表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/112

奥へ、さらに奥へ

腐れ森の奥は、思った以上に静かだった。


林帆は足音を殺して、倒木の影から次の影へと移動する。左手には布に包んだ宝玉のかけら、右手には錆びたナイフ。装備はこれだけだ。


「変だな…生き物の気配が少ない」


老怪も同意した。「警戒しろ。強者が縄張りを持っている証拠だ」


三十分ほど進んだだろうか。突然、彼の足が止まった。


目の前に、巨大な獣の足跡があった。大人の頭ほどの大きさ。爪の跡もはっきりと残っている。


「これは…クマ?」


「違う。魔獣“岩背グマ”だ。お前が今まで見た狼の比ではない。一撃で粉々になるぞ」


林帆は足跡を避けて、大きく迂回した。しかし、その先には別の足跡。今度はもっと小さいが、無数に連なっている。


「狼の群れか…」


「あの灰色の連中とは別種だ。黒狼――より獰猛で、頭も良い」


彼は息を呑んだ。今の自分では、どちらにも勝てない。宝玉のかけらのエネルギーを全部使っても、おそらく一匹が限界だろう。


戻るべきか――


そのとき、風が運んできた。かすかに鉄錆びた匂い。血の匂いだ。


林帆は迷ったが、匂いの元へ向かった。倒木の向こう側。そこには、瀕死の黒狼が一匹、横たわっていた。


腹に深い傷。岩背グマにやられたらしい。息はあとわずか。


「これなら…」


彼はナイフを握りしめた。震える手を叱りつけ、ゆっくりと近づく。


黒狼は気づいたが、動けない。黄色い目が林帆をじっと見つめている。憎しみではなく、なぜか諦めにも似たまなざしだった。


「楽にしてやれ。それも慈悲だ」


老怪の声に、林帆は歯を食いしばった。


ナイフを振り下ろす。一度。二度。


黒狼は動かなくなった。


その場で彼は震えた。吐き気をこらえながら、何とか刃を拭った。


「立派だ。お前はやるべきことをやった」


林帆はうなずくことしかできなかった。そして、逃げるようにその場を離れた。


それでも――彼は黒狼の死体を無駄にしなかった。毛皮と牙をナイフで剥ぎ取り、森の端で干すことにした。これも生き残る術だと、自分に言い聞かせて。


その夜、洞窟に戻った彼は、初めて獣の肉を焼いて食べた。味はよくわからなかった。ただ、生きている実感だけがあった。


「これで少しは強くなれたかな…」


「強くなったのではない。生き残るための重さを、一つ背負っただけだ」


林帆はその言葉を胸に刻んだ。


そして明日もまた、森へ行こうと決めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