古の跡
あれから十日。
林帆は毎日、小川で体を洗い、霊河石を拾い、黒狼の牙で小動物を狩るようになった。まだまだ粗削りだが、生きるのに必死さは少し減った。
その日の午後、彼はいつもの水場よりさらに上流へ歩を進めた。藪を分け、倒木を乗り越え、一時間ほど進んだとき、足元が突然平らになった。
そこには――石の土台が半分だけ残った、古い建物の跡があった。
「何だここ…」
柱の跡らしきものが四本。床には苔が生え、崩れた壁には見たこともない模様が刻まれている。
「これは…修行者の廃墟だ」老怪の声が緊張を帯びた。「しかも、それなりに古い。三界交鋒がまだ栄えていた時代のものかもしれん」
林帆は慎重に中に入った。天井は崩れ落ち、空が見えている。床の一部が陥没しており、下に小さな空間があるようだった。
「下りられるか?」
「ゆっくりな」
彼はロープ代わりに太いつるを結び、慎重に降りた。中は暗いが、湿気は少ない。
目が慣れてきたとき、壁に何かが引っかかっているのが見えた。
ぼろぼろの巻物。半分ほど燃えているが、まだ文字が読める。
「…これは」
『三力同源とは、霊・闘・血を一つの環と為すこと。然れども、凡骨には不可能。先ずは二力を以って礎と為せ…』
「同源の法だ!玉片と同じ系統のものか?」
老怪も興奮した口調で言う。「しかし、明らかに別の解釈だ。玉片は三力同時を説き、こっちは二力から始めろとある。どちらが正しいかは分からんが――お前の体には二力先行の方が合っているかもしれん」
林帆は巻物の残りを全て頭に叩き込んだ。燃えている部分で失われた行もあるが、全体の半分は理解できた。
さらに探すと、壊れた壺の中から数枚の硬貨のようなものが出てきた。完全に錆びてはいるが、霊気をほんの少し帯びている。
「古銭か。腐っているが、捨てるには惜しい」
収穫を布袋に詰め、彼は廃墟を後にする。洞窟に戻る道すがら、何度も巻物の内容を反芻した。
『二力を以って礎と為せ。一力だけでは脆く、三力は不安定。二力の循環こそが凡人最初の一歩なり』
「二力…私の場合、闘気と血脈が一番感じやすい。霊力は今のところ外部から取り入れるしかない」
老怪が助言する。「ならば、まずは闘気と血脈の二力を回せ。小さな円を描くように。それが安定したら、霊力を足す」
その夜、林帆は初めて「二力循環」を試みた。
左手の血脈から熱を起こし、胸の中心で闘気に変え、再び血脈へ戻す――
一周した。
最初は遅く、ぎこちない。しかし、三回目の夜明けには、半日で五周回せるようになった。
体が変わっていくのが分かった。肌が少し強くなり、傷の治りも早くなった。
「これなら…」
彼は拳を握った。力がみなぎる感じはまだない。しかし、確実に一歩、いや半歩だが前に進んだ気がした。
廃墟を見つけたことは、ただの偶然かもしれない。しかし林帆は思う――運もまた、実力のうちだと。




