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リトルオーガ in カレイドスコピカレード  作者: 雲渚湖良清
幼児の章【二】 青い児鬼と鋼の幼女
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セイルのリボンいじり

 ウルとダンゲル親方は工場の一角にある監督所で殻徒(からと)の換装結果の確認をしていた。


「ふむ、新規格の新たな問題で残ったのは“コレ”か」

「致命的な問題じゃねえのが厄介だなあ……」


 一品物の殻徒が部分的に完全に量産品化した事は、ディムオウグ領の戦力を何倍にも引き上げた。生産数が増えて多くの歩兵が殻徒として動けるという事は、打撃戦力の向上は当然、生存率の向上にも繋がるわけで、それは総戦力や継続戦闘能力、戦争期間の長期化への対応、全てに関係する事であった。


「根幹部品であるリボンがなあ……、自前でも作れるが、“手織り”じゃあやっぱ限界があり過ぎる。今までは装甲の方が手間どってたから供給が間に合ってたが、それが綺麗に逆転しやがった」

「更に“品質”か……。これは、儂も親方も門外漢だしなあ……」

「御館様、“客人”は専門家なんじゃろう?、いっそ丸投げしちまっても……」

「“あいつ”はなあ、別に専門ってわけじゃない。あいつの配下に専門家が多いだけだ。それに連中に必要な品質の物を依頼するにも、その品質の説明ができんと意味がない。つまり儂等がリボンの構造自体を完全に理解せんとという事になる」

「どうどう廻りだわなあ」


 セイルの意見を取り入れた改修案はほぼそのまま特に苦労も無く進行できた。

 ただ、実物による機能発現の結果は予想よりは若干低いものとなってしまっていた。


 原因は殻徒を動かす魔術を伝達する根幹である部品、『リボン』の品質だ。

 プレ版ではまだリボンの在庫もあったので事が露見しなかったのだが、先行試作二十体の内三体に魔術の効果のムラが現れたのだ。右足と左足で発現する効果に差が出て全体のバランスが崩れた感じになってしまう。


 しかし、それは個人の技量で修正できない程でもない。殻徒自体が元々個人差の激しい存在であった事も災いし、組立完了後の作動テストの担当者がはんば無意識に“この機体はこう対処すればいい”という従来の観念で済ませてしまっていたのであった。

 そして先行試作の実働テストにおいて、二十体を五十人の兵が交代で使用した結果、その動作報告によって問題の三体が浮き彫りとなったのである。


「この三体はリボンの在庫が怪しくなった試作作成後半の物で、複数の(たん)からの継ぎ接ぎみたいになったもんだった」

「今までは一反毎に消化していたから、リボンそれぞれの品質の差が露骨に表れる事が無かったわけだな」

「思い返してみりゃ、極たまにまともに作動しない殻徒もあったわなあ。ありゃリボンの質が低すぎてって事かもしれん。当時は鋳込み失敗で片付けた記憶がある」


 鉄や鋼より融点の高い魔化金属鋼(ミスリル)だが、炉の温度調節を間違えれば鋳込み時の高温で溶けてしまう事もある。

 今まではそういう失敗と混同していたわけだが、今回それとは別の要因があると分かったわけだ。


「何にしても、オレや御館様で解決できる事じゃねーなあ」

「むう……、つまり」

「坊ちゃんのお知恵拝借だな」


 セイルがピンキィに“三つ指つかれて”困惑していた頃、更に厄介な事が起こっていたのであった。



 ◆  ◆  ◆



「『リボン』とは、複数種類の糸と紙縒帯(こよりおび)をまとめ、一反の帯にしたものであります───」


 セイルが未だ入った事の無い鍛冶工場に並ぶ危険度の高い区画、『錬金術工房』。ピンキィの“詫び”に慌てたものの、その後はまあまあ和やかにオヤツを楽しんでいたところへ、フウノとミィノがセイルを呼びにやってきて、有無を言わせず連行同然に連れられてこられた。

 様々な実験や作成をしている区画を通り抜け、会議室のような一室に座らされた後は、待っていた“講師”にリボンの“仕組み”を説明されているのだが、そもそもこの状況になる意味が分からないので、さっぱり頭に入らない。


