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リトルオーガ in カレイドスコピカレード  作者: 雲渚湖良清
幼児の章【三】 青い児鬼とカラクリ魔人
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猛る雄牛

 さて、セイルが再びドラゴン姉妹の愛玩動物と化していた頃、父であるソウリュウ・ウル・ディムオウグは南南東へと九百キロ程移動した別の“野良”魔族の中心領界を攻めている最中であった。


 特に独特な個性を主張する領界ではなくて、普通の丘陵地と平原、広葉樹中心の植生は、人族と人族に近しい魔族や蛮族には暮らしやすい環境である。

 故に、この領域の支配者となっている魔族は豚に似た頭部をもつ人型魔族、『オウクィー』であった。

 別の領域ではより狂暴な魔族の食用眷族扱いとなる最低辺階級の魔族だが、無事成長すれば“大尉”級のカテゴリーにまではなれる。

 それでも殻徒二体で充分対応できる強さでしかないが、一気に二百以上の集団でとなると、なかなかにキツい状況となるのであった。

 しかもオウクィーの他にもゴブリンまでが無秩序に混ざって来ていた。この人族や魔族の領域の区別無くどこにでもいる子供サイズの蛮族は、その領界領域の支配者種族の奴隷として都合良く使われる。

 この領域では当然のようにオウクィーに使役されていたのだが、乱戦模様となった状況では敵味方の区別も怪しいのか、平然とオウクィーを攻撃している奴もいる。

 むしろ、完全に攻撃を弾く殻徒兵士よりも、怪我を負わせられて悲鳴も聞けるオウクィーを主体にしている節もあって、ゴブリン自体、完全に狂乱状態なのだろうと推測できた。


 では何故、こんな作戦らしい作戦の無い乱戦と化しているかは、少し上空から俯瞰できれば容易く分かるだろう。

 丘と丘に挟まれて緩い凹型となっている戦場は、直径三百メートル程の円周を作ろうとする、まだ未完成の半円状の壁で囲われようとしていた。

 壁は鉄板と有刺鉄線状の金網で作られていて、それを保持しているのは全高四メートル程の巨人、『(ウォーラー)級殻徒』である。“壁”は保持というよりは殻徒の一部といっていい装備で、一体が展開する左右合わせて十メートルの壁を他の殻徒の壁と連結して長大な囲いにしているのである。

 そのままジリジリと円を閉じるように移動し、中に敵集団を囲い込むように動いている。それはまるで、漁網で一網打尽にされる小魚の群れのような姿だ。

 容易に破壊できそうな金網は、魔蜃炉(ましんろ)四器の魔力により“不壊”の特性を余すことなく発揮し、完全にオウクィーとゴブリンを閉じこめている。囮役として中にいる殻徒兵士に集中している魔族達は、徐々に、そして完全に閉じこめられて、網の外から射られて息絶えても自らの状況を理解できなかった。


 主力と呼べる集団の壊滅に、周囲のオウクィー小集団は遁走を始めるが、それらを追撃するのは殻馬の部隊である。

 急所のみをインナーアーマーの鉄甲で覆い、他は硬化革(ハードレザー)の軽装であるが、巨大な馬体が充分な盾となり、逃げる魔族を斬り伏せるのには問題ない。

 更に壁級殻徒が両手に持った“鍋”に瓦礫や散乱している武器を入れ、勢いよく放る事での簡易迫撃砲(カタパルト)攻撃で、鎧の薄いオウクィーのみがバタバタと倒れていく。


 まだまだ完全に殲滅というわけには行かないが、大勢は決した戦場を眺め、ウルは次の行動を指示する。


「占術部隊、祭壇の位置の特定を急がせろ。哨戒部隊、他領界からの横槍に注意しろよ!」


 最終的な勝者となるために、争う二者が共に消耗した頃に攻め行って漁夫の利を得るのは、別に卑怯でもない普通の戦術だ。


 魔族領域に侵攻を開始してからウルも知った事だが、この辺りは長い期間魔族に管理されていた地域なので、最初は膨大な敵増援を予想しての慎重な行軍のつもりだったのだ。

 だが実際は、各種族による小集団的な魔族同士が互いに小競り合いをする無法地帯と化していて、予想した増援はほぼ無いものと分かった。


 代わりに横槍といった別魔族からの途中参戦はあるものの、魔族同士の連携さえ無いものなら、無駄な消耗をしないような対応も取りやすい。


 この戦闘においても、戦いの流れが長引いて途中での横槍があった場合、横槍位置より後退する事で、こちらより先に魔族同士を接触させる事で、魔族同士の戦闘発生を誘発できる可能性もある。

