ぼくらの異世界[4]
チーーン、と真面目に到着を告げるベルの音が鳴って、エレベーターのドアが開く。促されるように八号館の六階に足を踏みだした僕はゼミ室のほうへつま先を向ける。
歩きながら、ハチロク・ファミリアと呼ばれる所以は絶対にサグラダファミリアだろうけど、ゼミ室は完成しているからハチロク・ファミリアでもなんでもないんじゃ? と思う。でも僕ら以外は完成していることを知らないからハチロク・ファミリアでいいのか? とも思う。いやでもそういえばサグラダファミリアは一旦完成したってニュースでやってたな……ん? じゃあ結局どうなるんだ? と、僕はゼミ室の前に着くまで延々とハチロク・ファミリアについて考えていた……理由は明快。めちゃくちゃ緊張していたからだ。
合宿ぶりのゼミ室。今日は僕の研究テーマを話すことになるだろう。ちゃんと考えてきたし、自信もある。普通の講義ならこんなことで緊張したりしない。けど、今の僕はめちゃくちゃに緊張している。冴夕にはさらっと「今日のゼミで提案するつもり」なんて言ったけど、どの口が言ったんだってレベルだ。
理由は分かってる。
みんなに僕の好きを受け入れてもらえるかどうかだ。
言葉にしたら子供っぽくて恥ずかしささえ感じる。でも、今の僕にとっては何よりも大きな理由だった。九条さんに問いかけられて、やっと気づけた僕にとっての大事なきっかけ。僕より周りのほうが僕の気持ちに気づいていたっていうのも相まって、僕の心臓はバックバクだ。
僕の好きと異世界を掛け合わせた研究テーマ。今日で固まるとは思ってないけど、でも、好感触であってくれと思う。異世界についてはまだまだ不勉強で、異世界を愛する彼らからすればまだまだひよっこかもしれないけど、好きにまっすぐ向き合うみんなとこの場所で頑張りたいと思ったんだだから――
「邪魔」
「わあああああああああああ!!?!??!」
「え、うるさ……」
口から心臓が出たかと思った。
「ス、ススミレさん……」
「私はそんな煤まみれみたいな名前じゃない」
シンデレラみたいだねなんて考えていたら、彼女にキッと睨まれる。
「シンデレラじゃないから。てか、はやく入んなさいよ」
――口に出ていたらしい。
僕はさっきまでの緊張はどこへやら、ドアノブに手を伸ばす。でも、ずっとああしてうだうだしているわけにもいかなかったし、スミレさんがきてくれてよかった。
ガチャリ、と扉を開けて室内に入る。どうやら僕らが一番乗りらしい。脱いだ靴を揃えようと振り返ったとき、僕を急かした張本人がその場から動かずなにやら真剣な表情を浮かべていることに気づく。
「スミレさん?」
「…………シンデレラの姉だけど妹を溺愛していたら隣国の王子に求婚されましたって設定アリじゃない……?」
――そうだね、お飾りの王太子妃にならないためにもシンデレラを溺愛しているあいだに有益なスキルを身に着けられるといいんじゃないかな……。




