マナの実践
マナ喰いの襲撃から二日。
林帆は毎朝、広場でマナの呼吸法を続けている。右手の星紋章は変わらず輝き、体内の三力循環とマナが少しずつ調和し始めている。
「試しに、マナだけで戦ってみるか」
彼は町の外れにある訓練場へ向かった。そこにはエルフの戦士たちが練習している。
「手合わせ願えるか?」
一人の若いエルフが相手になってくれた。名前はレリス。細身の長剣を扱う。
「星の海の向こうから来たんだって? 面白い、やってみよう」
レリスが構える。林帆は武器を使わず、素手でマナを掌に集める。
「来い」
レリスが踏み込む。長剣が風を切る。林帆はマナの盾を瞬時に作り、剣を受け止めた。ガンッという金属音。
「なにっ?」
その隙に、彼はもう一方の手でマナの弾を放つ。レリスは後ろに跳んでかわすが、体勢を崩す。
「そこだ」
林帆はさらに間合いを詰め、マナを纏った拳をレリスの目前で止めた。
「参った」
レリスは笑って降参した。
「すごいな。たった数日でそこまで扱えるなんて」
「まだまだだ。力加減が難しい」
その時、エルリリアが訓練場に現れた。
「二人とも、ちょうどいいところに。町の東の森で、最近大きなマナ喰いが出るという報告があった。調査を頼めるか?」
「行きます」
林帆はヨルを連れて、レリスと一緒に東の森へ向かった。
森は深く、木々の間からわずかに光が差し込む。マナの濃度が高いのか、空気がひんやりとしている。
「ここは…」
「古の戦場だった場所だ。今は魔物が住み着いている」
レリスが警戒しながら進む。
十分ほど歩いたとき、突然地面が揺れた。巨大な影が木々の間から現れる。
体長は五メートル。黒い体に、赤い三つの目。口からはマナの残り香が漏れている。
「デカいマナ喰いだ…」
レリスが剣を構える。林帆も右手から星の光を放とうとするが、エルリリアから「できればマナだけで倒してほしい」と言われている。
「やってみる」
彼は両手にマナを集め、巨大なマナ喰いに向けて放った。光の束が魔物の体を貫く。しかし、傷は浅い。
「効き目が足りない!」
マナ喰いが触手を振り回す。林帆はかわしながら、今度は自分の体にマナを纏わせた。全身が淡く輝く。
「これで…」
彼はマナ喰いに飛びかかり、拳を叩き込んだ。一撃、二撃、三撃。マナを纏った拳は、魔物の体を確実に削っていく。
「ぐおおお!」
マナ喰いが最後の咆哮を上げ、黒い霧となって消えた。代わりに、小さな紫色の宝石が地面に落ちる。
「マナ結晶だ。これは貴重な素材になる」
レリスが拾い上げ、林帆に渡す。
「これを使って、もっと強くなれる」
「ありがとう」
その夜、町に戻った林帆は、マナ結晶を調べた。触れると温かく、体内のマナが呼応する。
「これを埋め込めば、武器がさらに強化できる」
「でも、もう武器は持っていない」
「お前の体が武器だ。紋章に嵌め込め」
林帆は右手の星紋章にマナ結晶を押し当てた。結晶が光り、紋章に吸収される。
紋章の色が変わった。金色から、虹色に。
「これで…マナも星の力も、両方使える」
彼は拳を握りしめた。新しい力が全身を巡る。
明日からは、さらに深い場所へ行こう。この世界の謎を解くために。
二つの月が、彼を見守っている。