「───という効果を得られるのです。分かりましたね。セイル様」

「ううん、ぜんぜん」

「なあっ?、どうしてです?!、こんな簡単な理屈なのっ!、ごふあ!!」


 中年オヤジな講師が、理解を示せないセイルに激口するが、途中で延髄にT定規チョップを受けて悶絶する。

 なかなかえげつない技を繰り出したのはセイルの母、マリシアによく似た印象の人族の女性だ。


「基礎学習も終わってない子に何をしてるのですか、全く」


 この女性、ピンキィの母であり、ヴィーツィック家正妻のティンツという。今回の賓客の片方である。


「我が領からの出向責任者として実力ある錬金術師と聞いてましたが、かなり裁定基準に疑問が生じましたね。帰ったらお前も含め全員再選定です」

「おおお、奥方さまぁ……」

「だまらっしゃい!、我が領の恥を濯ぐ為、私が直に講じます」


 ここへ連行されたセイルを置いてけぼりのまま、唐突に現れたティンツが講師を交代する事になる。


「先ずは、初めまして。私はティンツ・ウェィミー・ヴィ・ツィック、ピンキィの母です。そしてヴィ・ツィック家現領主の妻であり、ヴィ・ツィック領、錬金術工房の責任者でもあります」

「ええっと……初めまして。僕はセイリュウ・セイル・ディムオウグです」

「自己紹介は、本当は夕食の時に主人と一緒にの予定だったのだけれど、どうも無茶な事をしかけてるって小耳にはさんでね」


 セイルにリボンの改善案を考えさせる為にウル達がとった手段は、先ずはリボンの全てを知ってもらうという事だった。

 その為、そのリボンを作る担当者である錬金術工房の主任にレクチャーの指示が下ったのだ。

 だがこの主任、本来はヴィーツィック家に仕えている者で、ディムオウグ家の錬金術師達に技術指導をするため出向してきている外様であった。

 出向とはいえ、普段ならばディムオウグ領主の指示にも否とは言わないのだが、今日に限っては本来の主がそばに居る事で、指示通り『リボンの技術』を教えて良いものか、コッソリと伺いをたてていたのでティンツが知ることとなったのであった。


 が、ここで一つの事実が露見した。


 この主任、元々はディムオウグ領でもリボンの自作を可能とする為に技術指導として派遣されていたのだ。にも関わらず、リボン作成は“秘伝”として、この工房で弟子をとるまでは自分一人で作るものだと工房内に宣言していたのだった。

 ここの錬金術師にやらせていた事は、精々リボンに使用する素材の供給経路の確立くらいである。リボン作成は教えるどころか手伝わせもしない。

 そんな内情だったのである。


 迂闊にもヴィーツィック、ディムオウグ両家の上層部の知らぬ事実で、なまじリボン供給の流れがうまくいっていた故の盲点であった。


「まだ魔術の基本すら教えてない子供に、“リボンを作らせる”なんて報告を受けて、ちょっと詳しく聞いたら、実は“うちの不始末が原因”みたいな感じでしょう。至急事実の確認をしようとしたのだけど、別の領の内情だからね、ウル様に了解とその詳細を聞くのに手間取って、少し来るのが遅くなったの」


 そう言って(うなじ)を押さえて唸ってる中年錬金術師を見下ろす。


「大方、いきなり専門用語を並べたてて、理解できないって事実だけを晒させて煙に撒こうとしてたのかしらね。“ギフティスでも自分の牙城は崩せない”ってパフォーマンスで」

「はあ……?」

「大人の汚い部分だからね。忘れちゃいましょう」

「は……、はあ?」


 ようやく自分がここに連れてこられた理由を教えられたセイルだが、だからといってウル達の期待に応えられるかというと、分からないどころか無理だろうと思える。

 元々リボンの構造など知らないし、魔術に関してもサッパリだ。ただその使い方が、青涼の記憶にある『脳波計測の配線』や『手作りロボットの電装系』と似た感じからくる質問なだけだったのだから。

