砂の竜
森を出てから三日。西へ向かう道は次第に緑を失い、足元は砂に変わっていた。
風が強い。砂粒が顔に当たり、痛い。林帆は杖で風を防ぎながら進む。ヨルは月の護符を握りしめ、光で砂を払う。
「見えてきた」
視界の先に、砂漠が広がっている。エンドレスな砂の海。その中央に、黒い渦が巻いている。歪みの核の影響だろう。
「あそこか」
歩き出すこと一時間。突然、足元の砂が動き出した。
「何だ?」
砂の中から巨大な影。体長は二十メートルはあろうか。砂でできた竜。目は赤く輝き、全身から黒い靄。
「砂の竜…」
竜が咆哮を上げ、砂の嵐を巻き起こす。林帆はヨルを背にかばい、剣を抜いた。
「下がっていろ!」
彼は単身、竜に向かって走り出した。竜が前足を振り下ろす。林帆は横に跳び、かわす。砂煙が舞う。
「そこだ!」
剣を竜の足に斬りつける。白い光が砂を吹き飛ばすが、竜の体はすぐに再生する。
「再生するのか…」
「核を壊さなければ、何度でも復活する」
老怪の声。林帆は竜の体をよく見た。胸の辺りに、かすかに黒く輝く部分。核だ。
「あそこを狙え」
しかし、竜は核を守るように体を縮める。簡単には当てさせない。
竜が尻尾を振り回す。林帆は剣で受け止めるが、衝撃で何メートルも吹き飛ぶ。
「ちっ…」
その時、ヨルが月の護符を掲げ、光を放った。光が竜の目に当たり、竜が怯む。
「今だ!」
林帆は飛び上がり、竜の胸に剣を突き立てた。白い光が核を貫く。
「ギャアアア!」
竜が咆哮を上げ、砂となって崩れ去った。核は砕け、黒い靄と共に消える。
砂嵐が止み、静寂が戻る。
「終わった…?」
「ああ。これで三つ目だ」
林帆は剣を収め、ヨルのところへ戻る。
「ありがとう。また助けられた」
「お礼を言うなら、早く次に行こう」
彼女が笑う。
その時、砂漠の彼方から声が聞こえた。
「よくやった。しかし、まだ終わっていない」
振り返ると、黒いローブの男。門を守っていた者とは別人。もっと若く、目つきが鋭い。
「お前は?」
「最後の歪みの守護者。北の氷原で待っている。来るならば、命の保証はしない」
男はそれだけ言い残し、砂の中に消えた。
「北か…」
林帆は地図を見た。最後の歪みは、この大陸の最北端。氷の山脈のさらに向こう。
「行くぞ、ヨル」
「うん」
二人は北へ向かって歩き出した。
空の赤茶けた色は、かなり薄れていた。太陽の光もずっと温かい。
あと一つ。この大陸を救うために、最後の戦いが始まる。




