の実質的な責任者が領域が近いのを幸いにサイリュウ砦へ光信号を送るよう指示していた。早ければ明日の昼には補給が届くだろう。
中身はとっても怪しいが、獣働車は偉大である。
「ああ、そういえばセイル様。領界の支配が完了した時の『宣言』がありますので、この草稿をなるだけ暗記しておいてください」
ドラゴン姉妹を除く人族一同が食事を終え、肉牛用とは別に飲料水兼用として連れてきている乳牛からのホットミルクを飲むセイルに、すっかり専属メイドと化したヒノから宿題が渡される。
「えーっと、この領界の『ルール決め』だっけ」
この領界へ来ることになった時、父ウルから大まかな流れは説明されている。
支配者の祭壇に火を灯し、その血を提供した者が領界の摂理を管理できる。その内容は多少常識を逸脱した状況まで、つまり空想を現実化させるまでも可能となる。
……かなりの代償は必要とするが。
「セイル様はウル様の嫡男ではありますが、まだ皇帝の臣下として正式な存在ではありません。それ故に、あまり人族の理と違うルールを設定すると、大地の隆起や沈下を誘発する事になりますので注意が必要なのです」
「んー?、あ、じゃ逆に、臣下というか皇帝と主従な関係なら、少し変なルールにしても領界の上下に変化は起きないってことなのかな?」
「そうですね。全く起きないとは言い切れませんが、ひとつひとつの領界の段差を気にしない程度には落ちつきます」
今回、セイルは生まれて初めての領界及び領域越えをした。
自領域であるディムオウグ領域は各領界の段差が存在しなかった為に、延々三百キロの移動中、領界から別領界へと切り替わる変化を感じれなかったので、かつて地図版で見た世界の派手な印象を身をもって気づけずにいたのである。
しかし、ディムオウグ城の直轄である中央領域を抜け、サイリュウ砦直轄となる領域へと入る為の空白領域、漠然と人族の支配する無印の領域へと移動した時、始めてその異様さを実感できた。
領界同士の段差は僅か三センチ程度だ。出来たばかりの断層の切れ目を見たようで、その段差が見える限り真っ直ぐに続いている以外、周囲に変化は感じ無い。
しかし異質であるという感覚をセイルは全身の肌で感じた。その段差を境に、自分の育った領域と、今移動している領域は別の存在なのだと直感で理解できたのだった。
その時、その理由を問うて得た答えが、『ルールの違い』である。
ディムオウグの領域は、セイルの祖先によって決められたルールが存在する。対して無印の領域はそのルールが無い。その差が言葉にならない違和感として感じられたのであった。
そして、その違和感はこの別種族による魔族の支配していた領域では、より顕著に感じられた。
領界の二十センチ程の段差。その段差を境に露骨に変化した植生。そして空気の匂い。湿度や気圧すら変化したように感じ、事実その通りでもあった。
この領界と周りの領域は、支配者にとっての理想の環境へと変化し、異質となるセイル達を拒む環境になっていたのだから。
だがその異質さも、徐々に変化していた。
セイルが来るより前にウルが掃除として支配者種族を一掃し、根絶やしには出来なかったが少なくとも血を提供した直系は全滅させれたこの領界は、セイルが血の灯りを灯し直してからたった二日で激変する。
まず空気がセイルとって嗅ぎ慣れた物へとなった。その空気はセイルが暮す日常の物へと秒速で変化中であり、支配者の交替が可能となる五日間で完全にきり変わる。
植生はまだなんの成約もされていないので変化は無いが、この環境が生育に厳しい種類は既に枯れ始めている。代わりに隣の領界より適応できる植生の種が舞ってきて、若芽がチラホラと芽吹き始めてもいる。よく目を凝らして見れば、段差自体も十七センチ程に縮まっていたりもした。
もしセイルが宣言無く立ち去って、以後どの異種族も支配を再びきり変えなかった場合、環境自体はディムオウグ領域とそう変化の無いものに落ち着くだろう。
特にルールに変化が無いなら、前支配者種族には多少は暮し難い環境にはなったろうが、魔族に与してなければそのまま暮せる。