 それを正直に言うと、『なる程、大昔には原動力は違っても似たような技術はあったのね』と逆に感心されてしまう。


 ただ、“品質”に関してはバイトの知恵が使えるかもしれないと内心考え、とりあえずはリボンの構造を教えてもらう事になった。


 ヴィーツィック領を始め寒冷地に生息するトナカイに似た動物『エンディン』。縦糸はこのエンディンから採った毛糸とミスリル化した銅糸を縒った芯に、幅三ミリの和紙のような帯に魔術文字を刻んだ物を紙縒巻きしてできる。太さは一ミリ程度。糸としては太いものになる。

 鋳込む段階でミスリル部分以外は燃え尽きるが、この時、紙縒の魔術文字がミスリル糸に焼き付き、同時に糸と接する鉄の部分にも焼き付く事で、ただの鉄の装甲を擬似的に肌のように感じさせれる事になる。


 横糸は毛糸とミスリル糸のみで、太さ0.5ミリ程。特別な織りは無く普通に糸を渡すだけだ。但し別織りの“魔法陣”を貼り付ける土台にするので均一性を望まれる。


 ここまで説明を受けてセイルが感じたのは、『リボンとは、機械の“基盤”と“ケーブル”が一体になったような物』だった。


(プリント基盤とかそのまんまかなあ)


 そして、その織りの工程の間、絶えず織る者が一定のレベル以上の魔力を糸に流し続ける。それをしないと織りあがっても魔力を流す事が不安定な物になると教えられた。

 錬金術師達は“魔力の道を通す”と呼ぶ工程であった。


(光ケーブルのイメージかなあ?)


 光ケーブルは熱して柔らかいガラスや樹脂をマカロニのように射出し、中空の部分にガスを絶えず流しながら引き伸ばして細くする事で一定の均一性をもった『管』にする。

 リボンは物理的に“管”になっているわけでは無いが、似たような状態にはなっているのだろうと推測するセイルであった。


「じゃあ、品質の差が出やすいのは、その魔力を通す時のムラは関係するのですか?」

「それも有ります。でもね、そもそもミスリオタイトの錬成やそれを糸に加工する際の工程も無視はできません」

「それは技術的な事ですか?、魔力的な事ですか?」

「いいところに気づきましたね。そう、魔力です。ただの銅をミスリル化するにも、そこから糸にするにも、常時魔力を浴びせながらする必要が有ります」

「その魔力が、作成中に変化や増減すると、品質の低下という結果になる。と?」

「正解です。なる程、ウル様の指示は(あなが)ち無茶でも無かったのですね」

「買い被りですよー。で、質問です。その魔力は作成作業する当事者でないとダメなんですか?」

「いいえ、本人に越したことはないけれど、別人が複数人、浴びせる魔力の量を調整してすることもありますよ。実際、(ウォーラー)級の殻徒に必要とするリボンは錬金術師独りの魔力では作成できませんからね」


 “壁級の殻徒”。セイルもその存在に注目していた。ただ、ティンツとは別の意味でだ。

 元々セイルが注目した殻徒は“壁級”だ。(ブリッツ)級が鎧を着るようなサイズであるのに比べ、壁級は上半身部分に“搭乗”するという青涼のツボに入る“ロボット系”だ。

 セイルの現状から礫級でも同じような搭乗になっているが、やはり“乗る”というならば壁級に注目するのが男子の本懐であった。


 壁級への搭乗はちょうど鳩尾の辺りに馬の鞍のような座席があり、そこに跨がる形になる。殻徒としての操作は礫級と変わらず思考で行うため、特に生身の方の身体を動かす必要が無い。しかし礫級とは決定的に違う機構があるので、その操作だけを手動でしている。

 が、今セイルが注目しているのはそこじゃない。


 鎧そのものが駆動し、胴体以外はがらんどうで良い壁級だが、その巨大さは人族一人の魔力で動かせるかと言えば“無理”の範疇だ。なので複座にして、数人分の魔力で動かすという手段をとっていた時代もあった。

 しかし現在は単座、別の方法で魔力を補う技術を使用しているのである。


 『魔蜃炉(ましんろ)』。見た目は直径五十センチ大のシャコ貝だ。淡水生の貝で人里近くの湖や池、貯水池などに繁殖している。この貝の特徴は、水中や空気中、他の生物から放射される魔力を吸収して貯め込むという性質がある事だ。貯めた魔力を自らの成長に使っているのだが、ある特定の刺激によって貯めた魔力を放出するようになり、この機能を利用した“魔力の電池”として活用していた。

