How To 異世界[6]
学長に連れられて僕らがやってきたのは八号館の六階――最上階だった。このフロアは永遠に改装中扱いで、通称「ハチロク・ファミリア」と呼ばれているはずだ。
エレベーターホールから向かって左に伸びる通路を道なりに進む。(ちなみに右に進むと九号館との連絡通路があるらしい)すると、白い壁と大きな窓で作られた廊下の真ん中に一つの扉があった。真っ白で、まるで御伽噺のようにメルヘンな意匠の扉だ。突き当りにはなにもなく、ただ廊下と窓と壁と扉があるだけ。こんな設計は大学内で初めて見た。
扉の前に立った二条学長が鍵を開ける。そしてドアノブに手をかけた。
ガチャリ
「ここが二条・異世界ゼミのゼミ室です」
二条学長、九条さん、スミレさん、夏澄くん、そして僕の順番で扉をくぐる。
そこは、どう見ても1DKの部屋だった。
「もともと、私のプライベートルームだったのです。お恥ずかしながら学長に就任したての頃は仕事を抱えすぎて家に帰ることもままならず用意させていただきました……。しかしこうしてゼミを持ち、ゼミ室をどこに構えるのかという段階でこの場所を思い出しました。もちろん清掃済ですのでご安心を」
二条学長の声が遠くに感じる。でもきっとみんなそうだ。
モデルルームだと言われても納得するほど綺麗な部屋に、僕らの目は釘付けになっていた。
室内に入って真っ先に見えたのは青空。大きな窓の向こうにはバルコニーも見える。広々とした部屋は半分がフローリング、もう半分が十センチほどの小上がりに琉球畳が敷かれた和室になっていた。向かって左手=フローリングのほうにはカウンターキッチンとハイチェアが四脚。右手=和室には壁に大きなスクリーンがかけられ、円形のローテーブルと大小さまざまなクッションが置かれている。
おそらく玄関的な役割を果たしている白いタイル貼りの入り口(ここだけで一畳はある)で靴を脱いで、部屋に足を踏み入れた。
「うわっ、システムキッチン!? 冷蔵庫もでっか……」
「すぅーーーーーっ、はぁ。新しい畳の匂いです。素敵。心がしゃんとします」
「すっげー! シャワールームに独立洗面台だ! 家じゃん!!!!」
思い思いに探索するメンバーの声を背に、僕は窓際へ向かう。
梅乃杜大学は山を切り開いて校舎を建設している。そのなかでも八号館は一番高い場所に建てられており、そのうえこのフロアは最上階だ。木々と空の青さがあまりにも眩しくて、目を奪われた。
「ひさかたの……か」
ぽつりとつぶやく。先に頭をかすめたのは藤原家隆の句だが、元歌を詠んだ紀友則が見た春の空はこんなにも青かったのだろうか。
「いかがですか? 気に入っていただけましたでしょうか」
思考を止め、振り返る。みんなもそれとなく部屋の中央に集まっていた。
「最ッ高ですよ!!!!!!!!!!」
「あの……! 空いている棚には本を持ち込んでもいいんですか?」
和室側、窓ガラスの対面の壁にはずらりと空っぽの背の高い棚が並んでいた。九条さんはそちらに視線をやりながら、うずうずとした空気を垂れ流している。
「ええ、もちろん。是非皆さん色の棚にしてください」
ぱぁっと九条さんが笑顔になる。本当に本が好きなんだな。
「じゃあさ、みんなでオススメの本を持ち寄って各々自由に手に取れてもいいよな。本以外にも映像とか!」
「わぁ、図書室みたいですね!」
「な! 楽しそうだ!」
きゃっきゃと盛り上がる夏澄くんと九条さん。そして、九条さんが隣に並ぶスミレさんに問いかける。
「スミレちゃんはいかがですか?」
「……九条さんのオススメ気になるから楽しみにしてる」
「ふふ、うれしい。いっぱい持ち寄りましょうね」
案外、この二人は仲良くなりそうだなと思う。正反対のようで、実は近いような。
そういえば僕も冴夕とふたりでお願いして、お互いの家の玄関にオススメの本を並べる棚を父さんに作ってもらったっけ。
「申請さえしてくだされば、簡単な合宿も可能だと思いますよ。さすがに寝具の用意はできていないですが、希望があれば布団などを準備しておきます」
二条学長の言葉を受けて夏澄くんの目がキラリと輝く。
「じゃあ、雑魚寝でいいので今日と明日で合宿ってできますか!?」




