世界の果ての扉
氷原の決戦を終え、林帆とヨルはさらに北へ歩き続けた。
空は完全に青さを取り戻し、太陽の光は温かい。風も穏やかで、まるで春の訪れのよう。しかし、足元の氷はまだ厚く、冬の名残を感じさせる。
「カインはきっと、この大陸を立て直してくれるだろう」
林帆が呟くと、ヨルはうなずいた。
「うん。私たちも、次へ行こう」
半日歩いたとき、視界の先に何かが見えた。氷の壁。高さは数十メートル。どこまでも続いているように見える。しかし、その中央にぽっかりと穴が開いていた。人工的な門の形。
「ここが…世界の果てか」
近づくと、門の表面には無数の文字。星の力、マナ、根源の力、三力――すべての文字が混ざり合い、一つの文章を形作っている。
『ここを越える者は、全ての力を捨てよ。新たな世界は、無から始まる』
「全ての力を捨てる…」
林帆は自分の手を見た。右手の星紋章、背中の剣、杖、宝玉。これまで集めてきた全ての力。
「どうする?」
老怪が問う。
「捨てるわけにはいかない。でも、この門を通らなければ、次へ進めない」
彼はしばらく考えた後、剣を地面に突き刺した。
「一旦、預ける。必ず戻って取りに来る」
剣は光を放ち、地面に固定された。杖も宝玉も、剣の側に置く。
残るは右手の紋章だけ。これは彼の一部。捨てられない。
「行こう」
林帆はヨルの手を引き、門をくぐった。
体が軽くなる。今まで感じたどの瞬間転移よりも、優しい浮遊感。
気づくと、彼らは見知らぬ草原に立っていた。
空には一つだけの太陽。しかし、その光は優しく、花の香りがする。遠くには小さな町。煙突から煙が立ち昇る。
「ここは…」
「あなたの力は、ほとんど使えなくなっている」
老怪の声が響く。確かに、体内の三力循環は遅くなり、マナも感じにくい。
しかし、右手の紋章だけはかすかに輝いている。
「新しい世界では、新しいルールで生きろ。それが、ここでの掟だ」
林帆は拳を握りしめた。力はない。でも、経験と知識はある。
「行こう、ヨル」
「うん」
二人は町へ向かって歩き出した。
門の向こうで、剣と杖と宝玉が静かに待っている。
いつかまた、取りに戻る日まで。
旅はまだ終わらない。




