二つの力の円環
廃墟から見つけた巻物の教えに従い、林帆は毎日、闘気と血脈の二力循環を繰り返した。
朝、目が覚めるとまず左手の甲の赤い線に意識を集中する。じわりと熱くなるのを感じたら、その熱を胸の中心へ導く。そこで熱を闘気に変換し、全身の筋肉へ散らす。そして再び余剰分を血脈へ戻す――
これで一周。
最初の三日間は、一周するのに半日かかった。五日目で一時間。七日目でついに、三十分で一周できるようになった。
「よし。ここまで来れば、そろそろ実戦で試せる」
老怪の言葉に、林帆はうなずいた。試しに、洞窟の壁に向かって拳を振り抜く。
バン!
今までより明らかに重い音。壁に拳大のひび割れが入った。
「すごい…」
「まだまだだ。これでやっと、普通の修行者の赤ちゃんレベルに追いついただけだ」
林帆は笑った。赤ちゃんレベルでも、ゼロよりは無限にましだ。
その日、彼は森へ向かった。目的は実戦訓練。相手は小さな魔獣で十分だ。
運よく、一匹の毒トカゲを見つけた。体長は三十センチほど。以前なら逃げていた相手だが、今は違う。
林帆は距離を詰め、トカゲが飛びかかってきた瞬間、左手で受ける構えをした。
ガリッ!
牙が腕に食い込むが、皮膚は破れていない。その間に右手のナイフでトカゲの首を断つ。
「勝った…」
初めての“完勝”。傷はかすり傷だけ。血もほとんど出ていない。
彼はトカゲの毒袋と皮を丁寧に剥ぎ取り、布袋に入れた。これも役に立つ。
その夜、洞窟に戻った彼は巻物の続きを読み返した。燃えていない部分はもう暗記している。しかし、その中に一節が引っかかっていた。
『二力循環を極めた者、初めて“霊視”を開く。血肉に宿る微かな霊気を見極め、外界の霊力を掴む力なり』
「霊視…?」
「知らんのか?上級の修行者は、目に見えない霊力の流れを視ることができる。お前も二力循環を続ければ、いずれその入口に立てるかもしれん」
林帆は目を閉じた。そして、循環を回しながら、自分の体内を“見よう”と試みた。
最初は真っ暗だった。しかし、三十分ほど経ったとき、かすかな青白い靄が見えた気がした。
「…見えた?いや、錯覚か?」
「焦るな。そういうものは、ある日突然はっきりと見えるようになるんだ」
彼は深く息を吸い、再び循環を回し始めた。
今夜は眠らずにやろう。どうせ興奮して眠れそうにない。
その決意とともに、彼の体内で二つの力が静かに、しかし確実に回り続けた。




