おとなりの異世界[3]
小さく金具が軋む音がして、その扉は開いた。
僕はしゃがみこんで――頬を床にくっつける勢いで扉の奥を覗き込む。
「暗い……」
扉の奥は真っ暗だった。けど、そうだ……小学校の頃に読んだ洋服箪笥の中から始まる冒険の話もそんなかんじじゃなかったっけ。
不法侵入だと頭の中で警鐘が鳴っている。引き返すなら今しかない。
――でも、もしかしたら?
僕はゆっくりと扉に頭をくぐらせた。次に体を滑り込ませて、暗闇のなかで手探りする。右半身は壁、左半身はややゆとりがあるように思う。すると手のひらが前方でコツンとなにかにあたった。試しに力を入れて押してみると思ったよりもあっけなく開いた。
瞬間、目に飛び込んできた光景に僕は唖然とする。
視界いっぱいに広がるのは本。本としか言いようがなかった。数えきれないほどの本が天井まである本棚にズラリと並んでいる。床にも本の山ができている。ハードカバー、新書、文庫、大型本……ありとあらゆる本がこの場所に並び、積まれている。異様な光景だった。
窓から差し込む月光が数多の背表紙を照らしている。僕は一歩、足を踏み出した。
「異世界……?」
非現実的な本の量を前に、非現実的な言葉を重ねた。夢だと言われたほうがしっくりくる。でも、紙の本独特の香りが充満するこの部屋は夢ではないのだと証明している。
……だから僕は失念していた。ここが誰かの住居であるという可能性を。
カタリ、と音がして振り向く。
「おりべ、くん?」
そこには、どう考えてもこの部屋の住人であろう人物――九条さんがそこにいた。