今この領域は、そんな緩い縛りの環境なのである。
だがまあ……。
「『……魔族の一党欠片も有りようを認めず、疾く、“この地より失せろ!”』か。これを宣言するだけで、この領界の魔族が全滅しちゃうんだ」
「そうですね。『魔族』として存在する全ての種族、主に『蛮族』ですが、『人族』であっても“魔族という勢力”に与していたら全滅の対象となりますね」
「僕ら『青鬼人』は元々は『蛮族』。でも“人族の勢力”だから、一応は人族扱いなんだよね。……なんか、ややこしいなあ」
「でも勘違いしないでくださいまし。たとえ種族的には同族でも、十人十色。その意思は千差万別です」
「えーっと、『赤鬼人』だっけ?」
「はい、魔族に与した鬼族系蛮族で、ウル様やセイル様の祖となる黒鬼族が人族との混血をしたことで今の姿となったように、赤鬼人は祖となる『赤鬼族』と魔族の中の中心的種族との混血で生まれました。直接の見識は無いので“どのような姿”なのかは謎ですが、魔族はどれも個性的を超越した異形種ばかり、鬼人とは名ばかりのおぞましい姿とは聞いてます」
この世界には写真技術が未だ具現化していない。『感光紙』の技術が確立していないのだ。
原始的な感光素材が無いものでもないのだが、それらに加えて映像の鮮明化の為のレンズの作成をも合わせると、なかなか実現には至らない。
魔法士や魔術師が魔術による代替え的な技術を作ってしまったのも写真技術が発展しない理由だろう。
青涼的に『ビデオ画像』といった記録系の魔術なのだが、立体感たっぷりの実物感ある映像で、術者の技量によってはライブ映像的な事まで可能だ。
ただ、便利極まるのではあるが、当然のように魔術を使える者にしかできないし、その映像を受け取る側も魔術が使えなければならない。
つまり世間的には無いも同然の技術なのだ。
故に、未だその手の技術は『絵画』のレベルで止まっている。そして、未知の存在の画像化は多分に筆者の想像も混じる。
この場にいる者で『赤鬼人』なる元同族の姿を直接知る者は居らず、伝わるのは魔族領域を根城にしていた“自称”冒険者が、一獲千金を得て引退。ディムオウグ領域に隠遁し、余生の暇潰しに描いた絵姿ぐらいである。
その赤鬼人は全身赤銅色の大男で、左右の肩から二本づつ腕を生やし、トカゲのような尻尾も生やしている完全な人外であった。虎縞の腰巻きしか身に着けてない部分のみ、妙にセイルの青涼な部分の記憶を刺激するのだが、実はこの世界、虎なんていう生物が存在しない。似た模様の“何か”が居るのかもしれないが、なんとも胡散臭い絵なのであった。
「どう混血したら“あんな姿”になるのかも謎だけど、もうちょっと相手選ぼうよって言いたくなるよなあ」
肉弾戦闘となれば攻撃手段として腕の多さや尻尾があるのはプラス補正なのだが、それもまた魔族の美感なのでセイル始め周りの家臣団には理解できない事なのであった。
そんな今考えても意味のないことまで脱線したのに気づいたセイルは、少し強引に話題を戻す。
「でさヒノ、この草稿、最後に『適当に何か二つ追加しろ』って書いてあるんだけど、いいの?」
「前の宣言文に抵触しない内容なら構わないそうです。それによって領界の段差が発生しても、今現在の状況なら移動阻害は利点ある要害化なので」
「あ、そっか」
確実性は無いが、人族と魔族の間で起きる領界の段差は、大概が人族にとっては『隆起』、魔族にとっては『沈下』として表れる。
わずか数十センチ程度の段差でも、そこを越える苦労はそれなりにあり、登りなら尚更苦労も増える算段となる。
ウルはこの領域そのものをサイリュウ砦にとっての城壁とする心算なのであった。
「でもさ、急に言われてもなあ」
「セイル様の個人的に欲しい“物”でも構わないそうです。例えば、ディムオウグ城はセイル様の開祖が皇帝より領界の移譲をされたおり、当時の砦を城に“生やし直した”という事です」
「……そこまでできるんだ」
