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リトルオーガ in カレイドスコピカレード  作者: 雲渚湖良清
幼児の章【二】 青い児鬼と鋼の幼女
12/40

異世界の理不尽(笑)

 『ダイカン・ボゥットゥ・ヴィーツィック二世』。

 約1500年前、魔族と亜人族の領域に埋まる形で点在していた人族の領域を、現在の広大な広さにした皇帝。

 その皇帝がまだ名も無い傭兵であった頃から共に戦い、隣に立ち剣を振るってきたエルフの戦士を祖とする一族。

 その初代の名を受け継ぐ現領主は十三代目にあたり、世代を重ねて異種族婚の末にエルフとしての血も薄れたが、それでも百年は軽く生きる長命、姿もまだまだエルフ特有の外見を保っている。

 柔らかい金髪、長い耳、痩身だが筋肉に鎧われた精悍な肉体。七十年を生きるも人族に当てはめればまだ三十歳前という印象の男性で、やや野性味のある表情がセイルの父ウルと似通った雰囲気をもっていた。


 ところで、ヴィーツィック家の治める領界と領域は、雪こそあまり降らないが限定的には気候が零度近くまでなる事もある寒冷地だ。

 そういう地域では、ある独特な会話法が発展する事がある。寒気を体内に入れないように口を大きく開けず、むしろ口は閉じる寸前のまま、咽や鼻でイントネーションを付ける発音だ。

 単語での細かい区切りが付かず、文の長さで一つの波のような音の高低が付く。大概は言葉の最後を高く、大きく発音し、最低量の発声でより遠くまで声が届くような口調となる。

 青涼的に言えば、それは日本の東北地方でよく聞く発音、所謂“東北弁”だ。“ズーズー弁”とも言うそれは、時には同じ単語をまったく別の発音で表現する場合もある。

 その影響だろう。ヴィーツィック領主の自己紹介は、セイルにはまったく違う言葉に聞こえた。


 『大陥没(ダイカン・ボゥットゥ)ビーチク(ヴィーツィック)』と。


「(いやいやいや、待て待てまて!、言葉の意味が違うって。日本語でそう聞こえたからって、こっちの言葉じゃ意味変わるから!!)」


 あまりに酷い自己紹介に、一瞬本気で意識が飛びそうになったセイルだが、ようやく偶然の一致に気づいた為に持ち直した。

 先程ヒノから聞いたヴィーツィック家の噂が頭に残ってたせいで、変な連想をしたのだと納得する。『余が悪かった。今からでも遅くないから改名してくれ』、胡散臭いネタを聞いたそのタイミングで“コレ”じゃあ勘違いしてもおかしくはない。


「おや?、そう畏怖する事も無いぞ」


 セイルが硬直する様を勘違いしたのか、ダイカンは鷹揚に気遣ってくる。


「皇帝領を建てた折、家名無き無名のままでは箔がつかんだろうと初代皇帝アイムラに賜わった『公爵位(ヴィー)』と『家名(ツィック)』ではあるが、その場の思いつきででっち上げた物だそうだからな」

「おっ……思いつきといっても、“何か”云われはあるような物でもあるのでは?」

「云われ……か?、ふうむ、そう言えば……」


 ダイカンの勘違いに乗っかって、家名の由来を聞いてみる。この世界の歴史に関する由来に繋がれば、例え全身が脱力するドン引きな代物でも、それなりに敬えそうだと考えたからであった。


「確か……、“祝福されし物(ギフティス)”である初代皇帝の故郷で、『ギョーカイヨウゴ』と呼ばれる“力ある言葉”のひとつだとか……、先々代の口伝で聞いたような……?。セイリュウはやはりギフティス、もしかしてこの意味が分かるのかな?」

「っ!?、……いえ、僕には……さっぱり」


 『はい確信犯キターーー』と脳内で叫ぶセイルである。

 因みに、セイルはこの世界の共通語……といっても、自分達が使っている発音に過ぎないから基本なのかも知らないが、ダイカンの語尾に『だべ』とか『んだ』とかついたらそのまんま東北弁となる発音を脳内で自動変換している。でないと、『ヴィー』は『びー』、『ツィック』は『つぃく』もしくは『ちく』にしか聞こえないので、非常に精神にダメージをくらうからだ。