 こちらへの対応が弱くなれば、防衛優先で戦力を回復させ、後に攻勢という手段もとれるし、上手く陣の位置どりができるなら、どちらか片方の魔族を共に殲滅してしまってもいい。


 策を労しても一度戦闘になれば猪突猛進の集団と化すのは魔族共通の欠点なので、一時共闘というスタイルをとっても消耗の激しいのは大概魔族のほうだ。その後の優勢は細かく戦力調整のできる人族の方が取りやすいのである。


「南の哨戒より狼煙(のろし)光信号(モールス)!、新勢力の侵攻有り、種族は不明、階級は“中佐”級三体!、周囲にはゴブリン約一千!」


 やはりというか、別の魔族が横槍を入れて来た。

 こちらの掃討戦は済んでないが、殻馬を除く他の部隊は即座に対応するよう指示がくだり、各兵士は配置変更を開始する。


「ふむ、中佐三匹か!。なら儂も出るぞ。『ブル・ブレイザー』用意しろお!」

「御館様出場!騎獣機、起こせぇー!」


 中佐級の魔族、形態は不明でも、おおよそ身長六メートルはあるということだ。それが三体となると壁級殻徒でもキツい相手となる。

 今回の戦闘に持ってきた騎獣機はウルの物と随伴機『ライノ・スパイク』が一体のみではあるが、充分対応はできる範疇だ。がしかし、やはり種族不明となると油断はできなかった。


 そしてその懸念通り、現れた三体の巨大魔族は、ウルをして初見となる、未知の異様さをかもす代物揃いであったのだった。



 ◆  ◆  ◆



『……せやからな、今回の……こと、ワイも寝耳に……水やねん』

「そんなこつ言うても、禁書バラまいたのお兄ちゃんやろ!。何処で何時、何が起きるか、全~部っ、分かる言うてたやん!」

『どあほ!、そりゃあ、……二千年以上……前の話や……ないかい!。しかもそれ、ワイが魔王やっ……とった時分のことや』

「そやかてぇっ、そやかてぇ!」


 自分以外は存在しない祭壇の間。映像越しの五代目魔王(おにいちゃん)を前にして、六代目魔王(エイム)はベソをかく小娘であった。

 先ほどまでは魔将軍の事を凛々しく半分冷ややかに見下ろしていたエイムだが、今はある意味真逆のような状態である。


 少し知恵の働く者なら容易に想像できる。

 人族による千年降りの大侵攻、しかもドラゴンの露払いつきである。

 魔族存亡の危機と言っていい状況なのだ。


 エイムにしてみれば、兄は事の原因にして元凶なのだから、何かしらの対応策か打開策、もしくは一発逆転の妙案でも出してもらえる希望を持っていたのだが、それら全部が『わて、知りまへんがな』の一言で終わってしまっては、まずは頭が真っ白となるだけだ。


 とはいえ、仮にも六代目の魔王を襲名してはや千七百年余り、先ほどの消極的な案とは別に自ら対策を打てない無能というわけでもない。

 が、それでも、取りあえず、疫病神な身内に愚痴をたらすくらいはしたいのであった。


『あーあー、そない泣く……なや。出遅れたけどな、対策は……もう打ったさかい、ドラゴンの方は……お兄ちゃんに任せ……とき』

「わあっ!、お兄ちゃん、おおきに!」

『……せやっても、人族の方は……エイちゃんの方で……何とかしいよ。お兄ちゃんにも、そっちは手ぇ……つけられへんねん』

「うん、わかったぁ!」

『ほな、切るで。……ああ、今回都合良う連絡ついたけど、今後の連絡の行き違い……防止に、次の連絡予定な。……明後日のこの時間、取りあえず連絡するで……ええな』

「はいなぁ」

『ほななあ』

「ほなー」


 ぼやけ姿の映像が消え、室内に静寂が戻る。

 しばらくぶりに感情を爆発させた余韻から、エイムは冷徹美人の雰囲気をかなぐり捨てた異常に艶っぽい空気をまとっている。

 しかし脳内ではもう、今さっきまでの“わがままな妹”といった思考は消え去っている。

 仮定とはいえドラゴンの脅威が無くなるのだから、実現可能な対策の取りようもある。実際の人族の戦力がどうなのか?、という確認はあるが、災害相手の絶望状況よりは遥かにマシだ。