 壁級殻徒はこの魔蜃炉を四器、両の大腿部二器づつに格納していて、殻徒の稼働用魔力として使っていた。


 何故か殻徒以外に利用されてないこの魔力電池を、リボン作成時に使用できないかと、セイルは思いついていたのであった。


「“魔蜃炉”ねえ、確かに盲点だわ。でも壁級殻徒を動かす程の大きな魔力は逆にリボンに使えるのかしら?」

「細かい説明まで聞いてないので確証無しですけど、殻徒が動いてる時と動いてない時、同じように魔力を流しているとも思えないので、出力の調整は効くと思いますよ」

「なる程~、試す価値ありそうね」

「ヒノ、親方か、魔蜃炉の機能に詳しい人を呼んでくれる?」

「畏まりました」


 こうしてリボン作成においての品質の安定の目処が立った。

 その他の部分、錬金術師の手作業だった工程も数ヶ所は機械化できて少しは効率化できた。

 結果、リボン作成可能な錬金術師の人員も増え、一定の品質も保て、滞っていた殻徒製作ラインも流れ始めた。


「ああ坊ちゃん、魔蜃炉ってな、一器で歩兵の年俸五年分だぞ。そうそう巷じゃ使えねーわな」


 魔蜃炉の機能説明にきた親方に、『なんで他には使わないの?』と聞いた答えがこれだった。

 セイルとしては車のバッテリー程度と思っていたが、実際は『災害時の移動発電所』並みの代物だったと知ったのであった。

 さらにはティンツから、『壁級殻徒なんて使ってる領家は、皇帝家と東西領家のところくらいですよ。魔蜃炉の存在すら知らない人も多いのですから』と言われ、この世界でもニッチ寄りな知識を持ち始めたのだなあ、と自覚してしまったセイルであった。



 ◆  ◆  ◆



「ねえヒノ、ちょっと気になったんだけど?」

「はい?」

「ピンキィのとこの家名、なんか発音が違わない?。ヒノ達は“ヴィーツィック”、でもティンツ様やアンは“ヴィ・ツィック”、微妙に違うよね?」

「正式名称は『ヴィーツィック』なのです。ヴィーツィック領主様もその呼び方を望まれていますので、私共はそれで通しています。てすが……」

「うん?」

「十何代か前の皇帝より内々の御沙汰があり、“ヴィ・ツィック”と改名する事になったらしいのです。しかし、セイル様もご存知のように、爵位と家名の融合による呼び名です。しかも内々という事で他の領家には詳しい経緯が伝わらないので、結局“ヴィーツィック”のままとなりました。しかし御沙汰を受けた当事者まで無視はできないと、ヴィ・ツィックと発音している……のだそうです」

「え、確証無し?」

「はい、なにぶんヴィーツィック領家からは一切情報がでませんから。これは、御沙汰を受けた当事のヴィーツィック家の使用人が洩らしたものです」

「ふーん……、胡散臭さぁ……」

「そうですねー。しかも他に信じられない内容もあります」

「なに?」

「御沙汰の内容が、『余が悪かった。今からでも遅くないから改名してくれ』と、皇帝よりの謝罪つきだったとか」

「……血が近いっていっても、有り得ない感じ?」

「そうですよね。だからこそ“ヴィ・ツィック”が広まらないどころか、敬遠して使用しないのです」


 何か口外できない秘密がありそうな感じはあるが、ちょっと想像がつかないので、保留……というか忘れる事にしたセイル。二つの呼び名に一応ちゃんとした理由があるのを知ったので満足してしまったのであった。


 自室に戻り、待っていたピンキィとアンが夕食の身支度で退室するまでは世間話で時間を使い、セイルも今晩は略式の正装に着替える。

 そうして夕食。賓客であるヴィーツィック領主と初めて対面し、自己紹介を受けた時、“皇帝の謝罪”の意味を悟った気がしたのは思い違いでは無いと確信したセイルであった。


「初めまして、セイリュウ・セイル。オレがヴィーツィック家現当主、『大陥没ビーチク』だ!」


 膝は笑ったが、なんとかコケはしなかった。



〈~続く~〉



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