異世界ゼミ[4]
僕が着席したのを見計らって、学長が口を開いた。
「では、ゼミのメンバーも決定したことですし説明の前に自己紹介をしましょうか。名前と学部・学科、好きな物事や最近の出来事など簡単に話してもらえると嬉しいです。では、夏澄くん」
「俺からですかぁ!?」
「トップバッターに適任かと思ったのですが、違いましたか?」
隣で素っ頓狂な声をあげた夏澄くん(確定)。ということはギャルのほうが田中さん(確定)なのか……! そして夏澄くんは夏澄くんで二条学長の言葉に満更でもなさそうな顔をしている。
「えええ。まぁ、そうなんですかねぇ」
「……チョロ」
ぼそっと呟いた田中さんに心の中で同意した。
ガタガタと椅子を引いて立ち上がった夏澄くんはンンと咳払いをして話し始める。
「夏澄透! 夏澄でも透でも好きなように呼んでもらえると嬉しいです。情報学部の情報システム学科二年生! んで……好きなものはゲーム! アニメとかラノベ、漫画も好きだけど断然ゲームが好き。RTAとかにもハマってまーす!」
キラキラの金髪が似合う眉目秀麗な男の趣味に少しだけ驚く。別にそういう趣味に偏見があるわけじゃないけど、スポーツ観戦とか古着屋巡りって言われたほうがしっくりくる。着てる服もオシャレだし。……というかRTAってなんだ?
「みんなと仲良くやってけたらいいな! 特に織部くんとは男二人の運命共同体だし! あ、いまやってるゲームとかある?」
自己紹介で個人に話題を振るな。
「えっと……あんまりやらないから夏澄くんのオススメを聞けると嬉しいかな」
「マジ!? スライムクエストとかファーストファンタジーとかの王道RPGシリーズものもやってない!?」
「名前は聞いたことあるかも」
「めっっちゃもったいないよ! うわぁ、どれからやってもらおうかな。スラクエはやっぱ5が鉄板だけど、俺の推しは8! でも最新作からのほうがプレイ感いいかな? ファスファンも悩まし」
「サーティーン。ファスファンは13やって」
夏澄くんのマシンガントークに入り込んできたのは田中さん。彼女もゲームとかするのか……。それに食いつきっぷりから察するに結構好きなタイプ……? ちらりと九条さんを見やれば、ほぁーっと二人を見ていた。よかった、多分九条さんはこっち側だ。
「確かに13なら入りやすいかも! サンキュ!」
「うん。絶ッ対に、13」
「じゃ、織部くんには俺のオススメと田中さんのオススメをまとめて布教すんね!」
ね! といい笑顔を向けられるが、押し切られる前に慌てて付け加える。
「ありがたいんだけど、僕の家にはゲーム機もなくて」
「大丈夫! それも込みで貸すって! 当たり前じゃん!」
「は?」
なんて?
「新作ソフトと一緒に本体の限定モデルとか出ると、つい買っちゃうんだよ。だから本体も余っててさー」
へへへ、じゃない。あっけに取られていると二条学長がその場を回してくれた。
「夏澄くんの話はどんどん盛り上がってしまいそうですからこのくらいにして。次は田中さんでいかがですか? ファスファン13面白いですよね」
サラリと学長もファスファンプレイヤーであることを挟んでくる。そろそろ驚くのもしんどくなってきたし、さすがの僕でも困惑するくらいに情報量が多い。
「じゃあ……」
そう言って田中さんが静かに立ち上がる。反対に夏澄くんは席についた。
「田中スミレです。スミレって呼んでください。今後は田中さんって言われても応えません。商学部マーケティング学科、二年生。趣味はいろいろ。人並みに本読んだり、ゲームしてみたり、料理したり、服屋巡ったり。普通です。髪は染めてるし、瞳もカラコン。純正の日本人だけど、田中って呼ばないでください」
カラコン……? 言われてみれば、田中さんの瞳は薄紫色をしている。まじまじと見ていると目が合った。バッと勢いよく視線を外される。
「以上です。特に言うこともないしこのあたりで……あ、三年間よろしく」
そう言って席につく。となると、次は僕か九条さんなわけで。
「あっ、じゃあ次は私が!」
アンカーは嫌だなと思っていたら先手をとられてしまった。二条学長を見やれば九条さんに向けて小さく頷いているので、この順番でいくらしい。
「九条露です。文学部西洋文学科の二年生です。顔合わせで緊張していました。けど……夏澄くんは面白いし、スミレちゃんはかわいいし、織部くんはきっといいひとだし、安心しました。私の好きなものは本です。とりわけ海外の童話やファンタジー小説が好きです。だから、西洋文学科なんですけど」
にへらと彼女は照れ笑いを浮かべる――ところで見目通りの穏やかな話口調に流されそうになってしまったけど、きっといいひとってなんだ。
「逆にその他の分野については人並みなので、色々教えていただけると嬉しいです。ゼミでの活動がとてもとても楽しみです。よろしくお願いしますね」
ぺこり。小さくお辞儀をして席につく。最初の夏澄くんが騒がしかっただけで、女子二人は簡潔に自己紹介を進めてくれた。ハードルが下がって助かる。
どう考えても次は僕なので、指名される前に椅子から立ち上がった。第一印象は九割が容姿だというけど、第二印象は話し型や表情だ。失敗するわけにはいかない。でも、僕にとって失敗しようがない問題だ。一人ひとりの顔を見てから、息を吸って話しはじめる。
「織部真央、文学部日本文学科二年生です。呼び方はお好きにどうぞ。趣味は読書くらいしか思いつかないので、なにか新しい趣味になるきっかけを探しています。夏澄くんオススメのゲームもそうだし、よければ九条さんのオススメの本も教えてほしいな、と。最後になりますが、さっきは皆の貴重な時間をもらってすみませんでした。たな……スミレさんもボールペンありがとう。改めて、よろしくお願いします!」
余計なことは言わず、最善の発言をするだけ。加えて、今後の話のきっかけも入れることができればいい。それだけでいい。でもクラスメイトの女の子ですら名前で呼んでこなかった身としては、今日会った女の子を名前で呼ぶのは少し緊張する。スミレさん、スミレさん。田中さんはスミレさん……。
「みんな、ありがとう。新設のゼミということで不安もあるかもしれませんが、三年間よく学び、よく笑ってくれると嬉しいです。かくいう私も少し緊張しているというのは内緒ですよ」
ぱちん、と控えめにウインクをする二条学長。本当にいったいいくつなんだろう……。
「では、本ゼミの活動方針、研究内容、今月のスケジュール及び年間スケジュールを説明していこうと思います。事前に配布している資料があれば手元にお願いしますね。織部くん、先ほど渡した資料がそれですよ」
言われて、封筒の中身をひとまず全て取り出す。丁寧にホッチキスで冊子にされた資料の表紙には【極秘】【機密】と物々しい朱い判が押され〈新設ゼミについて〉と簡単に題がつけられていた。




