マナとの出会い
エルリリアに案内された宿は、木と石の温かみのある建物だった。部屋からは二つの月が見える。ヨルは珍しそうに窓辺に座り、青い月と赤い月を交互に眺めている。
「きれい…」
「ああ。でも、あれがこの世界の力の源かもしれない」
林帆は右手の星紋章を撫でた。紋章は変わらず輝いているが、以前よりも少しだけ温かい気がする。
翌朝、エルリリアが宿を訪ね、町の広場に連れて行った。広場の中央には、大きな水晶の柱。周囲には数人のエルフが座り込み、手をかざしている。
「これは“マナの泉”。この世界のマナを集め、町全体に供給している」
「マナはどこから来るの?」
「二つの月から。青い月は“知恵のマナ”、赤い月は“力のマナ”。両方のバランスが大切だ」
エルリリアは林帆に、水晶に触れてみるように促した。
彼が手をかざすと、水晶の中に渦が生まれ、三色の光――赤、青、黄――が混ざり合う。
「やはりあなたの力は特殊だ。一般的なマナ使いは一色か二色。三色は珍しい」
「これをどうやって自分のものにすれば?」
「まずは呼吸だ。マナは空気中に満ちている。吸って、吐いて、その流れを感じてみて」
林帆は目を閉じ、深呼吸をした。何度も。最初は何も感じなかったが、やがてかすかな甘い匂いのようなものが鼻を通る。
「感じた…気がする」
「その感覚を大事に。毎日続ければ、自然とマナが体に馴染む」
その日から、林帆は毎朝広場でマナの呼吸法を練習した。ヨルも一緒にやる。
三日目、彼の掌に小さな光の玉が浮かんだ。五色ではない。透明に近いが、かすかに虹色に輝く。
「面白い。あなたのマナは、三色が混ざり合って新しい色を生み出している」
エルリリアは感心したように言う。
七日目、林帆はマナを使って空中に星の形を描けるようになった。ヨルはまだ小さな光の粒しか出せないが、確実に進歩している。
その夜、町の外から悲鳴が聞こえた。
林帆が外に飛び出すと、門の前で衛兵が何かと戦っている。影のような生き物。体は黒く、不定形。
「影鬼に似ているが…違う」
「それは“マナ喰い”。マナを食べて生きる魔物だ。弱いが、数が多い」
老怪の説明に、林帆は右手の紋章から星の光を放った。光がマナ喰いに当たり、影は悲鳴を上げて消える。
「あなた…その力はこの世界のものではないのに、よく効くね」
エルリリアが驚いた顔で近づく。
「星の力は、どこでも通用するのかもしれない」
林帆はそう答え、残りのマナ喰いを片付けた。
その夜、彼は窓辺に立ち、二つの月を見上げた。星の力も、マナも、どちらも必要なのだろう。
この世界での生活はまだ始まったばかり。
ゆっくり、でも確実に、自分のものにしていく。




