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氷原の決戦

砂漠を出てから五日。


北へ向かう道は徐々に冷たくなり、足元には再び氷が現れた。しかし前回の氷の山脈よりもさらに過酷で、風は骨の髄まで冷える。


「最後の歪みは、この先だ」


林帆は杖を地面に突き、強風に耐えながら進む。ヨルは彼の背中に隠れるようにしてついてきた。


視界の先に、黒い塔が見えた。氷原にぽつんと立つ、石造りの塔。周囲には何もない。塔の頂上からは黒い靄が立ち昇っている。


「ここか…」


近づくと、塔の前にあの黒いローブの男が立っていた。若く、鋭い目つき。手には長剣。


「よく来た。私は最後の守護者、カイン」


「歪みの核を壊しに来た」


「やれるものなら、やってみろ」


カインが長剣を抜く。刃は黒く、周囲の光を吸収するように鈍い輝き。


林帆も三力の剣を抜いた。白い光と黒い光が対峙する。


「来い」


カインが踏み込む。速い。一瞬で間合いを詰め、袈裟懸けに一閃。


林帆は剣で受け止める。ガンッという鋭い金属音。火花が散る。


「なかなか」


「まだまだ」


両者は何度も刃を交える。白い光と黒い光が氷原に飛び散る。


カインの剣術は正確で無駄がない。しかし林帆もこれまでの戦いで培った経験がある。互角。


「あなたはなぜここを守る?」


「使命だから。それだけだ」


「歪みが大陸を滅ぼしてもか?」


「私は自分の守るべきものだけを守る」


カインの目に一瞬の迷い。林帆はそれを見逃さなかった。


「それならば、無理に戦う必要はない」


彼は剣を下ろした。


「話をしよう」


カインは驚いたように眉をひそめた。


「何の話だ?」


「あなたが守っているものの本当の意味について」


林帆はこれまでの旅で見たもの、感じたことを語った。廃墟の街で出会った男、助けを求めた村人たち、戦いの中で消えていった守護者たち。


「みんな、ただ生きたいだけだ。そのために歪みは消えなければならない」


カインは長い間黙っていた。そして、ゆっくりと剣を収めた。


「…あなたの言う通りかもしれない。私もかつては、この大陸を救うために戦っていた。しかし、いつしか使命だけが先行していた」


「共にやろう。歪みを壊すのを」


カインはうなずき、塔の扉を開けた。


中には螺旋階段。最上階に辿り着くと、そこには巨大な歪みの核。これまで見た中で最大。脈動し、周囲のマナを貪るように吸い込んでいる。


「これを壊せば、全て終わる」


カインが長剣を構える。林帆も剣を掲げた。


「一斉にやるぞ」


二人の剣が同時に核を貫いた。白い光と黒い光が混ざり合い、虹色の光となって核の中を駆け巡る。


ばりん。


核が砕け散る。同時に、塔の外から光が差し込んだ。


外に出ると、空は完全に青さを取り戻していた。太陽は温かく、氷原に春の訪れを予感させる。


「終わった…」


カインが剣を収め、林帆に向かって頭を下げた。


「ありがとう。あなたのおかげで、思い出せた」


「これからどうする?」


「この大陸の復興に力を尽くす。あなたもどこかへ行くのか?」


「ああ。まだ見ぬ世界を旅する」


カインは微笑み、手を差し出した。


「いつかまた会おう」


林帆はその手を握り返した。


「ああ。その時は、もっと強い自分で」


彼はヨルと共に、北の彼方へ歩き出した。


空は青く、風は優しい。


新しい旅の始まりを告げるように、一羽の鳥が頭上を飛んでいった。

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