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なんと京都で恋バナ発覚?!

 ホテルに帰ってロビーでお茶を飲んでいると、また冬里がとんでもない事を言い出した。

「今回もベッドひとつ余ってるんだよね。だったらさ、もう店のことほとんど総一郎に任せてあるから、今度こそ僕も泊まろうかな~」

「は?」

「シュウが来てないんだったら、由利香はボクが独り占めだもんね~」

 などと物騒なことを言い出すんだもん。

「ええ!? 何よそれ!」

 するとニッコリ笑って言い放つ冬里に、必死の形相で応戦する夏樹。

「だ・駄目ッスよ。だったら、由利香さんと俺が同じ部屋にします。冬里はあきらめて下さい」

 冬里は最初、ちょっとびっくりして夏樹をまじまじと眺めていたが、やがて、わかったと言うように頷いて言う。

「ふうーん、シュウに頼まれたんだ。さすがシュウだね。僕が由利香の部屋に泊まるって言い出すこと、お見通しだったんだね」

「え? ち・違いますよ。俺だってシュウさんがいないときに由利香さんと仲良くしたいだけです」

 などと言ってるけど、夏樹ってやっぱりウソがつけないのよね。明らかに動揺しているのがまるわかりだもの。

 冬里はそんな夏樹を面白そうに眺めながら、

「ボクに楯突こうってわけ? あはは、夏樹~、命知らずだね」

 などとまたまた物騒な事を言い出すから、夏樹は冷や汗タラタラだ。

「もう、冬里! いい加減にしてあげなさい。夏樹もそんなに構えなくて大丈夫よ。私は冬里と同室になっても、充分渡り合っていけるわよ」

「はあ…すんません。じゃあやめときます」

 ほっと肩を落とす夏樹に、けれど冬里はちょっかいをかける。

「あれ? 夏樹。一度宣言したことをそんなに簡単に引っ込められると思う?」

「ひえっ!」

 なんてこと。

 冬里は自分より体格のいい夏樹の腕をスイッと引っ張って、「ちょっと顔貸して?」などとニッコリ笑い、軽々とした足取りでスタスタとどこかへ連れ去ってしまった。


「え? ちょっと待ってよ!」

 あわてて2人が消えた方を見る。どうやらエレベーターへ向かったようだけど。

 私は、ニヤニヤ笑いながら2人のやり取りを見ていた樫村さんに思わずくってかかる。

「樫村さん! そんなのんびりしてないで、何とかして下さいよ」

「まあ大丈夫だろう。冬里だって命まで取りはしないさ」

 なんて言って、ゆっくり珈琲など飲んでるんだもの。

 もう! 

 鞍馬くんがいればこんなときすごく頼りになるのに。やっぱり無理矢理お店を休んででも来てもらえば良かった。


 樫村さんはああ言ったけど、どうにも心配だった私は「探してきます」と断って、そこを離れようとした。すると樫村さんは自分の部屋のカードキーを取り出して、

「部屋にいるかもしれないぜ?」

 と、渡してくれた。

 私は大急ぎでエレベーターに乗り、隣り合わせになった私たちの部屋へと急ぐ。

 ピッとカードを通してそっとドアを開けると、夏樹の声がした。あ、やっぱり帰ってたんだ。


「勘弁して下さいよー。冬里が言うようにシュウさんに頼まれたんっすよ」

「やーっぱりね。でーもさ、夏樹はボクよりシュウの方が大事なんだ~。へえー、そうなんだ。…なんだかガッカリだよ」

 と、寂しそうに顔を伏せる冬里。夏樹はそれを見てアワアワとしている。もう、夏樹ってば、いつまでたっても単純で純情なんだから。

 私には容易に想像できるわよ。うつむいた冬里の口元がにやついてるのがね。

「わ、わかりましたよ。俺がどっちも同じくらい大事だって証明、してあげますよ。…ええっと、今からシュウさんの恋バナしてあげます」

「え?」

「ええーー?!」

 あんまりびっくりしたから大きな声出しちゃった。

 驚いてこっちを見る冬里と、あわてて自分の口を手でふさぐ夏樹。

 でも、でも!

