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異世界ゼミの主人公諸君  作者: 福緒唯
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ぼくらの異世界[10]

【ケース2 田中スミレ】


「おはよ」


「おはよう……」


 朝九時。今日は休日。なのに一限が始まる時間にバス停前に呼び出された。

 昨晩連絡をもらったときは(まあいいかぁ)なんて思っていたけど、実際に起きて外にでると(いやなんで)という気持ちになるものだ。


 呼び出し主は無地の黒いパーカーに迷彩柄の……なんていうんだっけ。配管工のおじさんが着ているような……。


「スミレさん、その迷彩の服ってなんて呼び方するんだっけ」


「は? サロペットだけど」


 そうだ、サロペット! そして、いつもはふんわりとウェーブしている明るい髪は黒いキャップで押さえられている。ちなみにキャップにはAという文字が刺繍されている。おしゃれだ。


「んじゃ、行くわよ」


「どこ!?」


 くるりと踵を返してスミレさんは歩いていく。慌てて追いかけながら、朝陽を反射してキラキラ光る髪が綺麗だなと思った……なんでこの時間に呼び出されたのかは全然分からないけど。


 花屋、ドラッグストア、ホームセンター、百円ショップ、もう一度花屋……梅乃杜大学前の商店街を右に左にと移動する。特に花屋ではしっかり店員さんと話していた。仲も良さそうだったし、行きつけのお店(?)だったりするんだろうか。


 もうすぐ時計の針がぴったり真上を向いて重なろうかという頃、ようやく買い物が終わった。結構な大荷物になったので、さしずめ荷物持ち要員として呼ばれたんだろう。


「こんなものかな。よし、ゼミ室行くわよ!」


「ちょ、ちょちょまって」


 今から学校に行くの!?!?!??


「なによ、だらしないわね」


 はぁーーと大きく溜息をつかれる。溜息をつきたいのはこっちだ……。けど断る度胸もないので、僕は両腕で大量の花を抱えて歩くスミレさんの斜め後ろを歩く。


 梅並木に響くヒールの音はなんだか歌っているようなリズムだった。




 ゼミ室に到着すると、スミレさんはスマホの画面で時間を確認して「ぴったり」と呟いた後、部屋から出ていった。僕は大量の荷物を床に置いて壁を背にへたりと座り込む。

 そして、自分のトートバッグのなかにスミレさんが買い物しているあいだに購入したペットボトルの水があったことを思い出し、一口飲んだ。生き返る……。

 水を半分ほど飲んだところで「ただいまー」とスミレさんが帰ってきた。僕は思わずぎょっとする。スミレさんは自分の顔が隠れそうなほどの大きさの段ボールを大事に抱えていたからだ。思わず立ちあがって近づく。


「こういうものこそ僕の出番でしょ」


「え……」


 目を瞬かせるスミレさんから段ボールを受け取り、カウンターテーブルのそばに持っていく。思ったより軽かったし時間的にもすぐだったけど、前が見えないほどの大きさのものを運ぶのは危ない。入口でぼうっと立ち尽くしていたスミレさんに「開けていいの?」と聞く。


「……! まって! まってまだ!」


 あわあわとショートブーツを脱いで丁寧に靴を並べる。そして、スミレさんは深呼吸をしてから、おもむろにバッグから割烹着を取り出した。初めて見る生割烹着に思わず感動する。


「割烹着って実在するんだ……」


「いや、するでしょ。なに言ってんの」


 じとりとした視線を僕に向けながらも、器用に髪の毛を一つにまとめる。そして買い物袋のひとつからなにかを取り出して「はい」と僕に向けてぽいっと放り投げた。


「わっ、もう……投げなくても……」


 手にしたそれはエプロン(でかでかと袋に百円の文字が入っている)だった。


「ねえ、織部」


 スミレさんはニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべながら、両手を腰に当ててわざとらしく話はじめた。


「私は色んな作品を貸したけど、分かりやすい共通点があったでしょ? なんだと思う?」


間髪入れずに解答する。


「悪役令嬢、領地再興、ハッピーエンド」


「んーーーー、まあまあね。及第点」


 おお、及第点。僕の異世界レベルはちゃんとあがっているらしい。自分の成長に驚く僕のことはいざ知らず、スミレさんはその場で一回転した。ぴたりと止まったあと、反動で揺れるポニーテールをさらに揺らすように首をかしげて「フフン」と高飛車感たっぷりに笑う。


「私の研究方針は……領地再興」


 ――読めたぞ。


「つまり今から特産品を作るわ!」


 ビシィッと効果音がつきそうな勢いで人差し指を立ててポーズを決める。これが割烹着ではなくレースがたっぷりついたドレスなら完璧に悪役令嬢作品の挿絵を再現できていた。割烹着ではなければ、だ。


 上機嫌なスミレさんはレジ袋からブルーシートを取り出す。


「手始めに時間のかかりそうな精油作り、その後に石鹸の試作、時間があれば化粧水。異世界悪役令嬢もの三種の神器を作るわよ!!!」


「ちょ、ちょっとまってぜんぶ!? きょう!?」


「うん」


 ブルーシートの包装をベリベリと開封しながら本日の計画の全貌を明かしてくれた。めちゃくちゃ楽しそうにブルーシートを広げ始めている。


「僕に拒否権は?」


「ないわよ。当たり前でしょ?」


 僕は思わず崩れ落ちた。ああ……王道悪役令嬢ムーブ……。


「項垂れてないで手伝って。まずは精油よ」


 かくして僕の貴重な休日は、悪役令嬢スミレさん(割烹着)の実験に付き合うこととなった。


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