星の海の向こう
光の渦に飲み込まれた瞬間、時間と空間の感覚が消えた。
どれだけ経ったのか。一瞬なのか、永遠なのか。林帆はただ、自分の手を握るヨルの温もりだけを頼りにしていた。
気づくと、彼らは見知らぬ場所に立っていた。
そこは――緑あふれる草原。空には大きな月が二つ。一つは青く、一つは赤い。光の加減で、昼にも夜にも見える不思議な明るさ。
「ここは…」
「星の海の向こう側…新しい世界だ」
老怪の声が響く。
林帆は右手の甲の星紋章を見た。紋章は輝いている。問題ない。
ヨルも無事だった。月の護符は以前より強く輝いている。この世界の月の力が作用しているのか。
「まずは周囲を探ろう」
二人は歩き出した。草は柔らかく、風は暖かい。魔獣の気配はない。しかし、どこか人工的な感じがする。
十分ほど歩いたとき、視界の先に町が見えた。白い壁、丸い屋根。今まで見たどの建築様式とも違う。
町の門には衛兵が立っている。しかし人間ではない。耳が長く、肌は淡い緑色。
「エルフだ…この世界にはエルフがいるのか」
林帆が近づくと、衛兵が鋭い目で睨む。
「旅人か? 身分証は?」
「持っていません。向こうの大陸から来ました」
「向こうの大陸…星の海を越えてきたというのか?」
衛兵は驚き、すぐに上官を呼びに行った。しばらくして、白いローブの女エルフが現れた。金色の長い髪、紫色の瞳。
「私はこの町の長、エルリリア。星の海を越えてきたのは、あなたが初めてではないが、珍しい」
「星の海を越えた者が他にも?」
「過去に数人。しかし、みんなすぐにこの世界に適応できず、戻っていった」
エルリリアは二人を町の中へ案内した。町は清潔で、建物は木と石でできている。所々に噴水。
「この世界では、一般的な力は通用しない。特別な“マナ”という力を使う。あなたたちにも扱えるか試してみよう」
彼女は林帆に小さな水晶を渡した。
「これに触れて、自分の力を流し込んでみて」
林帆は水晶を握り、三力を流し込んだ。水晶が輝く。赤、青、黄の三色。
「おや…三つの力を同時に? 珍しい。それに、あなたの体には星の力も宿っているね」
「この世界にも星の力はあるのか?」
「ある。ただし、こちらの星はあちらとは違う。まずはゆっくり休みなさい。新しい力に慣れるまで、ここにいていい」
林帆は礼を言い、エルリリアに案内された宿で休むことにした。
窓から見える二つの月。一つは青、一つは赤。
新しい世界には、新しいルールがある。星の力も、三力も、通用するかもしれないが、それだけでは足りない。
「マナ…この世界の力か」
彼は右手の紋章を見つめながら、新しい旅の始まりに思いを馳せた。
まだまだ、知らないことだらけだ。
しかし、それでいい。
一歩ずつ、前に進もう。