 既に幾つか、大前提は考えた。

 長く放置した現状だ。魔族にとって痛みはあるが、一方的に受けるだけでは無くなったかもしれないのだから、少しでも結果を良くしよう。


 そう思考を切り替えて、先ずは、知らずボロボロとこぼしていた涙後や悲惨な惨状の顔面を取り繕うべく、鏡の魔術やコンディショナー、癒やしで腫れとムクミ消しと可能な限りの魔術を駆使し、入室前と同等の凛々しい美顔を復活させる急務に勤しむエイム・ソロモニエ・薄明ノ娘ナル次姫、現、第六代目魔王なのであった。



 ◆  ◆  ◆



「む……、むう、何だあれは?」


 『ブル・ブレイザー』に搭乗し、強化され遠方を視認したウルは思わず唸ってしまった。

 それだけ、現れた魔族は異様だったのだ。


 “頭頂”という意味での全高は五メートル程だろう。しかし“末端”までと考えたら、その全高は九メートルにはなるだろう。

 おそらく、原型は『巨人種族(ギガスス)』なのだが、三体が三体とも上半身が有り得ない変形をしていた。


 向かって右の巨人は胸より上が軟体じみた触手の塊だ。辛うじて人型の頭や両腕を印象付けるシルエットは維持しているが、放射状にユラユラ揺れる触手が上へと伸び、筆の先端のように見える。

 左端の巨人は臍上から徐々に肌が甲殻化していて、両腕は肩から先が幾本もの昆虫的な“節脚”となっていた。頭部からも同様に四本くらいの節脚が生え、ワシャワシャと無秩序に動いている。

 そして異様さでは中央の巨人が一番だろう。首から下は普通の巨人でウルが過去何度か戦った記憶通り、巨大な棍棒を武器として持っている。

 しかしその首から上は鎖骨当たりで無残に裂け、大穴といった傷になって頭部を失っている事が明らかである。その頭の代わりのように、本来の頭部よりも巨大な“眼球”がまるで視神経を食い込ませているような形で乗っていた。縒り合わさった神経の“首”は二~三メートルほど伸びていて、まるで巨人の身体を糸で吊っているような印象となっている。


 仮にセイルがここに居たら、右から『イソギンチャク』『ギリギリでサイクロップス』『タラバガニっぽいの』と意味不明な命名をしたことだろう。


「検索完了、該当する魔族および蛮族有りません。ただし、胴体は全て南方系の蛮族、『丘巨人(ヒル・ギガスス)』と推定します」


 魔物や魔族に見識のあるメイド隊所属のフウノが臨時にウルに付いて来ていたのだが、分かる部分以外は未知であるとしか言えない。

 しかし、そう判断できれば予想らしきものくらいはできる。


「御館様、おそらく“アレ等”は、巨人に寄生する新種の魔物と推測します。魔物であれば、隊列をとろうと統率された行動をしている以上、管理している“何者”かが存在すると思われますので、周辺の照査をお願いします」