 セイルは今はっきり理解した。“皇帝の謝罪”とはマジだったと。


(初代皇帝がどんなギフティスだったかは知らないけど、貴方の黒歴史は千年経っても真っ黒のままですよー……)


 自分の家系が如何に皇帝家と密接で、しかもそれを天狗にする風でも無い、しいて言えば親愛のこもった忠臣という印象で語るダイカンに、“なんて事しやがってんだろう”とやり場のない憤りを感じるセイルなのであった。


 で、それとは別にダイカンの行動に何か違和感を感じている自分に気づいたのは、ようやく精神ダメージも抜け始めた頃、父ウルに対する端々の動きからだった。


 夕食の席だ。とはいっても青涼の記憶にある完全な洋風のテーブルマナーというわけではない。なんせ所々が和洋折衷ナイフとフォークの他に箸もしっかり並んでいて、特にどれを使うという決まり事も無い。なのでセイルの家庭では利き手に箸、逆手にナイフといった形がデフォルトだ。

 セイルは年齢的に箸の代わりにフォークを使っていたが、青涼の指の癖を得てからは箸使いも無理なく出来るようになり、今では普通にディムオウグ家の基本仕様で食べている。


 ただ、箸オンリーと違い、両手を使う食事作法の場合、水や酒を飲む時に必ず片手を空ける必要がある。そしてウルが酒に手を伸ばそうとする時、グラスが空になった時に、実に甲斐甲斐しくダイカンが動くのだ。

 もちろん給仕は専任の使用人が脇に付いている。ダイカン自らが空のグラスに酒を満たすわけではないが、次ぐ酒の銘柄からタイミングと細々と指示を出している。


(これ……、逆、だよなあ……)


 今晩のゲストはヴィーツィック家だ。持成す側(ホスト)はウルなのだから、色々気づかうのはこちら側と思うセイルなのだが……。


(なんか、周りは平然としているよなあ……)


 マリシアやティンツの奥方達は当然、給仕や召使い達も普通に対応していて取り乱す気配もない。ならばこの世界のテーブルマナーはこれが普通なのかと思えればいいのだが、セイルと向かい合わせに座るピンキィは、セイル同様自分の父の行動に驚いている節がある。

 つまり、これはウルとダイカンの間のみの決まりなのだろう。

 そう推測まじりの納得をして、子供用に甘めに作られた果実水オレンジ・エードを空にしたセイルに、すぐさまおかわりが注がれた。余り多めに飲むと食事を食べきれなくなるので二杯目からはセイルの了解をとってから注ぐ慣習だったのだが、今日に限っては間髪入れずで、“おや?”と思ったが理由はすぐ分かった。

 ピンキィがセイルの様子を観察中で、ダイカン同様セイルへの給仕を細々と指示していたのだった。“まさに親子”、そんな感じである。どうやら父の姿に驚いているのでは無くて、『新作法』の習得に集中していたようだ。


(なんだろう……?、これって。さっきはピンキィの押しかけ婚活みたいに思ったけど、親子そろってこれだと、なんか違う気がする……)


 どうにもモヤモヤする気分が顔に出ていたのか、給仕の振りをしたアンが背後にやってきて最低限の説明をしてくれた。


「(セイリュウ様、どうです?、“親分になった御気分は?”)」


 それでようやく“しっくり”した。

 要は『かしずかれている』のだった。しかし臣下とかそういう風では無く、これは―――


(任侠?、若頭ウル舎弟ダイカンな感じ?)

「(これがヴィ・ツィック家の面倒臭い“習性”なのですよ……)」



 ◆  ◆  ◆



 食後、セイルはウルとマリシアに聞いた事と、アンに裏情報として聞かされた事、それらヴィーツィック家の“習性”をまとめて整理していた。


 皇帝領を作る前、たった数人の傭兵の仲間として生きていた頃の初代皇帝と初代ダイカン、この二人はそのまんま義兄弟という間だった。といっても、それはダイカンの側からの一方通行な感じであり、それは本人の性分であると同時にエルフの性分によるものだった。

 現在では人族領域の北方に点在するエルフ系の亜人領域は、1500年前からほとんど変化していない。良くて自種族の領界と領域を得ている“一部族”として。大半は土着の、どの土地も所有しない少数部族として生きている。