「想像力が強ければ可能だそうです」
セイルの開祖は純粋な人族で、しかもその手の生活に慣れていた“貴族的”な者だった。身の回りに当然のように“在る”物はイメージしやすく、生えた城は、その開祖の生家と瓜二つであった。
まだ人族の領域もこじんまりとした時代だったので、城というには小さい物で、しかも屋敷的な造りてあった為に砦よりも堅牢の面では貧弱だったが、以降、それを増改築して現在のディムオウグ城となったのであった。
それ故に、初期の面影など現在では微塵も無かったりする。
「イメージかー……、お城は結構探検したけど、なんか全体像が想像できないんだよねー……」
建築的な要害が想像できないとなると、自然的な物と考えたが、暢気な日本に暮らしていた記憶から人の手を拒む険しい大自然などテレビの映像くらいでしか記憶にない。
精々、田舎の雑木林の延長くらいにしか考えれない“富士の樹海”を想像してしまって我に帰り、アホな想像は止めようと自戒するセイルである。
「ん?、富士山?。山……、なら谷……とか?」
ふとした思いつき。それをヒノやコルメット、マリーンに確認し、この時またもこの世界にとって、“厄介な代物”が誕生する。
その具体的な意味が分からずも、セイルの質問に答えていく人族とドラゴン。共に心中は妙な不安に満たされるが、それを確信したのは既に実物を観てからの、遅きに失した事なのであった。
◆ ◆ ◆
「この領界は、今より青鬼人にして、人族の領域である!。魔族の一党欠片も有りようを認めず!、疾く、この地より失せろ!───」
日々の勉強と宣言文の暗記で過ごしての五日後、セイルの宣言が祭壇の“遙か上空”でなされた。
マリーンに抱かれ、領界はおろか領域全体を見下ろせる高さに浮かび上がったセイルは、自分に出せる限界までの大声で宣言している。
実際は大声に意味もないのだが、そこはセイルの気分優先なだけである。
宣言がなされた直後、絶滅を免れていた前支配者の魔族は急ぎ領域の外へと避難し始める。今回は完全にセイルの、人族の領域となってからの宣言だ。それ程猶予無く、魔族は全て塵と化してしまうだろう。
尚も続けてセイルの“個人的”なルールが叫ばれるが、地上でそれを聞ける者はいない。それ程の高さなのだが、まあ、聞けなかったのが案外幸せなのかもしれない内容だ。
ただ、宣言が実行し終わるまで、『絶対移動しないように』とのセイルの念押しを全員が守り、とても些細な領界の変化とは思えない激震に怯えながらも堪えきれば、その風景は完全に異界と化したものであった。
まず祭壇のある中央領界は、隣接する別の領界から観れば小高い山と化していた。
祭壇を半分に欠けたドーナツ状に囲むように岩壁がせり上がり、一辺百キロの中央領界の三辺を囲む形で標高六十メートルの山脈ができる。ほぼ垂直の天然の城壁で、魔族の支配側である北東、東、南東からの侵攻を完全に抑える形となった。
それでもまだ南は魔族の支配領域からの侵攻は容易い位置となるが、別の意味で魔族はおろかどの勢力の侵攻も許さない要害が生まれていた。
それは『泉』だ。
ほんの数メートルだが、隆起し岩壁と化した三辺と反比例するように沈下した南側は、同時に湧き出した泉によってみるみる湖と化していく。そして、祭壇を中心とした半径三十キロの唯一変化しない円形の土地を囲む『堀』となった。
セイルは遙か上空から、領界一つを城と城壁の役目を持つような土地に“見えるように”、宣言に乗せて造り直したのであった。
「うん、大体上手くいったかなー」
「……なんとまあ、直接見ながらの造園かの。これはまた、ルール決定の裏をかいたようなものじゃのう……」
セイルは大人達から聞いた支配者宣言の方法に少しだが疑問を持っていた。血の灯りを灯したと同時に、支配完了もしないうちから自分に都合の好い環境へと領界は変化を始めていたのだ。
これは血の提供者だからだろうか、その微細な変化を体感としてセイルは感じていたのだった。
では、その支配完了は“何時をもって完了するのだろうか?”