「む、むむっ……、そういう細かいのは、儂が苦手な分野でのう……」

「この位置からでは御館様の騎獣機による知覚が群を抜いていますので、お・ね・が・い・し・ま・す」

「むう……、分かった!」


 眼下で佇む小柄なメイドにギロリと“睨み上げられ”、大人しく従ってしまう一幕を晒したウルに、近場の兵士一同『御館様、ファイト!』と心中で応援を贈る。

 暴力では無双を謳う兵士達だが、鋼の心技を有するメイド達に適う者など皆無に近い。

 それは戦場においても変わらぬ事実なのであった。


 それはともかく。

 巨人モドキを抜かせば、新手の手勢はゴブリン一色。

 ただでさえ人族の半分以下な背丈で見にくい上に、同じような外見なので見分け難い。

 ウルでなくても面倒臭く感じるのは当然であったが、案外簡単に“怪しい奴”が見つかった。


 巨人よりやや後方、四方に伸びた肩棒を担ぐ升御輿に、やたらゴチャゴチャと飾りを付けたゴブリンが乗せられている。

 飾りはどれも金属製のアクセサリーのような代物で、時折チカチカと光ったりもしていて、異様に目立つ。

 極め付きはその頭部だろう。頭頂から眉間の上あたりまで、スッパリと頭蓋が切り取られ、脳が半分剥き出しなのだ。

 そこへ針金が何本も差し込まれゴブリンの首から上のみ“ビクン”と跳ねるように動く様は、人形じみた怪しい印象しかない。


 これもセイルが直接見たなら『なんて露骨な“魔改造”』と叫ぶこと確実な代物だが、残念ながらウルやフウノには“妙”とは分かってもそれ以上は想像の範囲外である。

 ましてや、巨人モドキにどう関係するかなど、正確には分からなかった。

 しかし、わざわざ目立つ存在として“居る”のだから、最優先討伐目標に組み込まれないわけがない。

 残念ながら大量のゴブリンの軍勢の後方にいるので直接叩けるのは巨人モドキよりも後になるのが気になるが……。


 ウルの報告にフウノは、異形の『魔改造ゴブリン(仮名)』のラフスケッチを描いていく。脳筋風味の中年青鬼オヤジの乱暴な報告を、的確な解釈に変換して絵画化した“ソレ”は『実は自分でも見て描いた?』な見事な出来であった。

 さすがに『アクセサリー』と解釈した『電子部品っぽい物』はいい加減な絵柄だが、これは後にセイルが絵を見た時に“セイギョパーツ”と周囲の者には謎となる注釈が入れられている。


 ウル側の陣営再編も済み、僅かながらも息を整えられたあたりで巨人モドキの新手との戦端が始まった。

 騎獣機二騎を中心にし、両翼に壁級殻徒が『不壊の壁』を展開。ゴブリン集団を騎獣機の正面に集める陣容とし、脳が無策仕様のゴブリン集団はあっさりと誘いに乗って移動する。

 七割程度が進路上に集まったあたりで騎獣機の突進(チャージ)開始。瞬く間にゴブリン集団は巨人モドキまで続くレッドカーペットへと変化した。


 この突進力から想像は容易いだろうが、騎獣機とは本来、自走する『破城鎚』から進化した存在である。

 城壁、または城門へと隣接し、巨大な質量をぶつける事で大穴を開ける。その基本をより合理的に、多少の趣味を交えて太古のギフティスと時の人族為政者が作り上げた巨大騎馬。

 故に、一度スピードに乗った騎獣機を止められる存在など、そう有りはしない。


 三体の巨人モドキのうち、左から盾となるように進んだ『蟹巨人』は、ブル・ブレイザーの雄牛の両角を堅牢そうな甲殻に包まれた胸板で受けるも、簡単に貫かれ、更に頭突きを食らう形になって仰向けに弾き飛ばされる事になる。まだ後方にいたゴブリンの集団がその下敷きとなり、倒れた蟹巨人の背を赤く染めた。


 しかしもう一方の騎獣機、ライノ・スパイクは、右から伸びて来た『触手巨人』の“触手”に絡めとられ、思ったよりも強靭な組み付きに抗しきれず進行をやや右へとズラされ、『目玉巨人』と『触手巨人』の間へと誘導されてしまった。


 二体の巨人に挟まれる形となったライノ・スパイクだが、絡まれたのは騎獣である犀の頭部まわりで騎手は無事だ。素早く突進用長槍(チャージ・ランス)の他に打突曲刀(タルワール)を追加装備すると、刃の届く範囲を切り取っていく。

 目玉巨人が手に持つ丸太サイズの棍棒で攻撃をしてくるが、巨人といっても背丈にして騎獣機の半分程度である。衝撃はそれなりにあるものの、槍でガードしている事もあり、ダメージには程遠い威力であった。


 が、異変を感じたのは触手を斬れるだけ斬って、体勢を直そうとした時だ。騎獣の脚が思った通りに反応しない。機体も妙に重い。騎獣機に乗る以上、搭乗者である騎士はベテラン中のベテランで、当然このような反応の原因はすぐに察せれた。