 そういう閉鎖的な社会では個人同士の関係が『同郷=家族』という感じになる。仮に同郷ではなくても家族同様の環境で暮らす仲間を“家族”と認識してしまう。

 ダイカンの場合は、同じ傭兵団のリーダーであった皇帝を自分の“家長”と認識したのだそうだ。


 だが皇帝領を得て以降、当時の傭兵団の中核にいた者は、それなりの立場となって何時までも一つに集まっているわけにはいかなくなった。

 ダイカンも北方の侵攻や侵略に対応するため、中央領域を離れる事になる。が、どうも傭兵として生きた半世紀近い舎弟生活は骨の髄まで、それこそ遺伝子情報にまで沁みついてしまったらしく、子孫も同じような気質なのだそうだ。

 で、まるで飢えたように人族の“アニキ”や“親分”を求めるヴィーツィックに見染められたのが当時、鬼人族の血を入れて野生味を発揮し始めていた隣接する領域を治めるディムオウグ家だった。まだ鬼人の気質も強く、性質的に戦闘中心になりがちな為、別の領のこととはいえ内政面の面倒を色々と見続け、だいぶん時代も下り現在に至った今も領地運営にかなり重要な部分まで任せ続けている。


「“筋金入りの三下”……だよなー」

「それで御本人が幸せなら問題はありませんし」


 就寝前の準備中、つい口にでた言葉の意味を正確に理解したヒノが相槌をうつ。


「しかし、一方的にウル様が得をしているわけでもないのですよ」

「んー、もしかして、今の時期に来訪した事と関係する?」

「予想されましたか?」

「特に季節や行事の時期で来る理由があるかどうかは知らないけど、今は新型の殻徒の実戦配備が間近でしょ、昼間のティンツ様は錬金術の総責任者みたいだし、むしろ父上の方から呼んだんじゃないかなと思ったよ。だってヴィーツィック領での総責任者ならうちの錬金工房の総責任者も同然でしょ。リボンだけじゃなくて、当然うちの新型に関する技術は全て教えるって感じになるんじゃないの」


 ヒノの表情があんぐりとしたものになっていた。


「で、新型の殻徒の技術を全て渡す相手は、ダイカン様の性格は置いといても“公爵”なんだから、ほぼ皇帝領の中心に渡すって事だし、ならその中心から人族領域全体に配布……か、または下賜な感じで伝えちゃうとか、ありそうだよね」


 言いつつセイルがヒノを見れば、完全に呆れた表情へと変化していた。それでも寝巻のボタンをとめる手の動きは淀みなく動き、更に大きめに作られた寝巻の端々を日々の成長で毎日微妙以上に変化する身体に合わせて調整する。


「そういう領域全体の主導を握れるのは、単純に強いと思うんだ。それに、ヴィーツィック家の人にとって本当に尽くしたいのって、やっぱり皇帝家でしょ。うちは半分以上利用されてるとしても、それで特に困んないし……、んーん、殻徒が早く充実して身内の死が減るなら得しかないよね」


 ディムオウグ領が最前線である事は変わらない。歩兵が生身で戦うよりは、殻徒として戦えた方が生き残り易いのは当然だ。その術をより苦労少なく用意できる事に越した事はない。


「……確かに、ヴィーツィック家の領主一家が御越しになったのは、セイル様の案による新型殻徒の技術の譲渡が主にですね。ドラゴンによる侵略可能となる領界の増加とタイミング良く殻徒増産が利く事になっての資源輸入の段取り話しや、二家共に関係する技術問題の改善が即座にできるようになったのは、偶然半分のついで話のようですし……」


 話しの流れでは前後するが、ウルもセイルも、ドラゴンであるグウェリの復讐劇は自分に屈辱をくわせた魔族の一部族の全滅で終わったものと思っていた。

 しかし、実はグウェリはその後も気まぐれに魔族の領域を焼き続けている。最大の目的は“食事”だ。領界自体を溶岩の化したのは最初だけで、以後はこんがりと食べ頃に留めて“全滅”させている。


 本来、人族の家畜や人族自体もその対象である筈なのだが、今回の事でグウェリは徹底的に魔族のみをエサにすると決めたようで、お蔭でウルは労せず侵略可能となった隣接領域が大量にできて燃えているのあった。

 更に、都合良く殻徒量産の目処も立っている。これで攻めるなという方が無理な状況で、リボンの不備による問題を放置しても、出来る限りの増産が済んだら手近な箇所への侵攻する事自体はもう決まっていた。


