森の守護者
東の山を後にしてから二日。
林帆とヨルは南の森を目指して歩き続けた。道中、廃墟となった村や畑を何度も通り過ぎる。人の気配はなく、風だけが寂しげに吹いている。
「あの大戦で、こんなに多くの人が…」
ヨルが悲しそうに呟く。林帆は何も言えず、ただ黙って歩いた。
森の入り口に着いたとき、異様な空気を感じた。木々は枯れ、葉は黒ずみ、地面からはかすかな腐敗臭。
「ここが…歪みの核のある場所か」
中へ進むにつれ、マナの濃度が異常に高くなる。そして、木々の間からかすかな光が漏れている。
奥へ進むと、開けた場所に出た。そこには巨大な黒い木。高さは数十メートル。葉はなく、枝だけが不気味に広がっている。その根元に、歪みの核が埋まっていた。
「あれか…」
近づこうとしたその時、黒い木の根が動き出した。蛇のようにうねり、二人を取り囲む。
「侵入者め…」
低い声。木の幹に、顔のようなものが浮かび上がった。老人の顔。目は虚ろで、口だけが動く。
「私はこの森の守護者。お前たちのような人間は、もっと通さない」
「歪みの核を壊しに来た。このままでは大陸が滅びる」
「滅びればそれでいい。私は自分の領土さえ守れれば」
木の根が襲いかかる。林帆は三力の剣を抜き、白い光で斬り裂く。しかし、切っても切っても新しい根が生えてくる。
「キリがない…本体をやらねば」
彼は剣を構え直し、木の幹めがけて突進した。根をかわし、枝を払い、一気に間合いを詰める。
「そこだ!」
剣を木の幹に深々と突き刺す。白い光が木の中を駆け巡る。守護者の顔が歪む。
「があああ!」
木が大きく揺れ、根の動きが止まった。林帆は剣を引き抜き、さらに二撃、三撃と叩き込む。
ばきん。
幹にひび割れが入り、木はゆっくりと傾き始めた。その時、幹の中からかすかな声。
「ありがとう…ようやく…解放される」
守護者の顔が消え、木は崩れ去った。代わりに、小さな緑の芽が地面から顔を出す。
「これが…本当の姿だったのか」
林帆は歪みの核に近づき、剣で貫いた。核は砕け、黒い靄と共に消える。
森の中に新鮮な空気が流れ込む。枯れていた木々から、かすかに新しい芽が出始めている。
「これで二つ目だ」
外に出ると、空の色はさらに薄れ、わずかに青さが戻っていた。太陽の光も少し温かい。
「あと二つ…」
林帆はヨルを見た。彼女はうなずき、一緒に次の場所へ向かう準備を始めた。
その時、廃墟の街で助けた男が駆け寄ってきた。
「すごい! あなたが歪みを壊しているのが、遠くからでも分かった。もう少しでこの大陸は元に戻る」
「まだ途中だ。最後までやる」
「俺も手伝えることがあれば…」
「西の砂漠について何か知っているか?」
男は考え込んだ。
「砂漠の歪みは、特に危険だと言われている。そこには“砂の竜”が住んでいて、近づく者を全て飲み込むという」
「砂の竜…」
林帆は剣の柄を握りしめた。今の自分なら、どんな相手でも戦える気がする。
「ありがとう。気をつける」
彼はヨルと共に西へ向かって歩き出した。
空はまだ赤茶けているが、確実に元に戻りつつある。
この大陸を救うのは、自分たちしかいない。
そう信じて、彼らは歩き続けた。