 『だが、早過ぎる!?』。そう疑問に思ってもしょうがないものだった。


 視界を外部の騎手頭部とコックピットの生身、両方、共に知覚するようにし、ざっと計器類を見て機体の状況を確認すると、予想しつつも疑っていた原因は、予想通りのものだった。

 “魔力の枯渇”。騎獣機が稼働するための魔力は殻徒等の比にならない膨大な量となる。

 壁級殻徒ですら万全の性能を発揮するには四器の魔蜃炉が必要なのだが、騎獣機は僅か一時間の稼働に魔蜃炉七十器を必要とする。もしこの七十器の魔蜃炉が魔力を使い切ったら、再稼働のための魔力充填には二日以上は要するだろう。

 普通の戦場には投入せず、しかも使用する場面ギリギリまで稼働させないのは、これが理由だ。

 しかも、今の条件は“アイドリング”状況の場合であり、全力の戦闘行動となったら、それこそ二十分と保たなくなる。

 それ程、燃費の悪い代物なのであった。


 しかし、今は稼働してまだ五分足らず。さすがに魔力が枯渇するには早過ぎる。そうなれば、思いつける理由は一つであった。


「御館様、巨人モドキ(こいつら)は魔力を吸い取りますぞ!!」


 そう叫ぶ間にも騎獣の膝は力を失い、崩しかけている。

 ならばせめてと、まだ充分反応する騎手の両腕に武器を持ち、二体の巨人に突き入れ、目玉巨人の腹には深々と槍を串刺しに、触手巨人は袈裟懸けに切り裂いて後、ライノ・スパイクは力尽きた。


 目玉巨人か触手巨人、または両方か。接触さした対象から根こそぎ魔力わ奪う性質らしく、膝をついたライノ・スパイクはそのまま自らの重量で脚部全体をゆがませてしまう。本来、機体維持のための最低限レベルで行使され続ける『不壊』魔術用の魔力すら枯れたという事で、それ程強力に魔力を吸い上げる存在はこの戦場に居る者全て、初めて知ることだった。


 だが、騎獣機一体を中破したとはいえ、巨人モドキは三体とも深手を負って戦闘不能となったし、ゴブリンは最初から敵の部類にもならない。

 正体不明の新手であったが、案外簡単に片がついたことは確かで、今の時点で更なる横槍の報告もない以上、この後の掃討作業が終了したら今日はもう終わりだろう。

 と、ウルをして油断していた。


 御輿を担ぐゴブリン等さえ遁走し、忘れられた存在として野晒しに倒れた『魔改造ゴブリン(仮名)』が最初から白眼だった眼を見開いて、大音量の唸りをあげたのは、その時だ。

 『キューーー……キュルルルー、キュッ、プッ、プリルリルルルツーキュルルロー……』と、到底生物があげるものとは思えない奇声と共に、倒れ崩れた巨人達が“ぶるり”と揺れる。

 目玉巨人の全身から目玉を支える視神経状の管が生えだして、他二体の巨人達に突き刺さると、“びたん!”と肉打つ音と共に三体が抱き合い、そして、“融合していく”。

 半分溶け合いながらの融合は、それでも所々に三体のままの部品を残しつつ頭部は目玉巨人のまま、右半身は蟹巨人、左半身は触手巨人の特徴を残し更に巨大な、全高二十メートル強の大巨人として立ち上がった。


 融合の合図を出した魔改造ゴブリン(仮名)は、巨人の融合時に暴れた肉体のどれかに撫でられて、地面にすり潰された結果、赤茶色の沁みとなってしまって判別不可能となった。

 だが指示を出したゴブリンの有無はもう関係無いのか、融合巨人は自らと同等サイズ以下になったブル・ブレイザーを見下ろすと、左腕の触手を伸ばしてくる。ウルは突進用長槍で凪払い、意識していた故に微かながら“何かが吸われる”感触を持てた。


「なるほどな!。その触手が魔力を吸うか」

「御館様、念の為、巨人自体に必要以上の接触は避けるよう進言します!」


 戦場より遠く離れた位置から、巨人の動向を観察していたフウノが注意を促す。特にフウノ遠距離通信の類を使ったわけでは無い。騎獣機や殻徒は会話や警告など、必要な情報ならば戦場全体から拾う魔術が組み込まれている。名指しの注意ならば問題無く聞こえて当然の事であった。


