黒い石の秘密
鉱山での出来事から三日。
林帆は毎日、町長から依頼された魔石の運搬をこなしていた。朝に坑道へ行き、採掘された魔石を町の倉庫まで運ぶ。単純な仕事だが、この世界のことを知るには十分だった。
その夜、宿の部屋で黒い石を調べていると、突然石が震え、かすかな光を放った。
「これは…」
『力を…もっと…』
声が聞こえた。以前、坑道で倒した塊と同じ声。
「まだ生きているのか?」
「いや、これは残留思念だ。完全に消えていないだけ」
老怪が説明する。
林帆は石を握りしめ、自分の力を注いだ。虹色の光が石を包む。しばらくすると、石から黒い靄が立ち昇り、人の形を取った。しかし、以前のような敵意はない。
『お前は…私を倒した者か』
「そうだ。お前は何者だ?」
『私はこの世界の“闇の記憶”。長い間、地下に封印されていた。しかし、マナの歪みで目を覚ました』
「闇の記憶?」
『この世界が生まれる前、混沌とした時代の名残。私は消えるべき存在だが、お前の力で形を保っている』
林帆は考え込んだ。消すこともできる。しかし、この“記憶”から何かを学べるかもしれない。
「教えてくれ。この世界の真実を」
『代償を支払え。私に、お前の記憶を少し分け与えよ』
林帆は一瞬迷ったが、うなずいた。右手の紋章から虹色の光を石に注ぐ。代わりに、自分の幼い頃の記憶がかすかに薄れた。母の顔が少しぼやける。
『よし。教えよう』
闇の記憶は語り始めた。
『この世界は、元々三つの力で成り立っていた。星の力、マナ、そして“根源の力”。しかし、ある大戦ですべてが壊れ、根源の力は砕け散り、この大陸の各地に封印された』
「根源の力…それがお前か?」
『私はその一片に過ぎない。完全な根源の力は、まだどこかで眠っている』
「どこだ?」
『北の果て、氷の山脈のさらに向こう。そこに“根源の神殿”がある。しかし、行くのは容易ではない』
闇の記憶がそこで消えた。石はただの石に戻った。
林帆は窓の外を見た。北の空は暗く、星が瞬いている。
「また北か…」
「行くの?」
ヨルが心配そうに尋ねる。
「ああ。でも、すぐじゃない。もっと準備が必要だ」
翌朝、彼は町長を訪ね、北への道の情報を求めた。
「北の果てだと? 昔、何人かの冒険者が行ったが、帰ってきた者はいない。やめておけ」
「それでも行く。何か役立つものはないか?」
町長は渋々ながら、古い地図と、氷の山脈で使える防寒具を出してきた。
「これを貸す。必ず返せよ」
「約束する」
林帆はヨルと共に、町を出る準備を始めた。食料、水、防寒具、そして黒い石。今回の旅は、これまで以上に過酷になるだろう。
出発の朝、町の人々が門まで見送りに来た。鉱山で助けた男もいる。
「気をつけて」
「ありがとう。必ず戻る」
二人は北へ向かって歩き出した。
空には一つの太陽。しかし、次第に雲が厚くなり、風が冷たくなる。
「また寒くなるね」
「大丈夫。今度は準備万端だ」
林帆は右手の紋章を見た。虹色の光が温かく、彼を包んでいる。
新しい旅が、また始まった。




