エルフの里
マナ結晶を手に入れてから三日。
林帆は毎日、訓練場でレリスと手合わせを繰り返した。マナの扱いもずっと慣れ、今では武器なしでもエルフの戦士と互角に戦える。
「そろそろ次の段階に行こう」
エルリリアが言う。「この町のさらに奥に、エルフの里がある。そこで古の知識を学ぶことができる」
「ぜひお願いします」
エルリリアに案内され、林帆とヨルは町の北門から出た。道は次第に山道へと変わり、両側には古い木々。
一時間ほど歩くと、視界が開けた。そこには、木の上に建てられた家々。階段や吊り橋で繋がれている。
「ここが…エルフの里」
「歓迎する、旅人よ」
声の主は、白い長髪の老エルフ。杖をつき、ゆっくりと近づく。
「私は里長のエルドラン。あなたが星の海を越えてきた者か」
「はい。林帆です」
「あなたの手の紋章…見せてくれ」
林帆が右手を差し出すと、エルドランは杖で紋章を軽く叩いた。紋章が虹色に輝く。
「これは…星の力とマナが融合している。珍しい。いや、初めて見た」
エルドランは二人を里の中へ招いた。一番大きな木の家。中は広く、壁には無数の書物。
「この世界のマナは、二つの月から来る。しかし、あなたの世界の星の力もまた、この世界に影響を与えている」
「どういうことですか?」
「星の海は、この世界とあなたの世界を繋ぐ境界。あなたが来たことで、そのバランスが少し変わった」
エルドランは地図を広げた。そこには、この大陸の全体像と、幾つかの光るポイント。
「これらは“マナの歪み”が発生している場所。このまま放置すれば、世界のバランスが崩れる」
「それを修復してほしいと?」
「そうだ。あなたなら、星の力とマナの両方を使える。この仕事に適している」
林帆は少し考えて、うなずいた。
「引き受けます。ただし、ヨルも連れて行きます」
「構わない。ただし、危険な場所もある。無理はするな」
エルドランは小さなコンパスを林帆に渡した。針は歪みの方向を示している。
「これを使って。最初の歪みは、ここから南東の“古代遺跡”の中にある」
その夜、林帆はヨルと一緒にエルフの家で泊まった。木の温もりが心地よい。
「ねえ、また戦いに行くの?」
「そうなる。でも、今回は無茶はしない。約束する」
ヨルは少し寂しそうな顔をしたが、うなずいた。
翌朝、二人はエルフの里を後にした。コンパスの針は南東を示している。
道中、時折エルフの狩人たちとすれ違う。彼らは皆、林帆の紋章を見て驚いた顔をする。
三十分ほど歩くと、古びた石の門が見えた。周囲には草が生い茂り、半分埋もれている。
「ここが古代遺跡か」
門をくぐると、中は暗い。しかし、天井の割れ目から光が差し込み、幻想的な雰囲気。
コンパスの針が震え始めた。歪みは近い。
奥へ進むと、広い空間に出た。中央に、黒い球体が浮かんでいる。周囲のマナを吸い込んでいるようだ。
「あれが…歪みの正体か」
林帆は右手をかざし、虹色の光を放った。光が球体を包み込み、徐々に小さくなっていく。
最後の一瞬、球体から黒い煙が噴き出し、人の形を取った。
「お前が…私を消そうとしているのか」
歪みの精霊。低い声。
「世界のバランスを守るために」
「ふん…やってみろ」
精霊が襲いかかる。林帆はマナと星の力を同時に使い、光の盾で防ぐ。
「これで…」
彼は両手を合わせ、全ての力を一気に放った。虹色の光の柱が精霊を貫く。
精霊は叫び声を上げ、光の中に消えた。
歪みが修復された。世界のバランスが、少し戻った。
「これで一つ目か」
コンパスは次の歪みを指している。西。
旅はまだ続く。