「この“混ぜ者”、触れずに倒せる策はあるか?!」

「ライノ・スパイクの斬撃とブル・ブレイザーの凪払い、大きさはともかく強度は変化無いと推測します。また、混ざり合う過程で頭部の眼球が中心的行動をとりましたので、そこが弱点の可能性があるとも推測します。ですので───」

「目玉を潰して、切り刻めということだな!」

「御明察です」

「ならば、一気に殺るぞ!、儂の得物を寄越せい!!」

「了解しました。“従車トレーラー”、御館様が『大戦斧』を所望です。即時発進してください!」


 ウルとフウノの指示に応じて、セイルが見たら十八輪大型トレーラー、“コンボイ”とでも叫びそうな巨大な獣働車が、荷台に収まりきらない超大型の戦斧を載せてブル・ブレイザーへと爆走していく。


 長槍で触手を千切り払い、巨大な蟹のハサミ爪となった右腕を硬質な打撃音を立てて弾く。巨人を移動させないために騎獣機の最大の突進攻撃を封印し、その場で防戦となったブル・ブレイザーだが、みるみる近づくトレーラーを確認すると、その槍を槍投げのフォームから勢い良く放つ。目標は頭部の眼球だ。だが、融合巨人は両腕をクロスにして眼球への直撃は避けた。

 この反応にウルはコクピット内で獰猛な笑みを浮かべる。


「ようし、どうやら本当に急所のようだな!」


 ガードによって動きの止まった融合巨人の間隙に、到着したトレーラーから新たな武器を装備するブル・ブレイザー。

 柄の部分で二つに別れているソレを連結し、一本の二十メートル近い柄を持つ巨大な戦斧、味も素っ気も無い、ただ『大戦斧』と名付けられたウル専用にして愛用の武器を片手に持ち、大音量で叫ぶ。


「ケリをつけるぞお!、総員、儂の周りから離れろおおお!」


 元々巨大な怪物同士の対戦場に近寄る味方の兵はいない。トレーラーに乗る者がライノ・スパイクから騎士を引きずり出して走り去るのを確認しつつ、ゆっくりと体勢を直した融合巨人が交差した腕を下ろし、ウルへと迫ろうとしていたのに対処する。

 騎手の腰に吊り下げたダンゲル親方渾身作の手斧を一振り取り外し、手首のスナップのみで投擲。二度の連続した武器投げに油断したか、今度は左肩に深々と刺さった手斧はその慣性力でもって融合巨人を仰け反らせ、再び硬直させた。


「では、往くぞ!」


 突如、ブル・ブレイザー全身より蒸気が吹き出す。

 そして、金属による悲鳴ともとれる騒音が周囲全体を金縛りにするレベルで発生した。


 僅か数秒後、蒸気が晴れた後に出現したブル・ブレイザーの様相は一変していた。

 まず、四脚の騎獣に跨がる騎手という、騎士の姿では無くなっている。

 二脚で立つ人型である。しかし、人型というにはかなり(いびつ)だ。膨大に肥大化した上半身と両腕、そしてその獣面。側頭部両側からは湾曲した巨大な角が天を突き、鋼鉄の目蓋が開かれた両目は憤怒の輝きを放っている。


 それは、牛頭人身の『ミノタウロス』という魔獣に酷似していた。

 ただし身の丈二十メートル、全身が鋼鉄で作られた人工の魔獣だ。そしてこれが、ブル・ブレイザーのもう一つの姿、『大虐殺騎型(ジェノサイド・フェイス)』であった。


 騎獣機は基本的に二形態で行動する。中長距離の高速移動やヒット&アウェイに突進攻撃など、広範囲行動を目的とする『蹂躙騎型(ライダー・フェイス)』、そして移動力を皆無とする代わりに、爆発的な近接破壊力を増大させる『大虐殺騎型』である。


 騎獣機は騎手や騎獣の各部に、五器から十器を分散して魔蜃炉を格納している。これは決定的な急所を作らない策だが、同時に魔蜃炉の“特性”を利用した事でもある。

 基本的に生物である魔蜃炉は、魔力を糧に生きる以上、それに対する本能を持っている。急激に魔力の少ない環境になると、一時的に魔力を可能な限り急いで溜め込もうとするのである。

