新たなる門出
港町での最後の朝。
林帆とヨルはエルフの里に戻り、エルドランに報告した。すべての歪みを修復したこと、根源が灯台にあったこと。
「ご苦労だった。これでこの大陸のマナは安定するだろう」
エルドランは深く頭を下げた。そして、古びた巻物を林帆に手渡す。
「これは星の海の地図だ。君たちが渡ってきた方向だけではない。この大陸にも、別の世界へ通じる“門”がある」
「門?」
「かつて、星の海を渡らずとも、世界と世界を繋ぐ道があった。しかし、長い間使われていない。君ならその門を開けることができるかもしれない」
林帆は地図を見た。大陸の中央、大きな湖のほとりに門の印。
「そこへ行けば、新しい世界に渡れるのか?」
「ああ。ただし、門の向こうがどこに繋がっているかは分からん。危険も伴う」
林帆はヨルを見た。彼女は少し迷ったが、うなずいた。
「行ってみよう。まだまだ見たい世界があるから」
二人はエルフの里を後にし、中央の湖へ向かった。道中、何度かマナ喰いに襲われたが、林帆の新しい力で難なく撃退する。
三日後、大きな湖が見えた。水は青く澄み、周囲には花が咲き乱れている。
湖のほとりに、古びた石の門。二本の柱が立ち、間に歪んだ空間。
「これが…門か」
近づくと、門の表面に無数の文字。星の文字とマナの文字が混ざっている。
「どうやって開ける?」
「紋章をかざせ。お前の力なら、反応する」
老怪の助言に従い、林帆は右手を門にかざした。虹色の光が放たれ、門の文字が一つひとつ輝き出す。
がごん。
門の中央に、光の渦が生まれた。向こう側が見える。草原、そして空には一つだけの太陽。
「あれは…俺が最初にいた世界とは違う。でも、どこか懐かしい」
「行くのか?」
「行く」
林帆はヨルの手を引き、光の渦へ足を踏み入れた。
体が軽くなり、景色が歪む。数秒の浮遊感の後、彼らは新しい地面に立っていた。
そこは見渡す限りの草原。風は暖かく、花の香り。
空には一つだけの太陽。二つの月ではない。
「ここは…」
「星の力もマナも感じる。両方の世界が混ざっている場所だ」
老怪が説明する。
林帆は右手の紋章を見た。虹色の光は変わらず輝いている。
「また新しい旅の始まりだな」
ヨルが隣で微笑む。
「どこへ行くの?」
「まずは、この世界がどんなところか知ることから」
彼は歩き出した。草をかき分け、新しい大地へ。
背後では、門の光が静かに消えている。もう戻れないかもしれない。でも、それでいい。
まだ見ぬ世界。まだ見ぬ出会い。
すべてが待っている。
彼の長い旅は、まだ終わらない。




