砕けた星の欠片
宝玉のかけらを手に入れてから五日。
林帆は毎晩、布越しにその破片を観察し続けた。昼間はナイフの投げ稽古。夜は老怪の指導の下、微量の闘気をかけらに流し込む練習。
「ゆっくりでいい。水が砂に染み込むように、力を抜け」
言われた通りに、彼は指先からごく細い闘気の糸を放った。かけらに触れた瞬間、じわりと温かい感覚が伝わってくる。まるで、何かが共鳴しているかのようだった。
「よし、そのまま引き寄せてみろ。吸い込むように」
林帆は深呼吸をした。闘気の糸をゆっくりと戻す。すると、かけらの中から一筋の青白い光が、彼の指先へと流れ込んできた。
びりっ!
まるで静電気のような痺れが腕を駆け抜ける。だが痛みはない。むしろ、ほんの少しだけ体が軽くなった気がする。
「これが……霊力か?」
「ああ。ただし超微量だ。このかけら一個分のエネルギーを使い切っても、お前の水霊根が一回だけ潤う程度だろう」
それでも、林帆にとっては十分すぎる収穫だった。自分の体にはほとんどなかった霊力を、外部から補えるという事実。それが大きな希望となった。
その夜、彼は初めて「霊力→闘気」の変換を試みた。手順は逆。吸い込んだ青白い光を胸の中心で温め、それを全身の筋肉へ散らす。
じんわりと熱が広がる。疲れが少し取れた気がする。
「すごい……これなら、長時間の練習もできるかもしれない」
「慢心するな。まだ雀の涙ほどの量だ。しかし――確かに、お前は凡人を一歩抜け出した」
林帆はかけらを丁寧に布で包み直し、腰の布袋にしまった。その隣には、錆びたナイフ。
武装はまだ貧弱だが、昨日までの丸腰よりはましだ。
翌朝、彼は洞窟の外でナイフ投げの練習をした。的に向かって、五メートルの距離から。
最初の三投はすべて外れた。四投目でかすった。五投目――
カン!
かすかな金属音。的に刺さった。深くはないが、刺さった。
「よし」
彼はもう一振り、もう一振りと投げ続けた。命中率は三割にも満たない。しかし、それでも手応えは確かにあった。
午後、彼は小さな決心をした。腐れ森のさらに奥、これまで入ったことのない場所へ足を伸ばしてみよう。もしかすると、また何かが見つかるかもしれない。
「無茶はするなよ」老怪が釘を刺す。
「わかってます。少しだけですから」
林帆はナイフを握りしめ、薄暗い森の中へ歩き出した。足跡を残さないように、音を立てないように。
彼の背中はまだ小さく、頼りない。しかし、その目は昨日よりもほんの少しだけ、先を見ていた。




