混ざり合う世界
門をくぐってから、すでに半日が経っていた。
草原はどこまでも続き、時折小さな森や川が現れる。空には一つの太陽。暖かいが、時折吹く風は冷たい。
「ここは…不思議な場所だ」
林帆は右手の紋章を見つめた。虹色の光は安定している。体内では三力循環とマナが混ざり合い、新しいバランスを作り出している。
「まるで…二つの世界の良いとこ取りみたい」
ヨルも月の護符を掲げる。護符は淡く輝き、この世界の光に馴染んでいる。
その時、遠くから馬の蹄の音。複数。
警戒して身構えると、現れたのは人間だった。鎧を着た騎手たち。国旗のようなものを掲げている。
「旅人か? ここは我々の領地だ。身分証を見せよ」
リーダーらしき男が鋭い目で睨む。
林帆は正直に答えた。「遠い国から来た。身分証はない」
「ふん…では、町まで同行してもらう」
断ることもできたが、無駄な争いは避けたかった。林帆はヨルと共に騎手たちに囲まれて歩き出した。
三十分ほど歩くと、石壁で囲まれた町が見えた。門には衛兵。中に入ると、石畳の道と木造の建物。しかし、所々に魔法のランプが灯っている。
「中世と魔法が混ざったような場所だな」
老怪が呟く。
役場に連行され、町長らしい男が待っていた。太った体、小さな目。
「お前たち、どこから来た?」
「星の海の向こうから」
町長は驚いた顔をしたが、すぐに笑顔になった。
「なるほど。ならば、この町で働かないか? 人手が足りなくてね」
「どんな仕事だ?」
「東の森に“魔石鉱山”がある。そこで採掘した魔石を、町に運んでほしい。報酬は出す」
林帆は少し考えた。この世界のことをもっと知るには、協力したほうがいい。
「分かった。引き受ける」
その日は町の宿に泊まった。ヨルは疲れてすぐに眠った。林帆は窓辺に立ち、星を見上げる。この世界の星は一つ一つが違う色。赤、青、黄、緑。
「新しい力…新しい試練か」
翌朝、町長から手渡された地図を頼りに、二人は東の森へ向かった。
森は深く、木々の間から陽の光が差し込む。空気は澄んでいる。
十分ほど歩くと、坑道の入り口が見えた。中は暗く、奥からかすかな光。
「ここか…」
入ろうとしたその時、坑道の中から轟音。何かが崩れる音。
間もなく、中から一人の男が飛び出してきた。ボロボロの服、血まみれの顔。
「た、助けてくれ! 中に化物が!」
「落ち着け。何があった?」
「魔石を採掘していたら、突然地面が割れて、黒い何かが出てきた。仲間はやられた…」
林帆は坑道の中を覗き込んだ。奥から黒い靄が立ち昇っている。
「歪みか…それとも別の何か」
「行くのか?」老怪が問う。
「見て見ぬふりはできない」
彼はヨルに外で待つように言い、一人で坑道に入った。右手の紋章で灯りを作る。
奥へ進むと、広い空間に出た。天井からは鍾乳石。床には無数の魔石の欠片。そして中央に、黒い塊。不定形。脈動している。
「これは…歪みの精霊とは違う。もっと古い何かだ」
黒い塊が形を取り始めた。人の形。しかし、目はなく、全身から黒い靄。
「お前…力を持っているな」
塊が話しかけてきた。低く、響く声。
「よこせ。その力を」
林帆は構えた。
「やれるもなら、やってみろ」
彼は両手から虹色の光を放った。光が塊を包み込む。しかし、以前の歪みと違い、消えない。
「効かない…!」
「この程度か」
塊が触手を伸ばし、林帆の足を絡め取る。動けない。
その時、背後からヨルの声。
「林帆さん!」
彼女が駆け寄り、月の護符を掲げた。護符の光が塊に当たり、塊が怯む。
「今だ!」
林帆は全ての力を右手に集中し、塊の中心めがけて拳を叩き込んだ。虹色の光が爆発し、塊は霧散する。
代わりに、小さな黒い石が地面に転がった。
「終わった…のか?」
「うん。ありがとう、ヨル」
「お礼を言うのは私の方。あなたが来てくれなかったら、私もやられてたから」
ヨルは微笑んだ。
坑道を出ると、外はもう夕暮れ。生き残った男が震えながら待っていた。
「ありがとう…もう二度とあそこには近づかない」
「それがいい」
林帆は黒い石を拾い上げた。これもまた、何かの力の一片だろう。
町に戻り、町長に報告すると、報酬の銀貨を受け取った。
「これで少しはこの世界での生活が楽になる」
彼は窓から外を見た。星がまたたいている。
旅はまだ続く。しかし、今日はゆっくり休もう。
そう思って、彼は目を閉じた。




