闇の商館
ガルムの家を出てから二日。
林帆とヨルは、ようやく街へ辿り着いた。街の名は「星影の街」。石畳の道、木造の建物が立ち並び、所々に星の紋章が飾られている。
「ここが…次の目的地か」
槍は街の中央を指している。その先には、一際大きな建物。黒い石造りで、窓はなく、入り口には鉄の扉。扉の上には『闇の商館』と彫られていた。
「ここか」
林帆が扉を押すと、重い音を立てて開いた。中は薄暗く、長いカウンター。カウンターの向こうに、仮面をかぶった男。
「いらっしゃい。何をお探しですか?」
「情報を。この街の周辺で、変わったことはないか?」
男はしばらく黙った後、指で机をトントンと叩いた。
「代償は?」
「金で足りるか?」
「金は要らない。情報で情報を買う。お前が知っている面白い話を一つ」
林帆は少し考えて、星の神殿での出来事を簡潔に話した。仮面の男は興味深そうに聞いていた。
「なるほど。それならば、一つ教えよう。この街の北にある“廃坑”に、最近奇妙な光が現れる。夜になると、青白く光るんだ。噂では、古代の遺物が眠っているらしい」
「廃坑…」
「ただし、そこには毒気が溜まっている。一般人は近づけない」
林帆はうなずき、カウンターを離れた。その時、背後から別の声。
「おい、その槍…どこで手に入れた?」
振り返ると、大柄な男が立っている。全身に傷跡。目つきが鋭い。
「関係ない」
「答えろ!」
男が掴みかかろうとした瞬間、林帆は槍の柄で男の手を叩き落とした。
「手を出すな」
「ちっ…」
男は舌打ちして去っていった。仮面の男が小声で言う。
「あれは賞金稼ぎだ。お前の槍を狙っている連中がいる。気をつけろ」
「分かった」
林帆はヨルを連れて商館を出た。
「さあ、廃坑へ行こう」
「でも、さっきの人…」
「構うな。先を急ぐ」
二人は街の北門へ向かった。門を出ると、荒れ果てた道。両側には枯れ木。
十分ほど歩くと、ぽっかりと口を開けた坑道。入り口には『立入禁止』の看板。
「ここか」
彼が中に入ると、むっとした空気。かすかに腐った卵のような匂い。
「毒気だ。マスクを作れ」
林帆は服を裂き、水で濡らして口と鼻を覆った。ヨルにも同じようにさせる。
奥へ進むと、視界が開けた。大きな空洞。天井からは鍾乳石。床には青白く光る石。
「これが…」
近づこうとしたその時、足元の石が突然光り、目の前に幻影が現れた。
それは――自分の姿。しかし、目は血走り、口からは黒い靄。
「お前は…」
「また会ったな。今度こそ消えてくれる」
幻影が襲いかかる。林帆は槍を構えた。
「同じ手は通じない!」
彼は槍を振りかざし、星の光を放った。光が幻影を貫き、黒い靄は霧散する。
代わりに床に、小さな宝石が落ちていた。
「星の涙…こんなものが本当にあったのか」
老怪が驚いた声を上げる。
「これを武器に埋め込めば、さらに力が増す」
林帆は宝石を拾い上げ、槍の柄に嵌めた。槍が黄金から白金に変わる。
「これでまた一段階上の力だ」
彼はヨルを連れて坑道を出た。外はもう夕暮れ。
次の目的地は、槍が示す北の彼方。まだ見ぬ世界が待っている。
羅針盤はもういらない。槍が全てを教えてくれる。
二人の影が夕日に長く伸びる。旅はまだ終わらない。