 ヴィーツィック領主の来訪予定は、そのドラゴンからの棚ボタ以前に決まっていて、ダイカン始めティンツやピンキィなど、半分以上は遊びに来た気分だった。

 しかしピンキィはともかく、ダイカンとティンツは到着早々殻徒に関する諸雑務に対応できる者として忙しく動いていた。ディムオウグ領では鉄鋼素材の採掘による自給自足はできるが、それを精錬する燃料系は心元無い。燃料に利用可能な森林資源が豊富なヴィーツィック領はその特需に対応する事になり、ダイカンは喜々として動いた。更に元々リボンの供給もしていたのでその増加の処理はティンツに任される。


 ヴィーツィック家の到着以降の数日間、セイルがまったく知らなかった理由はコレであった。両親がいきなりカンズメ状態になったのでピンキィ自身はまだ入城しておらず、城のほうで受け入れ準備が済むまで城下町に逗留していたし、その受け入れ自体、殻徒のラインが片付くまではマリシアのメイド隊のみの作業だったので遅れがち。

 実際、散歩中のセイルをピンキィが発見し、ダイカンから言い含められていた事を実行しなければ、二人の幼児はもう二日は出遭う事もなく過していたであろうというのが実情であった。


「……ただ、ひとつだけ、ダイカン様は確実にセイル様自身を来訪の目的にしてはいますよ」

「え、僕を?」

「殻徒の報告と一緒に、それまでのセイル様の近況も報告されています。ギフティスになられた事や“竜の加護”の事もです。だから、少々早いですけどピンキィ様を連れてこられたのでしょうねえ」

「んん?」

「セイル様の事ですからもう想定しているかもしれませんが、『許嫁』という線は捨ててください」

「……っ、ああ!」

「おや、こういう類は考えませんでしたか。では率直に言ったほうがいいですね。ダイカン様の血筋の習性です。セイル様をピンキィ様の『オヤブン』にする為にです」

「……うっ、うっはぁぁー……」


 “なんと残念な習性”、と思ってしまうセイルである。更に“そういえば確かに夕食の時の光景なんかそのまんまだよなあ”と思いだしてしまった。

 明日からそれが日常になると漠然と悟り、セイルは複雑な心境となる。

 が、―――


「失礼します、セイリュウ様。ピンキィお嬢様の支度が整いましたので、お連れしました」

「へ?」


 一応夜着(ネグリジェ)を着たピンキィを連れてアンが入ってくる。

 セイルの様子を見たヒノは察したようで、小声で説明してきた。


「(セイル様、まだピンキィ様の寝室は用意できてないのですよ。ですから今晩は共にお休みください)」

「(ええー!?)」

「(“許嫁”に進展する分には構わないと両家の承諾済みですから、何も問題はありません。……まあ、起こりようがありませんし)」

「(ヒノ、絶対面白がってるよね!)」

「(“オヤブン”は“コブン”を愛でるものですよ)」

「(それぜったい意味違うよぉ!)」


 文句を言いつつも無駄な抵抗である事は理解しているセイルである。事、こういう流れに当人の意志は無意味なのである。まだ四歳児、大人の言い付けは絶対だ。

 しかしセイルが布団のもぐった後、ピンキィがベッドに入る前にアンに手伝わせて夜着を脱いだのには抵抗した。したのだが、『申しわけございません。やはり習慣が変わると眠りに支障がでますので。ちゃんと湯浴みもしましたのでセイリュウ様の御迷惑にはなりませんよ』と何処かズレてる意味でアンに説き伏せられ、『ワタクシが一緒では迷惑でしゅか?』とピンキィに嘆かれたらもう反論はできない。


 結局、なるべくピンキィを見ないように布団に埋もれて落ち付いた。


 大人でも余裕で寝られる巨大なベッドだ、静かなのでピンキィの呼吸すら聞こえるから存在感はありありだが、同じベッドの興奮はあっても、やっぱり疲労感からの睡魔の方が強い。そこら辺ピンキィも同じだろうと、じわじわ強くなる睡魔に身を委ねる事にした。


