残されたもの
あの惨劇から三日後、林帆は再び腐れ森の縁に立っていた。
足はまだ少し震えている。しかし、彼には確信があった――あの戦いの現場には、何かが残っているはずだ。強者たちが捨てていったもの、あるいは見落としたもの。
「危険を冒す価値はあると思うか?」老怪が問う。
「食べ物も薬草ももう底をつきました。このままじっとしているより、何か掴みたい」
彼は慎重に、あの爆発の跡地へ向かった。
木々はなぎ倒され、地面は黒く焦げていた。血の跡は雨で薄れているが、生々しい記憶を呼び覚ます。林帆は息を殺して、目を凝らした。
しばらく探して、彼は見つけた。
砕けた宝玉のかけら――あの黒い甲冑の男が持っていたものの一部らしい。親指ほどの大きさで、かすかに青白く光っている。
「触るな!」老怪の声が鋭かった。
林帆は手を引っ込めた。
「何ですか、これ?」
「“霊力貯蔵晶”の破片だ。それも上級品。お前のような未熟者が素手で触れば、中の残留エネルギーで指の一本や二本は軽く吹き飛ぶ」
「じゃあ、どうやって…」
「布で包め。それから、お前が練習しているあの微量な闘気で、そっと表面をなぞれ。同調すれば、あるいは安全に扱えるかもしれん」
林帆は震える手で、自分の服の裾を裂き、宝玉のかけらを包んだ。そして、人差し指からごく細い闘気を流す。
カッ…かすかに暖かな光が広がった。指は無事だ。
「よし。それを持って戻れ。運が良ければ、中のエネルギーをお前の循環に組み込めるかもしれない」
洞窟に戻る道すがら、林帆はもう一つ気づいた。戦場の隅に、捨てられた粗末なナイフ。刃こぼれしているが、まだ使えそうだ。
「これももらっておこう」
その夜、彼は初めて“武器”を手にした。
宝玉のかけらは、布に包まれたまま洞窟の奥に置いた。まだ触れる勇気はなかった。しかし、ナイフの柄を握りしめた感触が、妙に頼もしい。
「変わったな、お前」
老怪が言った。
「前のお前なら、恐怖で縮こまっていた。少なくとも、動けるようになった」
「動かなきゃ、死ぬだけですから」
林帆はナイフを振ってみた。風を切る音。たどたどしいが、素手よりはましだ。
「次は……これをどう使うか、ですね」
彼は的として、洞窟の壁に丸い印を彫った。ナイフを投げる練習もしよう。近づけなければ、飛ばせばいい。当たらなければ、何度も投げればいい。
凡人が生き残る術。それは、ただがむしゃらに続けること。
そして、少しだけ賢くなること。
その夜、彼は宝玉のかけらとナイフを枕元に置いて眠った。夢の中では、あの黒い甲冑の男が振り返って笑っていた。
「よく拾ったな」
林帆は目を覚ました。冷や汗でびっしょりだ。しかし、その手は確かにナイフを握っていた。
恐怖は消えない。だが、それと同時に「次は生き延びる」という執念も、しっかりと芽生えていた。




