異世界ゼミ[1]
ピピピピ ピピ ピピピピ
寝る前にアラームをセットしたスマートフォンが朝を告げる。軽く画面に触れて時間を確認すれば七時三十分。今日も一回目のアラームで起きれたことに軽い満足感を得つつ、のそりのそりとベッドから這い出た。窓から差し込む陽射しは柔らかな春のそれで、寝不足気味の瞳にも心なしか優しく感じる。
大学生になって二度目の春。僕・織部真央は欠伸を噛み殺しながらキッチンに向かい、電気ケトルでお湯を沸かしてインスタントコーヒーを淹れる。
「あ」
コツン、とティースプーンが瓶の底に触れた。今日の帰りにでも詰め替えパックを買わなければ……。一人暮らしはこういう時に少しめんどくさいのだと、一年間で嫌というほど思い知っていた。
ダイニングテーブルに広げていた教材をズイっと動かし、マグカップを置く。その際、目に入った資料に自然とため息が漏れた。手に取って再度目を通す。
「『ゼミ選考の結果、残念ながら希望されたゼミを受け付けることができませんでした』」
なんのことはない。第一希望のゼミに受からなかった。それだけだ――それだけというには、悔しすぎるのが本音だけど。
「なんのためにこんな辺鄙な場所で一人暮らししてるんだか……」
第一希望のゼミに入るために受験してきたようなものだ。それなのに、叶わなかった。僕の目標はこのぺらぺらの紙だけで終わり。おつかれさまでした。物心ついたときから続けてきた努力はいつだって結果を連れてきた。初めての挫折なんていえばかっこいいけど、こっちとしてはたまったものじゃない。加えて……。
「『今年度新設ゼミのご案内』だもんな」
希望のゼミを受け付けることは叶わなかったが、一年次での成績を評価して是非とも新設のゼミを受講してほしいという旨が添えられていた。ありがたいようでいて、もやもやとした気持ちは残るのというのが正直なところだ。思わず、少し伸びた前髪をくしゃりと潰す。
第二・第三希望を空白で提出したからかもしれないけど、この新設のゼミの案内書にはゼミの内容も担当教諭も明記されていないのだ。教務課の印が押してあるとはいえ、不安が募る。
「まぁ、ゼミに入ってもなんだかんだ結局一人で研究を進めることになるだろうし……いっか」
諦めの気持ちを無理矢理前向きに修正して、コーヒーを喉に流し込む。時計を見れば八時を過ぎたところだった。
問題のゼミの顔合わせは二限――開始時刻は十時四十五分。
大学までは歩いて二十分なので、十時に家を出ても間に合う。
僕は再びキッチンに立ち、コーヒーを淹れる準備をする。カツン、カツン、とスプーンが瓶底に触れる空虚な音が部屋に響いた。