 だがしかし、青涼の感性に勝手に振り回されるセイルだが、逆にこの年齢の無邪気さを忘れている事をようやく自覚する。

 “もぞり”と布団が動いたかと思えば、隣に来たピンキィがセイルの手を握って上体を起こす。驚くセイルの目には、やや涙ぐんだピンキィの貌がうつった。


「セイリュウ様、やっぱり、ワタクシは迷惑でしゅか?」

「うええっ、なっ、なんで!?」

「だって……、ずっとワタクシを見ないでソッポむいてりゅし―――」

「(うん、裸の女の子をガン見したらヤバイからね!)」

「―――腕、ワタクシに触れたくないように力はいってましゅ」

「(うん、僕女の子触る免疫ゼロだからねっ!)」

「やっぱり、やっぱり、イキナリ暴力振るったオンナだから、そんなのキライなんでしゅね!」

「うわっと、えっと、違うよ。それ絶対違う」


 何時までも狼狽えてばかりだとマズイと気づいたセイルは訂正しようとするが、こういう年齢には言葉はほとんど無意味である。

 スキンシップという言葉がある意味の通り、触れる事が全てという年代がある。それが幼児期だ。優しく触れれば親愛や愛情、荒々しく触れれば暴力や敵対、そういう単純な理解が、まだ他人との距離を理解できない年代では必要なのである。

 故に“触れられない”や“触れる事を拒まれる”のは、そのまま明快な拒絶の意思だ。

 例えその理由が“照れくさい”という好意に属するものであっても、触れられない側からは理解できない事なのだから。


 つまり、セイルはその行動でピンキィを完全に拒絶したのである。

 もしこのまま、ベッドから出て去ろうとするピンキィを黙って見送っていたら、少なくとも数年はピンキィとの関係は終わっただろう。物心つく前の事とはいえ、心の傷にはなって当然の事だ。忘れるか、思い出になるまでの間、再会はなくなるのだろうから。

 だが、幸か不幸かセイルはピンキィを捕まえることができた。ベッドが大きいせいで思ったように動けなかったため、そこは自分のベッドであるセイルの方が機敏に動けたせいだった。


 とはいえ、無理やり捕まえたのだから当然体勢は中々危ない。またも青涼の羞恥心が膨らむが、そこは必死に我慢した。


「ピンキィ、ごめん!、君をキライなんじゃない。絶対」

「だってっ、だって……」

「僕が悪い!、僕が勝手に……、勝手に、恥ずかしがっただけなんだから!」

「はず……かしい?」

「うー……、僕がエッチなだけなんだよ!、始めて女の子の裸見て、驚いただけなの!」


 我慢はしたものの、テンパッているのはしょうがないセイルであった。

 ピンキィにしても、意味はろくに分からない。まだまだエッチな意味など知らないし、そもそも裸身に羞恥心など無い種族でもあるのだから。

 しかし、セイルが自分を拒絶していない事だけは理解できていた。必死に捕まえて留めようとした事は分かったのだから。今もピンキィが逃げないように、ぎゅうと抱きしめているのだから。


「ワタクシ、セイリュウ様のそばに居て、いいの?」

「いいよ。だってピンキィは僕のシモベなんでしょ」

「えへへ、いーんだぁ、えへへへ」


 お返しとばかりにピンキィもセイルを抱きしめる。そのまま共にベッドへと倒れ、高揚した心が落ち着くと同時に二人仲良く睡魔の虜となって、眠ってしまう。

 夜中、様子を確認しにきたヒノがクスクス笑って大きくはだけられた掛け布団を直す。

 翌朝には二人して派手な寝相で他のメイドの笑いのネタになったが、幼い二人の抱き合う愛らしさを堪能したヒノは、ひとり得した気分なのであった。


 それにしても睡魔に屈する寸前、セイルは夕食の時にされたピンキィの“フルネームの自己紹介”を思いだしていた。


『ワタクシ、“フレッシェア・ピンキィ・ヴィーツィック”と申しましゅ……』


(“薄桃色のビーチク”って、出来過ぎだよ!)


 アップで見たピンキィの上半身。確かに名前通りの見事なピンク。それが青涼の羞恥心を最高レベルまで高めた原因であったのだが、そこはピンキィ当人にツッコンでもどうしようもない事なわけで、なんか理不尽を感じる部分であった。


 加えて、起きた時。何故かピンキィに見事な『腕拉ぎ十字固め』を決められていて、午前中腕が利かなかった事にも理不尽を感じたのであった。



〈~続く~〉




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