「夏樹! なにそれ? 鞍馬くんの恋バナ? うそでしょ。だってあんたたちは個人的に誰かに愛情を持たないんじゃないの? それに、あの鞍馬くんが恋って」

 私は夏樹のところまで飛んでいって、腕をつかんでくってかかった。そのとき、うしろから冬里がチョイチョイと肩をつつく。

「? なに?」

 振り向いた時は手遅れ。冬里の唇が私のおでこにふれる。あ! しまった!

 私はそのまま眠るように崩れ落ちてしまった。


 私がその場に倒れ込んだあと、冬里は私を抱えてベッドに寝かしつける。そして、おもむろに夏樹に聞いた。

「シュウの恋バナってさ、もしかしてリュシルとのこと?」

「ええ!? 冬里知ってるんすか?」

 夏樹はびっくりして聞き返す。

「あたりまえでしょ。相手が誰であれ、僕に隠し事なんて出来ると思う?」

「シュウさんなら出来るかと思ってたんですが、甘かったんすね…」

 ちょっと顔をこわばらせながら言う夏樹。

 また冬里を恐れる要素がふえたわね。


 冬里は、あごに人さし指を曲げてつけながら、その時の事を思い出すように言う。

「んーとね、僕もそのことを知ったのは、カケラのせいだから何とも言えないんだけど」

「カケラ?」

「ああ、いいのいいの。でもさ、シュウがリュシルに恋してたなんて初耳だよ。そんな風に言ってたの? シュウが?」

「ええっと、はっきり聞いたわけじゃないんです。もしかしたら違うのかも…」

 夏樹はだんだん声が小さくなる。

 冬里はちょっと微笑んだあと、

「まあいいよ。さてと、じゃあ由利香にはこの話はしない方がいいよね。だったら記憶の上書きしなくちゃ。夏樹は何か良いアイデアある?」

「え? そうすねー」

 よからぬ2人組はそのあと、楽しそうに色々アイデアを考え合ったのだった。


「う……ん」

 気が付くとそこはホテルの部屋。私は自分のベッドに寝かされていた。

 頭痛い。

「気が付いたか?」

 声がした方に目をやると、樫村さんがちょっと心配そうに私の顔を覗き込んでいる。

「あ、樫村さん。私なんでこんなところに」

「ああ、冬里と夏樹がな、ふざけて由利香にきつーい酒を飲ませちまったんだよ」

「お酒?」



***

 ああ、そう言えば。

 部屋にお茶を持って来てもらって、楽しんでいたら。

 ここの部屋に、サービスで飲めるお酒があるって夏樹が言って…。


「由利香さん! 由利香さん! これうまそうっすよ!」

「もう、なによ夏樹」

「カクテル!」

「へえー、カクテル? サービスなの? どれどれ、いただいてみよう」

 一口飲むと、すごく美味しい! まるでフレッシュジュースみたい。と、言うわけで、いっきにグラスを空けてしまい…。

 かなりきついお酒だったらしい。とたんに視界がグルグルまわって、すごーく良い気分。私はなんだかケラケラ笑いながら、そのままバッタリとそこで寝てしまったのだった。

***



 もうお気づきでしょうけど、これが冬里が私に上書きした記憶。

 まったく、なんていう記憶を焼き付けてくれるのよ。

 だから、残念ながら、私はとうとう鞍馬くんの恋バナ? を聞くことは出来なかったの。

 なぜかっていうとね…。

 鞍馬くんと私がシンクロする理由には、私がややこしく絡んでいるので、私には話さない方がいいだろうと皆の考えが一致した。そのため、鞍馬くんとリュシルさんの事も、生涯私の耳に入ることはなかったのだった。




 

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