絶えず変化を続ける動物である自分に、自動的に対応する領界がその変化を果たして終えるのかが疑問だったのである。
その答えを教えてくれたのが、監視者の瞳であるドラゴン、グウェリとマリーンである。
本当のところ、セイルの疑問通り変化は終わらないのだ。
支配者に合わせて領界と領域は変化し続ける。その支配者が亡くなるまで、そして支配を継いだ次代に合わせてまた変化し続ける。永遠に。
だがその変化を固定するのが『宣言』だ。しかし、その固定は領界に作用するのではない。支配者の精神に作用するのである。
いわば“暗示”だ。この宣言をもって領界の変化は終了するという、支配者の精神を固定する儀式なのである。
そうしなければ、その領界では支配者以外の者がまともに生活すらできなくなる。絶えず勝手気ままに土地が変化するなら、農耕など絶対不可能な事になるからだ。
それすら支配者の想像で済まそうとしたら、今度は大地の上下が激しく続き、それこそまともに住めない土地と化す。
遙か太古、そういう経験をした先人達の苦労の結果が、今に伝わる支配者の宣言という儀式につながっているのであった。
「だからまあ、今回は領域が上下へ動きまくって周りへ影響してもいいって事なら、とことん作り直してみようっておもったんだよね。でも時間かけまくるのもなんだし、俯瞰できるならジオラマ造りな感じでできるかなってね♪」
「ふむ、“じおらま”の意味は分からんが、セイルはなかなか細かい想像ができるのじゃな。山脈も無理な隆起なら崩れるだろうに、見事にバランスをとれておる」
「想像は想像だけど、やっぱりこうして“観ながら”だからできるんだと思う」
セイルが自分自身に日常的に感じている事。それはいくら成人の精神と思慮を持っているからとはいっても、脳や身体は子供でしかないし、そのレベルでしかの行動はおろか“思考する事ができない”という事実だ。
どんなに沈思黙考を貫こうとしても我慢できなくて騒いでしまう。それは脳の負荷に堪えられない叫ぶ本能を押さえ込む部分が未熟過ぎるからだ。
どんなに理路整然と思考しようとしても、自分でさえ何故と突っ込むような無意味な空想が混じってしまう。それは、脳の神経経路がまだまだ成長途中で記憶の関連性が固定してない誤作動からだ。
だからセイルは、自分はこんな『プチ世界創造』のような事を、空想だけで、思い描くだけで、現実として実現するなんて“できない”と自覚はできるのである。
しかし、今そのチャンスがあり、そして“したい”という欲望がある。そして、やるからには成功させたいという願望もある。
だからこその、この手段であった。
目に見える範疇で、手で触るような感覚なら下手な空想は混じらない。それこそ、砂場で砂山を築くように。手で砂をすくって池を掘るように。
眼下に映る四角い升目の、自分専用の砂場。両手をかざして動かすだけで形を変える小さなジオラマ。
真ん中に集まっている大事な人達には触れないように、セイルは領界の姿を造り変えていった。
そうして、山と湯気湧き立つ湖をわずか十分足らずで完成させたセイルの“砂場”は、中央の領界のみならず、周囲の領域も含めて複雑怪奇なオブジェと化したこの世界最初の『温泉郷』となったのである。
「やっぱり、ただの湖より温泉のほうが“面白い”よね」
「セイルよ、“おんせん”とはそもそも何なのじゃ?」
大空での宣言完了後の自画自賛に、とりあえずは冷静に突っ込まれるセイルであった。
<~続く~>
実はまさかの温泉回w(前編)w




