牙と泉と
黒狼の毛皮は三日間干して、ようやく固さが取れた。牙は四本。一番大きなものをナイフの柄に括り付け、残りは紐を通して首飾りにした。
「見た目だけは立派になったな」老怪がからかう。
林帆は無視して、牙の先端を石で研いだ。鈍い光を放つ、粗末ながらも確かな“武器”の完成だ。
その日、彼は再び森へ向かった。目的は二つ。水場の確保と、もう少し深い場所の偵察。
三十分ほど歩いたとき、耳慣れない音が聞こえた。かすかなせせらぎ。
「川か…」
倒木をくぐり、藪をかき分けると、そこには小川があった。幅は二メートルにも満たないが、水は澄んでいる。そして――
「この水…」林帆はしゃがみ込み、手を浸した。ひんやりとしているが、同時に微かな温もりを感じる。「何か入ってる?」
「霊気の薄い水だ。飲めるレベルじゃないが、体を洗えば血行が良くなる。傷の治りも少し早まるだろう」
彼はすぐに服を脱ぎ、川に身を沈めた。冷たいが、悪くない。むしろ、疲れが溶けていくようだ。
そのとき、川底に何か光るものを見つけた。小指の先ほどの、白い小石。
「これは…」
「“霊河石”の小片だ。宝玉のかけらよりずっと下級だが、お前には十分役に立つ。拾っておけ」
林帆は石を三つ拾い、布袋に入れた。これでまた少し、エネルギーを補給できる。
その夜、洞窟に戻った彼は初めて「水浴びの効果」を実感した。体の節々が軽い。そして、血脈の赤い線がほんの少しだけ、手首から肘の方へ伸びていた。
「進んでる…」
「ああ。ただし、この程度の変化は誤差だ。これから何年も、何十年も続けて、ようやくスタートラインに立てる」
林帆はうなずいた。そして牙のナイフを握りしめ、今日の感覚を何度も反芻した。
水の冷たさ。石の温もり。黒狼の最後のまなざし。
それらすべてが、自分を作っている。
明日はもう少し上流を探してみよう。もしかすると、また何かが見つかるかもしれない。
彼は目を閉じた。眠りの中でも、手は決して武器を離さなかった。




