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京都のスタートは『料亭 紫水』からです

 京都では今回も、前回と同じホテルを鞍馬くんが予約してくれていた。しかも、前と同じような続き部屋のコネクティングルームをね。

 待ち合わせたロビーに入っていくと、樫村さんと夏樹の2人はもう到着して、優雅にお茶など飲んでいるところだった。

「おそくなりましたー。樫村さん、済みません。待たせちゃったわね、夏樹」

「おう、オレたちもさっき着いたばかりだから、気にしなくていいぜ」

「じゃ、部屋に行きましょうか」

 チェックインはもうすませてくれていたので、とりあえず部屋に荷物を置いて、シャワーなど浴びたあと、少しドレスアップしてまたロビーへ降りる。


 というのもね。今日は『料亭 紫水』で夕食なの。

 樫村さんが来るのならと、冬里が席を用意してくれたんだって。

 この間はランチだったから、夏樹も私も夜のお料理は初めてだ。以前に私の両親が京都旅行に来たとき、冬里に招待されてお料理を堪能したのよね。その時の「美味しかったー」っていう話を聞いていたので、とても楽しみ。


 冬里が差し向けてくれた例のリムジンに乗って、料亭の近くの大きな道路まで行き、そのあとは以前歩いた懐かしい道を、今度は鞍馬くんに変わって樫村さんと夏樹と歩く。当然ながら、樫村さんが消えてしまうんじゃないかと思うこともなく。


 料亭の門をくぐると、あいかわらず広くて趣のある玄関に、今日は冬里じゃない人が立っていた。

「ようこそおいでくださいました」

「綸ちゃん!」

 私は思わず駆け寄って、熱烈にハグをしてしまった。

 ええ、ええ。以前に冬里が鞍馬くんにハグした時、思いっきりひきましたよ。でも、野郎同士と女の子同士とではちょっと違うと思うのよねー。

「由利香さん…」

 けど夏樹が思いっきり脱力してる。やっぱりまずかったかな。

 綸ちゃんはさすがというか、そんな私に驚くこともひくこともなく、笑顔で挨拶を続ける。

「お久しぶりです、由利香さん。朝倉あさくらさんも。そちらが樫村さんですね。初めまして、中大路なかおおじ りんと申します」

「ああ、お会いするのを楽しみにしてましたよ。由利香が、良い人なのよーってうるさくてね」

「樫村さん!」

 もう、樫村さんったら余計なこと言わなくてもいいのに。

 綸ちゃんは、またふふっと余裕の笑みを見せて、お店の中へと案内してくれる。


 今日案内されたのも、椅子とテーブルの置かれた部屋だった。

「こちらでしばらくお待ち下さいね。もうすぐ当主が参りますので」

 そう言って下がる綸ちゃんに手を振って、しばらく待っていると、「失礼します」と、声がして、するすると扉が開いた。

 中へ入ってきたのは、和服姿の冬里、と、もう1人。総一郎さんだった。

 2人は並んでお辞儀をし、顔を上げたところで冬里が話し出す。

「ようこそ料亭紫水へ。当主の紫水院しすいいん 伊織いおりでございます。そして、こちらに控えていますのが、来月より13代目伊織を引き継ぎます、紫水院しすいいん 総一郎そういちろうでございます」