 もし、大量の魔蜃炉を集合させて、空気中の魔力が少ない状況を作り上げたとしたら?、そして、本来魔力を吸う行動を逆転させたら?、大虐殺騎型は分散配置した魔蜃炉を集合させ、そうやって一時的に魔蜃炉の出力を上げた状態にした形態なのてある。


 騎獣の背中が開き、胴体内に詰まっている魔蜃炉はスライドして騎手が収まれる空間ができる。

 騎手は両腕が肩から背中側でくっつくように移動し手に持った大戦斧は背負うように移動する。

 その騎手を包み込む形で騎獣上半身が起き上がり、前脚は関節の位置が変わって人の腕部となる。蹄に格納されていた繊細さとは無縁の殴る、抉るに適した武骨な指が展開し、背側に残る騎手の腕から大戦斧を持ち替える。

 全体重を支える後ろ脚は接地面積を広げるために足首が肥大化し、膝蹴りや蹴り上げ用の凶悪なスパイクが生える。


 装甲各所に開いた細いスリットからは全力稼働する魔蜃炉が発する緑光が漏れ、同時に周囲の魔力を根こそぎ吸収しようとして、一時的な魔力の真空状態を作り出す。

 この環境の急変に、辛うじて動き、生きていたゴブリン達がバタバタと倒れる。空間の魔力の枯渇が、生物から気力を奪って昏倒させる現象であり、ウルが『離れろ』と警告した理由だ。

 七十器の魔蜃炉のうち、六割は魔力の全力放出、しかし三割は本来の全力吸収をする。三割づつの三分割した配分で、それを十秒毎に魔蜃炉の機能を『放出~放出~吸収~』と切り替えるサイクルで繰り返す。

 無理な稼働で魔蜃炉が死なないようにする安全機構だが、そのため周囲からは絶えず魔力が吸収され続けて他の生物には大迷惑な惨状となるのである。


 ましてや、融合巨人も同様に魔力を吸っているのだからゴブリン達は気絶どころか枯れるように干からびていく。その体内の魔力さえ、二体の巨大な存在に絞り取られているのだった。


「おおおおおっ、りゃあああ!」


 騎獣機状態ではやや大きめだった大戦斧も、今や丁度良いサイズの両手斧(ツーハンド・アックス)となり、大きく振りかぶって軽々と袈裟懸けに振り下ろす。長槍の一撃を弾いた甲殻が割れる抵抗すら見せれずにスッパリと斬られ、眼球を守ろうとガードさせた右腕のハサミ爪ごと両断する。大戦斧の振りはとまらず、地面に小さな裂け目を作って、そのままもう一振り、二撃目を融合巨人へ叩き込んだ。

 今度は見事眼球を縦に割り、左胸板から真下の大腿部まで、深々と切り下げる。


 無言ではあるが、巨人が絶叫を上げた。

 もしくは、それは断末魔であったのかもしれない。

 致命傷ともいえる大破壊に、再びの再生を繰り返す様子も無く、融合巨人は崩れ落ちる。それでも無事な触手をブル・ブレイザーに幾本もまとわり付かせたが、張り付くやいなや切り落とされるので魔力を充分吸い取る事はできないようだ。

