How To 異世界[7]
がっしゅく……合宿。え、合宿!?
僕は驚いた。はじまって二日目のゼミでまさか合宿という言葉を聞くとは思ってなかったからだ。
「俺、さっきのミーティングで受けたアドバイスをすぐに振り返りたいんです。でも、俺一人の視点じゃなくて、いろんな話が聞きたくて。みんながよければ一緒にいろんな作品を見て感想を聞きたい!」
まだお互いのことも全然知らないのに、合宿なんて想像がつかない。方向性の違いで解散とかになりかねない気もしたけど、僕にとっても悪い話じゃないかもしれないなと思った。互いを知らないからこそ、まっすぐな感想が飛び交うかもしれない。
「僕からもお願いしたいです。ひとりで向き合う時間も大事かもしれませんが、そのために知識を増やしたいです」
学長はしばらく黙っていた。けど、心なしか楽しそうに口を開く。
「やる気があるのはいいことです。ですが、さすがに雑魚寝となるとスミレくんと九条くんは日帰りですね。それでも大丈夫ですか?」
「私は大丈夫です。あ、でも明日は参加できません……!」
「アタシもヘーキ。明日も昼前からなら来れると思う」
九条さんとスミレさんの参加も決定。なんというか、みんな向上心がある。変なところはあるけどさすが梅乃杜大学の生徒ということだろうか。
「では許可します」
腕でまるを描く二条学長。普段はスマートを絵に描いたような人なのに、たまに出るこういうおちゃめなところにびっくりする。
「やったぜ! えっと、今が十二時前だから……十四時目途にゼミ室集合で! それぞれこのメンバーで見たい作品を持って集合な! オレと織部くんは着替えも!」
僕はその言葉に嫌な予感がした。
「……夏澄くん。ひとつ聞きたいんだけど、夏澄くんも家からなにか持ってくる……?」
「当たり前だろ! みんなで見たいやつがあるのも本当だし、織部くんに見てもらいたい作品なんてもっとあるよ! だから、ついでに新しく持ってくるな!」
ひゅっと口から声にならない声が漏れる。
僕は入り口のそばに置かれたアタッシュケースとキャリーケースに目を向けた。移動する際に九条さんが持てるか試そうとして持ち上がらなかったほど重量級な二つの鈍器。
え? あれよりさらに?
けど、子供みたいに笑う夏澄くんにもういいよなんて言えなくて。
「あ、は、ははは。うれしい……たすかるよ……」
僕は顔を引きつらせながら、感謝の言葉を述べることになった。
◇
たかが片道二十分、されど片道二十分。
鉄がつまっているんじゃないかと思うほどの重さを持つアタッシュケースと、さらに思いキャリーケースを運んだ時点で、ただでさえ徹夜明けで底這いだった僕の体力は底を尽きた。
五分ほど玄関で意識を飛ばしてしまったけど、泊まりで必要そうなものをトートバッグに詰め込んで家を出る。
けど、僕は知らなかったんだ。
本当の地獄はここからだってことを。
十四時、ゼミ室に再び集まった。
そこから二十時までぶっ続けで作品を鑑賞し(どの作品から見るべきかで一瞬もめたが、明日参加できない九条さんの推薦作品からということで話がまとまった)、大学の敷地内にあるコンビニへ夕飯を買いに行く。
四人で夕飯を食べながら、観賞作品の感想を語り合っていると時計の針は二十二時を指そうとしていた。語り足りないと不満を述べる女性陣に帰宅を促し、ようやく一息つけるかと思ったのも束の間「俺のターン!」とガッツポーズを決めた夏澄くんのオススメ作品を鑑賞すること六時間。全十二話のアニメーションを見終わったときには朝四時だった。
――気づいてもらえたかな、僕の活動時間は昨日から数えて四十八時間に王手ということだ。
夏澄くんがシャワーを浴びている二十分の間だけ意識を飛ばし、フラフラの体でシャワーを浴びる。目が開いているのかも怪しかったけど、夏澄くんが本当に楽しそうにアニメを見ている横顔が脳裏に何度も思い出された。僕の反応ひとつひとつに反応して、疑問もすべて答えてくれる。「こうやって見てると、異世界って意外と近くにあるのかもって思わないか?」と、彼がオススメするシリーズの最終話で目を輝かせながら、内緒話をするように僕に告げた。その姿は宝の地図を見つけた子供のように無邪気だった。
シャワーを浴び終えて和室に戻れば、夏澄くんがなにやら真剣にノートと向かい合っていた。けど、僕に気づくと「じゃ、次はこれにしよーぜ!」と新しいパッケージを見せてくれる。もうここまで来たら付き合うしかないと観念した僕は一緒にアニメを見始めた。
朝陽が差し、ゼミ室の扉が再び開くまで、ずっと……僕は異世界に触れていた。
「ハァ?! 寝てないの!? 二人そろってバカじゃん!!!! アタシが大バカの相手しとくから、織部は三時間くらい寝な……」
というスミレさん(女神に見えた)の言葉のおかげで、僕の活動時間の記録は五十二時間でフィニッシュを迎えた。