 大まじめな顔をして述べていた冬里は、ぽかんとした3人の顔をさも可笑しそうに見比べて、いつもの調子に戻る。

「なんて。いちおうしきたりだからね。来てくれたお客様には、すべて言うことになってるんだよねー。びっくりした?」


「はい…」

 夏樹がぽかんとしたままで答えるが、そのあとちょっと嬉しそうに言った。

「でも、冬里カッコイー。いつもそうしてたらもてるのに」

「なに? 夏樹。いつもはどうだって?」

「いえいえ! いつもカッコイーです」

 夏樹は慌ててフォローする。

 冬里の隣で、クスクス笑いながら2人のやり取りを聞いていた総一郎さんは、「ぼくにもしゃべらせて下さいよ」と言いながら、もう一度お辞儀をする。

「料亭紫水へ、ようお越し下さいました。私が来月より当主を務めさせていただきます。至らぬ点も多々あるかと思いますが、日々精進いたすつもりです」

 そう言ってニッコリと微笑んだ。

 そのあと2人は、落ち着く間もなく出て行ってしまったので、樫村さんと冬里の積もる話は、明日へ持ち越しのようね。


 それはともかく、出て来たお料理は、やっぱりどれも芸術品のように美しくて、とても美味しかったのよー。

 私たちは、というより樫村さんと私は、素直にお料理を堪能したのだけど…。

 夏樹ってば、ひとくち食べるごとに、ウーンとうなって「これは、美味いけど、どうすればこの味が…」とかブツブツ言いながら食べている。

 ホントにこの子は料理命! ね。

 鞍馬くんにこの姿を見せたら、またとっても嬉しそうに微笑むんだろうなー、とか思いながら、私はこの上なく美味しい料理を味わったのだった。




 翌日。

 今日は冬里がお店を総一郎さんに任せて京都を案内してくれると言う事だ。

 朝から用意万端、ホテルのロビーで待っていると、冬里がやってくるのが見えた。


「おはよ。皆、すごく元気そうだね」

「あったりまえっすよ。昨日あんなすごい料理を食べたんっすから」

「そうよー。ホント美味しかった。また腕を上げたわね」

「ありがとう、総一郎に伝えておくよ。さて、今日は? たしか由利香は二条城と、建仁寺へ行きたいって?」

「ええ!二条城の大政奉還の間! 建仁寺では風神雷神さまと、龍の絵が見たい!」

 力強く言うと、樫村さんも夏樹も異議なしだったので、冬里は少し考えて、

「じゃあ先に二条城へ行って、その後に建仁寺ね」

 と、いとも簡単にルートを決めてくれた。



 二条城は、世界遺産に登録されている。初代徳川将軍家康が築城し、大政奉還がなされるまで、徳川の歴史を見守ってきた、んだろうと思う…。

 大政奉還の間は、正式には大広間一の間・二の間といわれるもので、本当に教科書の絵とかに載ってるあのまんまの空間が広がってるの! でも思ったより狭く感じたのは、私だけかしら。

「まったく、由利香さんはあの時代のこととなると、ほんっとに回りの迷惑も考えず、まっしぐらですよねー」

「あら、いいじゃない。大政奉還の知らせを聞いた龍馬さんが、どれだけ嬉しかったか考えたら、もうそれだけで感無量よお~」

「はいはい」

 夏樹はそのあとはあきらめたように、はしゃぐ私のあとをなんだかんだ言いながらついてくる。

 その間、樫村さんと冬里は積もる話をしながら、ゆっくりと後ろを歩いていた。

 どうやら夏樹は今日、私のお守りを買って出たようだ。そうよねー、夏樹はもう樫村さんとは、たっぷり話ししただろうし、もちろん私も。だから冬里には心ゆくまでお話ししてもらわなきゃ。

 二条城のお庭もじっくり見て回り、ランチのあとは建仁寺へと向かった。


 祇園花見小路の奥の方にある建仁寺は、そんなに広大ではないが、美しいたたずまいのお寺だ。

 拝観料を払う受付から、入ってすぐの薄暗い空間に、風神雷神さまがいらした。

 風と雷の神さまよね。このお二人はなんだかお顔が可愛くて大好きなの。

 そのあと、順路に従って行くと龍のふすま絵がある。この絵は、どの角度から見ても龍の目がこちらを向いているという、不思議な絵だ。ためしにあっちこっちと動いてみたけど、本当に、どこにいてもこちらを見ているの! 面白い。

 そして、渡り廊下をはさんだ法堂というところには、双龍図の天井絵。2匹の龍が描かれていて迫力がある。ちょっと首が痛くなるまで眺めちゃった。

「先に行ってるよ」

 私が飽きずに眺めてるものだから、あとの3人は言い置いて先に行ってしまう。

 戻ってみると、3人はお庭を眺められる広間でくつろいでいた。

「やーっと帰って来た!」

 夏樹がイーッとしながら言う。

「あら、申し訳ありませんでしたわね。わあ、お庭も素敵ねえ」

 と、しばらく私も涼やかなお庭を拝見しながらまったりして。

 結局そのあと、どこかでお茶でも飲もうかという話になったときに、疲れたから、と、お茶は宿泊先のホテルでと言うことになった。





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