槍の導き
星の神殿を出てから三日。
銀色の槍は、まるで生きているかのように、常に一定の方角を示し続けている。北東。羅針盤はもう役に立たない。槍が全てを教えてくれる。
道中、鬱蒼とした森を抜け、小川を渡り、小さな丘を越えた。ヨルは疲れた顔を見せながらも、文句一つ言わずについてくる。
「そろそろ休もう」
林帆が岩陰に腰を下ろすと、ヨルも隣に座った。彼女は月の護符を握りしめ、温かい光で体を癒す。
「ねえ、槍はどこへ連れて行こうとしてるの?」
「分からない。でも、きっと意味がある」
彼が槍の柄を撫でると、穂先がかすかに震え、星の光を放った。
その時、遠くから馬の蹄の音。複数。
林帆は身構え、槍を構えた。現れたのは、五人の騎手。全員が黒い甲冑をまとい、顔は覆面で隠している。
「お前たち、この辺りで何か変わったものを見かけなかったか?」
リーダーらしき男が尋ねる。
「何も」
「ふん…その槍、どこで手に入れた?」
「知らない」
林帆は素っ気なく答えた。男はしばらく睨んでいたが、やがて馬を走らせて去っていった。
「今のは…」
「追手かもしれない。この槍を欲しがっている者がいる」
老怪の警告に、林帆は槍を布で包み、背中に隠した。
それからさらに半日。森は終わり、今度は荒地が広がっている。赤茶けた地面。所々に枯れ木。
中央に、ぽつんと一軒の家。石造りで、古びているが、煙突からは煙。
「誰か住んでいるのか?」
近づくと、ドアが開き、白いローブの男が出てきた。顔は険しく、目は鋭い。
「旅人か? ここは立ち入り禁止だ。引き返せ」
「通りたいだけです。道を阻むつもりはありません」
「この先には“星の試練”がある。簡単に通れる場所じゃない」
男は林帆の背中の布包みを見て、目を細めた。
「その槍…まさか“星輝の槍”か?」
「ご存じで?」
「昔、俺もそれを探していた。だが、諦めた。代償が大きすぎる」
男はため息をつき、ドアを押し開けた。
「中に入れ。話を聞かせろ」
林帆はヨルと一緒に中に入った。家の中は温かく、焚き火が燃えている。壁には無数の星図。
「俺はガルム。かつて星の力を追い求めた修行者だ。だが、ある日、弟子を失った。試練の途中でな」
「だから諦めたんですか?」
「そうだ。あの槍は、持つ者に試練を課す。それを乗り越えられなければ、命を落とす」
林帆は槍の布を解き、ガルムに見せた。
「それでも俺は行く。ここまで来たから」
ガルムは長い間黙っていたが、やがて頷いた。
「ならば教えよう。この先の“星の谷”に、最後の試練がある。そこで槍の真の力が目覚める。ただし、一人で行け。彼女は連れて行くな」
「なぜ?」
「谷の中は星力が渦巻いている。未熟な者が入れば、体が持たない」
林帆はヨルを見た。彼女は唇を噛みしめ、小さくうなずいた。
「行ってきなさい。わたしはここで待ってる」
「分かった。必ず戻る」
彼は槍を背負い、ガルムに案内されて家を出た。谷への入り口は、家の裏手にあった。
岩の裂け目。中は青白い光で満ちている。
「これが…星の谷」
一歩踏み入れると、体が軽くなった。まるで重力が消えたかのよう。
しかし同時に、強いプレッシャーがのしかかる。心臓が早鐘を打つ。
奥へ進むと、開けた場所に出た。中央に、星の形をした台座。その上に、槍を置くための凹み。
「ここに…」
彼が槍を台座に置いた瞬間、周囲の星の光が爆発的に輝き、全てを飲み込んだ。




