帰還の道
神殿を出た林帆とヨルは、山を下り始めた。
来た道を戻るだけなので、登りよりは楽だった。しかし、疲れと冷気で足取りは重い。杖と書物が新たに加わり、背中の荷物はさらに増えた。
「少し休もう」
林帆は岩陰に腰を下ろし、杖を地面に立てた。杖がかすかに光り、周囲の冷気を和らげる。
「これは便利だね」
ヨルが杖に手をかざす。温かい。
その時、遠くから白い影が近づいてきた。雪猿たちだ。先頭の猿が手に何かを持っている。
近づくと、それは乾いた果物だった。猿は林帆に差し出す。
「くれるのか?」
猿はうなずき、他の猿も次々に果物を差し出した。
林帆は受け取り、ヨルと半分こした。
「ありがとう。助かった」
猿たちは嬉しそうに跳ね回り、先導して道を示してくれた。おかげで危険な場所を避け、順調に下りられた。
日が暮れる頃、ようやく山脈のふもとに到着した。猿たちはそこで別れ、森の中へ消えていった。
その夜、氷の荒野の端で野宿した。焚き火を囲みながら、林帆は神殿でもらった書物を開いた。
『根源の力――すべての始まりであり、終わり。これを使いこなす者は、世界の理を書き換えることができる』
「世界の理を書き換える…そんなことが可能なのか?」
「理論上はな。ただし、代償も大きい」
老怪が答える。
林帆はさらに読み進めた。書物には、根源の力の扱い方、他の力とのバランスの取り方、そして注意すべき禁忌が記されていた。
「これを全て習得するには、どれだけの時間がかかるだろう」
「気にするな。お前には時間がある」
翌朝、早くに出発した。氷の荒野を戻る道は、来た時よりずっと穏やかに感じられた。風も弱く、魔獣にも襲われない。
三日後、ようやく町の門が見えた。衛兵が手を振って迎える。
「おかえり! 町長が待っているぞ」
役場に向かうと、町長が安堵の表情を浮かべた。
「無事で何より。それで、何か見つかったのか?」
「ああ。これからは、この町のマナのバランスも安定するはずだ」
林帆は町長から借りた防寒具を返し、礼を言った。
「これで旅を続けられる」
「もう行くのか? しばらく休んでいけ」
「いや、時間が惜しい。やることがある」
町の人々が見送りに集まった。鉱山で助けた男、衛兵たち、宿の女将。
「気をつけて」
「また会おう」
林帆はヨルと共に、町を後にした。
次に向かうのは、地図に記された「星の海」の別の場所。そこには、さらに古い遺跡があるという。
「次の目的地は遠いのか?」
「ああ。でも、急ぐ必要はない。一歩ずつ行こう」
二人の影が、夕日に長く伸びる。
杖と書物、短剣に紋章。すべての力が、彼を次の場所へ導いている。
旅はまだまだ続く。
しかし、今は少しだけ、穏やかな気持ちで歩いていける気がした。