 一方、ブル・ブレイザーは倒れた巨人に大戦斧を何度も叩き下ろし、どんどんぶつ切りの肉塊へと変えていく。


 こうしてようやく、巨人であった肉塊が生気を失い、赤黒い土塊へと変貌したのを確認してブル・ブレイザーは攻撃を終了した。


 周囲の残存勢力の掃討も始まり、ウル達主力が休憩に入ってしばらくの後、祭壇の発見の報告が届く。

 祭壇の火は消えていた。それは、この領界の支配者であったオウクィーの全滅を意味している。

 ウルは無造作に自らの親指の腹を食い破り、血をひと滴皿へと落とすと同時に灯った支配者の灯火を前にして宣言する。


「この領界は今より青鬼人にして人族の領域である!。魔族の一党欠片も有りようを認めず!、疾く、“この地より失せろ!”」


 ウルの宣言に周囲の家臣や兵士、全員の歓声が答え、轟く。

 同時に祭壇から放射状に“波動”が広がっていく。この波動は、やがて領界の端に届き、更に周囲に残る二十八マスの領域の端まで広がる。

 ウルの宣言。これは領界の支配者である宣誓と同時に、その領界と領域に決められたルールとなる。

 波動が行き渡り、完全にウルの支配が完了する五日以内。この期間内にルールに反する存在は、この領域から居なくならなければならない。

 もし居続けたら、その存在は領界によって抹消されることとなる。

 今この瞬間、最弱に属する魔族は、五日の猶予どころか避難の隙も無く塵となって消えていく。

 領界の支配とは、それほどの強制力をもつルールなのである。

 もっとも、その外からの侵攻に対しては全くの無力ではあるのだが。


 しかし今この瞬間だけは、この領界は完全に安全と言い切れる大地だ。敵となる魔族は殲滅、もしくは全てが敗走。煽りを食らった蛮族は争いの場から遠ざかるのに必死で近くにはいない。

 ようやく兵士達も安堵の息を吐き、面貌を上げて外気を吸い、寛ぎ始めていた。


「御館様、損害報告の初報です。騎獣機ライノ・スパイク中破。左半身大腿脚部交換で機体復帰は可能ですが、魔蜃炉が約三十器、魔力枯渇で死にました。即時交換は不可能ですので、トレーラーにてサイリュウ砦へ移送します。壁級殻徒は損害無し。礫級殻徒は四名死亡、二十三名一部損壊、三十六名軽傷です。礫級の総被害は一割未満に収まっています」

「む、今回は被害が出たか……」


 ここまでの進軍で殻徒にまともな被害が出たのは初めての事であった。これまでは軽傷止まりで死者はゼロだったのである。


「連戦による魔力切れが原因と推測されます。倒れた者は歩兵から急遽殻徒へとなられた新兵ばかりですので」

「体力の限界も分からん新兵に魔力の限界なぞ聞くだけ野暮か……」

「私もそう推測します」

「うむう……、つい、従来の殻徒乗り共と同じに思い込んでしまったな。儂の浅慮か」


 殻徒は魔力が供給される限り生身へのダメージを抑えるシェルター的な代物であるが、その魔力が切れてしまえば腕すら動かせない人型の棺桶となる。

 殻徒を使い慣れた者ならば、魔力の限界も感覚的に分かるようになるのだが、新兵にはその感覚を鍛える時間が無かった。

 今までの侵攻では幸運にもその状況にならなかったが、今回の連戦は新兵にその限界を越えさせてしまったのだった。


 祭壇周りに野獣避けの防壁陣が壁級殻徒によって築かれていく最中、ウル自身も自覚する早急過ぎる進軍の欠点を確認し、今後の方針変更に意識が奪われ、漠然とではあるが周囲への警戒も消えていく。

 だからだろうか?、陣の外、無残な盛り土の山へと変貌した巨人の亡きがらの一角に、ひっそりとしゃがみ込み“何かをしている人影”へと注目する者は皆無だった。


 時刻は黄昏時へと変わり、徐々に暗くなる周囲。野営の準備が済み、辺りに篝火が焚かれ、再び周囲の確認ができる明るさとなった時には、もう人影は何処とも無く消え去り、ついに誰一人気づかぬまま、何がそこで行われたのかは謎のままだったのである。



〈~続く~〉




さあて、TF世代としては巨大ロボとはこう在るべき基本がありまして、騎獣機ギミロックの機能公開であります。

今回はセイルパパの専用機のみでしたが、もちろん随伴機全てにもある機能です。

それらが活躍する舞台はまだ未定ですが、現状露出済みだけでも十体、それ等が一斉に暴れる舞台など、かなりの大惨事となる様相ですからまあ、まだまだ先の事となるでしょう。


で、その事は取りあえず置いといて、この作品は『MF&AR大賞』用に書き下ろしている物であり、その応募規定を満たす事を第一目標としております。

この回をもってその規定、『十万文字数』に達しましたので、以降、投稿ペースは落ちますw


理由としては、別作品と並行しての投稿となる為です。

しかしその作品の方は“こんな健全な場では絶対言えない代物”なんだったりしますので、もし興味が出たなら十八歳以上の方に限り、“夜”の方で探してみてくださいw



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