最終試練・記憶の迷宮
意識が戻ったとき、林帆は見知らぬ場所に立っていた。
そこは無限に続く白い空間。床も壁も天井もない。ただ、自分の体と、目の前に浮かぶ無数の光の玉だけ。
「ここは…」
『これはお前の記憶の世界だ』
女戦士の声が響く。
『これから、お前の人生で最も重要な瞬間を辿る。それぞれの記憶を正しく理解し、受け入れよ。拒否すれば、永遠にここから出られない』
最初の光の玉が彼の前に浮かび、膨らむ。
中には、幼い自分。両親と一緒に食事をしている。父の笑顔、母の優しい声。
『お前は、この記憶をどう思う?』
「…幸せだった。でも、もう戻れない」
『過去に執着しないのだな。よし』
玉は消え、次の玉が現れる。
今度は、父が死んだ日の記憶。少年の林帆が、父の遺体の前で泣いている。
『この記憶は?』
「辛い。でも、あの日があったから今の自分がある」
『受け入れたか。次』
次々と玉が現れる。母の死、路頭に迷う日々、洞窟での孤独な修行。初めて魔獣を殺した日。老怪との出会い。ヨルを助けた日。
全ての記憶が、彼の前を通り過ぎていく。
最後の玉。それは――自分の誕生の瞬間。
『これが最も古い記憶だ。お前はこの世界に生まれた意味を理解しているか?』
林帆はしばらく考えた。
「分からない。でも、今ここにいる。それだけで十分だ」
『立派だ』
全ての玉が消え、白い空間に一筋の光が差し込む。
『これで最終試練は終わった。お前は、真の星の使い手だ』
気づくと、彼は元の石版の前に立っていた。手を離している。周囲の星の像が一斉に輝き、彼に祝福の光を送る。
「終わったのか?」
「うん。おかえり」
ヨルが駆け寄り、彼の腕を掴む。目には涙。
「どのくらい経った?」
「一分も経ってないよ。でも、すごく長く感じた」
林帆は石版を見下ろした。そこには新たな文字が刻まれている。
『星輝の槍・完全体。これを使い、世界を照らせ』
槍が手の中から離れ、空中で一回転した。そして、光の粒となり、彼の体内に吸収される。
「なにっ!」
『これからは、お前の体が槍だ。意識すればいつでも星の力を放てる』
女戦士の声が最後に告げる。
『さようなら、新しい継承者よ』
光が収まったとき、林帆の右手の甲にはかすかな星の紋章。
「これが…新しい力」
彼は拳を握った。体中に星の力が満ちている。
「さあ、行こう。まだ旅は続く」
ヨルと手を繋ぎ、門を出る。外はもう朝日が昇っていた。
槍はもうない。しかし、彼の内に永遠に生き続ける。
北へ、さらに北へ。まだ見ぬ世界を目指して。
二人の影が、新しい朝に伸びる。




